デジタル革命はメディアおよびマーケティングに変革をもたらす
今年のInteractでは数多くキーノートスピーカーが登壇したが、その内の2名はソーシャルメディア関連のスピーカーだった。その内容はソーシャルメディアをいかに活用するのかという文脈ではなく、企業が消費者とAuthentic(真性な、本物の)関係を構築しようと思った時、どのようにソーシャルメディアと、ソーシャルな社会と向き合うべきかという内容であった。初日に登壇したのは、MediaPostやGardianに定期連載を持ち、米国メディア業界で著名なコラムニストのBob Garfield氏。
最近出版された『Can’t buy me like』という本では、“Relationship Era”(こちらの記事を参照)の項目で、消費者との関係構築がどのように企業収益に貢献するのかを提示している。
Bob氏はメディア環境の変化について次のような見解を示す。「既知のことだが、いまだに単純な広告の大量投下で消費者の興味、関心を引こうとしたり、エンターテインメント性に走ったり、バズを狙っているとしたら、根本的な間違いを犯しているとしか言いようがない。産業革命は規模の経済をもたらし世界に変革をもらたしたが、デジタル革命はメディアのスケールを破壊し、マーケティングに変革をもたらしている」
今よりも 29%も米国人口が少なかった1979年、最も視聴率の高い番組は4,000万人へリーチしていたという。一方2012年は視聴率トップ5の番組合計でも3,000万人弱へのリーチとなり、CMスキップの影響も考慮すると、最大でも2,000万人にしかリーチできないと認識されているとのこと。
300年のマーケティングの歴史において、何よりも重視されてきたのはリーチだ。しかし、今はターゲットの細分化があまりにも進んでしまった。
「動画」というカテゴリーで考えたとしても、Hulu、YouTube、Netflix…あまりにも多くの選択肢が消費者に示されている。「マス」の最大の敵は「世界の細分化」だが、既に勝負はついているのだ。
そして、あらゆる情報の透明性が高まり、アクティブな情報発信を行う消費者が登場したことで、企業は新しいチャレンジを求められているという。中国の列車事故で共産党政府が情報をコントロールしようとしたが、携帯カメラで撮影された写真はソーシャル上ですぐに拡散してしまった。アバクロCEOのクールキッズ発言はYouTube上で非難の動画が拡がってしまい、ブランドイメージを破壊した。
現代社会において、企業はマーケティングでイメージをコントロールできない。以前の消費者調査では、製品選択の基準としては常に上位から品質、製品、サービスの順番で、全回答の80%以上のシェアを持っていたが、現在はまったく違く結果になっているとBob氏は指摘する。
「今では1位が企業活動の透明性となり、品質は3位まで落ちている。企業はストーリーではなく、実際の企業活動としての行動を示した上でブランドを作る必要があるのだ」
持続的な関係性を築いたブランドは平均で1,646%の株価上昇を実現
続いてBob氏は横軸にTransaction(取引)、縦軸にTrust(信頼)を置いたBrand Sustainability Mapを示し、右上のSustainable Relationshipのエリアに位置するブランドがどのような収益パフォーマンスを上げているかを紹介した。
このマップは、ブランドへの好感度と実際に購買行動に結びついたかどうかの調査データに基づいた指標である。
2006年から2012年にかけてアメリカ合衆国の投資情報会社であるスタンダード・アンド・プアーズ社発表のインデックスが平均で157%上昇する中、Sustainable Relationship(持続的な関係性)を築いたブランドは平均で1,646%の株価上昇を実現した。
代表的な企業としてはアップル、サウスウエスト航空、アマゾン、サブウェイ、USAAなど。何故このような大差がついたのだろうか。
最後にBob氏は「全てが繋がった世界では、ポジティブな情報も拡がり、消費者側からの自発的な情報拡散により信用が形成されることで強固なブランドが成立し、多少の価格差や、もしくは品質の問題すら乗り越える。最終的には企業収益への大きな影響がでてくる」とし、講演を締めくくった。