エンジニアでも、デザイナーでもない。デザインから実装まで全部やる
さまざまなiPhoneアプリを開発してきたfladdictこと深津貴之氏。iPhoneアプリのUIデザインやインタラクティブデザインの仕事に携わりながら、自分でもアプリをつくって販売しているiPhoneアプリ作家だ。今回の講演のテーマは「手触りと美的センスについて~感覚的アプローチからのスマホUIデザイン」。深津氏は自己紹介を兼ねて、自分がどうしてこの世界に入ったのかを説明した。
武蔵工業大学(現・東京都市大学)時代は、環境情報学部の都市情報デザイン研究室で「テクノロジーがライフスタイルをどう変えるのか」ということをテーマにしていた。ユーザーインターフェイスに興味をもち、卒業後にロンドンに2年間留学。プロダクトデザイン科で椅子や照明をつくるかたわら、趣味で書いていたFlashの技術ブログが、日本のウェブデザイン会社thaの目にとまり、夏休みに遊びに行ってそのまま大学を中退して入社。thaはFlashの特殊な表現に強みを持ち、ユニクロのウェブコンテンツのディレクションなどを手掛けていた。そのころiPhoneに出会い、iPhoneアプリの勉強をはじめて独立。アプリをリリースした。
氏の作品にはカメラアプリが多く、世界初の連写ができる「QuadCamera」、ミニチュア風の写真が撮れる「TiltShiftGen」などがある。無印良品のiPadのカレンダーアプリでUIデザインに関わったこともあるし、「PhoneBook」という、絵本の中にiPhoneを差し込んで楽しむ作品にも参加し、インタラクティブ部分と実装を担当したこともある。
「エンジニアでも、デザイナーでもない。デザインから実装まで全部やる」と語る深津氏。ここで紹介したのは氏の世界の一端に過ぎないが、常に新しいことにチャレンジしていく姿勢が伝わってくる。
そして、6月10~14日にサンフランシスコで開催されたアップルの開発者向けイベント「WWDC」に参加してきた深津氏は、そこで発表されたiOS 7のユーザーインターフェイスへと話題を移し、本題であるアプリの手触りについて話を始めた。
iOS 7のフラットデザインと、通常のフラットデザインの違い
iOS 7のユーザーインターフェイスが発表されたとき、その「フラットデザイン」に注目が集まった。Windows PhoneやAndroidスマートフォンのようにモダンで禁欲的、フラット(平面的)なデザイン。しかし、深津氏は、iOS 7には通常のフラットデザインと異なる工夫がされていると、その独自の設計思想について説明する。
「iOS 7のフラットデザインで一番興味深いのはレイヤーの構造があること。普通のフラットデザインは印刷物のように平面でペタっとしているが、iOS 7の場合は、背景があって、その上に何かが載っていて、その上にコントロール用のパネルがある。それをドロップシャドウなどを使わずにモノが重なっていることを意識させる構造になっている。いわゆるフラットデザインだと、ユーザーがどこをタッチしたらいいのかわかりづらいけれど、それを軽減するために多層的な構造であることをアピールしている。」
iOS 7ではジャイロを用いたパララックス(parallax:視差)も導入されている。iPhoneの画面を傾けると擬似的な遠近感が出る。これによって、このオブジェクトはそのオブジェクトより手前にある、どちらが前景なのかということを表現する。フラットな表面では本来できないことを、擬似的な遠近感を用いることで表現している。
また、曇りガラス状のブラー(ぼかし)を使って、いま、あるナビゲーションの上に何かが覆い被さって一時的に操作を占領しているけれども、この操作を占領している画面の裏には本来の画面があって、これからそこに戻れますよということも示しているという。