ネット選挙解禁で再認識すべきはマスメディアの力
―― これまで内山さんにとってはいろんなターニングポイントがあったわけですが、今回のネット選挙解禁もそのひとつというか、今まで自分がやってきたこととつながったなと感じていますか?
内山 そうですね。ずっと人間の知恵をいかに社会全体で共有し、社会全体に返すかという社会インフラをつくりたかった。僕たちはまず、マーケティングの分野からスタートしましたが、企業のマーケティング部門で消費者の声を聞いて、その声をもとに商品や宣伝を変えることでお客様に返す。ここでの知識循環はBtoBtoCというかたちで、個々の企業を通じてしか動かなかった。

でも、いまソーシャル分析が、国民の声を聞いて、国を変えて、国民に返すという、より大きな社会全体の知識インフラとして採用されつつある。これは「きたぜー!」っていう感じでしたよ。もともとねらってましたけどね。
―― ネット選挙解禁となったいま、ホットリンクとして政党や団体と協力して何かをやっていこうとしているのでしょうか?
内山 ネット選挙解禁になると、政党や議員さんがまず最初に思うのは、ツイッターやFacebookでなにか発信すれば投票してくれるんじゃないかということ。でも、それはありえないと思っていて。
―― ありえないですか?
内山 ありえないです。だって、たとえば実際に自分の選挙区の候補者のツイッターをフォローします? 全員分。
―― 全部は無理かも。気になる候補者2~3人くらいまでならできるかもしれませんが。
内山 おそらく一般の人のほとんどはまったく興味ないか、あるいは「投票したい」「応援したい」という人をフォローする。つまり、ソーシャルはすでに支持している人との絆を深めるためのツールであって、そこでつぶやいても、支持してない人たちには届かないんです。だから、情報発信においてマスメディアの力ってすごく大きい。やっぱりテレビに出ない人の得票数は、よほど基盤がしっかりしていないと伸びないんです。
―― では、みんなネット選挙について勘違いしていると。
内山 ネット選挙解禁になって、ブログやTwitterで情報発信したからといって大きな効果を上げられるわけではないんです。マスメディアで発信する。それに対して国民がどう言っているのかをリアルタイムで把握する。そして、昨日の国会答弁で言ったことのここが非難されているから、翌日の記者会見で「ここは実はこういう意図だったんです」という補足説明をしたりとか、ソーシャルを使ってマスメディアの戦略を変えるということに使うのが本当は一番レバレッジがきくんです。
―― ソーシャルは情報発信だけでなく、傾聴にも使えることを忘れてました。
内山 これまでマスコミの情報は一方通行だと思われていたけれど、今はマスコミで発信した情報がソーシャルを通じて返ってくる。マスコミを通じたインタラクティブなコミュニケーションが始まるんです。僕はこれを「インタラクティブ・マスコミュニケーション」と呼んでいます。でも、ちょっと長いなぁと思って、高広(伯彦)さんに相談して、「オープン・ダイアログ」と名付けていただきました。今回のネット選挙は、このオープン・ダイアログに長けた政党が勝つと考えています。