ブランドとアーティストが価値を共創するアプローチ
アルバムは正式発売後、米国や英国などでチャート1位を獲得、初週だけで50万枚以上が購入されるという成功を収めます。一方サムスンは、話題の拡散、ターゲットの関心喚起の醸成とユニークなリーチを実現しました。
サムスンとジェイ・Zは、話題拡散と製品購入を自分たちが(アルバムリリース前に)一度もメディアの前に出ることなく成功させたのです。
サムスンはこのプロジェクトにおいて、ビジョンを共有するアーティストと成功価値を共創した企業として、ブランド・パートナーシップの成功事例を作りました。またこの取り組みは、企業とアーティストが連携しメディアや技術を駆使することで、消費者を喜ばせる新しい手法を創出できるという可能性を示してくれました。
ブランド・パートナーシップを推進する企業例
サムスンの他にも、企業とアーティストが融合したブランド・パートナーシップによるマーケティング手法には、世界的な企業が注目しています。
積極的に取り組んでいる企業としては、ペプシとビヨンセ、ダイエット・コークとテイラー・スウィフト、インテルとWill.i.amなどがあります。
アーティストのクリエイティブとコンテンツ、消費者へリーチする影響力と、企業のマーケティング力やテクノロジーが連携し、成功を共創するアプローチが、今後は広告やタイアップに変わるマーケティング手法として、世界各地で拡大すると予想されます。
日本で実現は可能?
気になるのは「果たしてこのブランド・パートナーシップを活用したマーケティング活動を、日本企業が日本市場で実施することができるか?」という疑問です。この質問に対して筆者は実現可能だと考えています。
その理由は2つあります。ひとつは日本には国内・世界で認知度の高いブランドが既に存在すること。もうひとつは、日本が世界でもトップレベルの音楽市場であること、そして優れたアーティストやプロデューサーが存在することです。
一方で実現するために解決しなければならない課題も多く存在しています。そのひとつは、話題を拡散するメディアの存在です。サムスンとジェイ・Zの音楽マーケティングの話題は、主要音楽メディア以外にも、TechCrunchなどのテクノロジーメディア、そしてUSA Today、Businessweek、Forbesなど、一般向けから専門メディアまで多様なメディアが連日カバーし、話題拡散の最大化に貢献していました。芸能界の話題がスポーツ紙だけで大きく取り扱われるような現在の日本のメディア環境で、同じような情報の拡散は期待できません。適切なターゲット層に情報を届けられるメディアの重要性が今後は問われるでしょう。
そして実現に向けて最も期待したいのは、企業とアーティストを結ぶIT業界の躍進です。今後は、ただソーシャルメディアでバズ(ツイートやいいね!)を最大化させるような狭いアプローチでは、企業の目的を達成することはできません。ITの活用こそが、消費者に最適なコンテンツを提供できる環境を作ることができると信じています。
「ブランド・パートナーシップ」は、デジタル、ソーシャル、モバイルを組み合わせ、アーティストのクリエイティブ性で話題を作り人やメディアを動かす、新しいマーケティング戦略のひとつと言えます。今後ブランド・パートナーシップを選択するビジネスが増えていってくれることに期待したいです。