iTunesストアでデジタル音楽の売上がはじめて減少
昨年は、この連載を読んで頂きありがとうございました。今年も世界の先進的な音楽ビジネスのトレンドをご紹介していきますので、何卒よろしくお願い致します。
いきなりですが、あまり良くないニュースから始めたいと思います。先日、2013年アメリカの音楽売上データが発表されました。その内容はCDなどフィジカルが継続して減少する一方で、iTunesストアが始まって以来、初めてデジタル音楽の売上が減少するというショッキングな結果となりました。デジタルダウンロード売上が振るわなかった原因のひとつに挙げられているのは、音楽ストリーミングサービスの人気です。
ここ最近、日本でも月額料金を支払うと楽曲が聴き放題になる音楽サービス「Spotify」の話題をオンラインニュースなどで目にする機会が増え、定額制の音楽サービスへの期待が高まっていると言えます。さらに2月に開催される「Social Media Week TOKYO」でもSpotifyが基調講演を行う予定となっており、Spotifyも日本でのローンチに向けて着々と準備に入っていることがうかがえます。
このように、音楽ストリーミングは今後大きく拡大する可能性を秘めている領域で、海外ではこの好機を見逃すまいと多くの企業が参入し始めています。そして今月、2年以上の開発期間を経て満を持して開始したサービスがあります。それが「Beats Music」です。
音楽ビジネスの常識を破り続けるヘッドフォンメーカー
Beats Musicを運営するのは、Beats Electronicsというオーディオメーカーです。あまり聞いたことがない会社かもしれませんが、皆さんの中にも、赤や白やゴールドで大きな「b」マークを付けた派手目なヘッドフォンを見たことがある人がいるのではないでしょうか? Beats Electronicsはそのヘッドフォンブランド「Beats by Dr. Dre」を展開するアメリカの企業です。
Beats by Dr. Dreはアメリカでは主に300ドル以上の価格が付けられる「高級ヘッドフォン」の製品カテゴリーに分類されます。大抵の場合、高級ヘッドフォンのイメージといえば、Hi-Fiシステムやホームシアター用に最適化された、マニアが愛用する黒いボディのヘッドフォンを想像されると思います。ですがBeats by Dr. Dreはそのイメージを完全に壊し、派手な赤や黄色、白などカラフルなボディにカラーリングされた、洋服やスニーカーのようなヘッドフォンを製品化しています。
ヘッドフォンメーカーが音楽サービスを展開することは、ヘッドフォンやオーディオ機器を製造し音楽サービス「Music Unlimited」を展開するソニーに近いと思われる方がいるかもしれません。しかし、Beatsのヘッドフォンが従来のオーディオメーカーと大きく異なる点があります。それは音楽だけでなく、音楽以外からの切り口でも積極的にマーケティングを展開している点です。
Beatsブランドのスポークスパーソンはミュージシャンとは限りません。テレビ中継されるスポーツの試合で、Beatsのヘッドフォンを付けて颯爽と会場入りするバスケ選手やサッカー選手であったり、これまではブースの後ろで目立たない存在のDJなど、各分野で強い影響力を持つ個性的な人たちがBeatsのマーケティングに登場します。このアプローチはナイキやアップルに近いかもしれません。音楽好き以外の消費者も、スポーツやセレブリティなど自分が関心ある領域からBeats製品と接触し、Beats by Dr. Dreは「カッコイイ」というイメージを持ちやすくなるのです。
Beatsのヘッドフォンは若者の間で人気製品となり、さらに多くのミュージシャンやDJ、スポーツ選手の間でも重宝されるまでに人気に拍車がかかっていった結果、この製品カテゴリーでは市場の60%以上のシェアを獲得するまでにいたりました。
そのBeats Electronicsが展開する次なる事業、それが「Beats Music」、そしてこの音楽サービスは、ヘッドフォンのビジネスと同様にSpotifyともPandoraともiTunesともまったく違う、斬新なサービスに仕上がっています。