母集団をどのように作りだすか
つまり、現在のYahoo!の母集団は1億2千万人という日本人ユーザーである。それをどんなセグメントで小さな母集団として切り分けるか。たとえば、「はてなブックマーク」 はITエンジニアなどを中心とした母集団である。そこに掲載される情報はたいへん人気があったが、その理由は「ITに成熟した母集団が選び出したコンテンツだった」からである。しかし、人気のあまり、その母集団が徐々にYahoo!と同様に一般化し、本来のユーザーの特異性によって高まっていた情報の価値が薄まってしまったという声が聞かれるようになってきた。これを「愚衆化問題」といい、ソーシャルブックマークの悩ましい問題の一つといえるだろう。
そうした問題を解決するために、あくまで母集団をリアルな人間関係に閉じてしまい、仲間内で情報共有しようという考え方に基づいているのが「newsing」 である。以前より、「ELNET」のような新聞や業界誌の中から、その企業に必要と思われる情報を抜き出し配信するというサービスがあった。
しかしながら、あくまでキーワードをフックにした情報収集であり、本当に必要かどうかというところまでは判断が難しい。そこで、当事者、仲間内で「読んでおいた方がいい」というリアルな皮膚感覚的なものを「newsing」は持ち込んだわけである。
ただし、あまりに母集団が小さすぎて、幅広い情報が集まらず、似た価値観の中でまとまってしまう可能性がある。「面白い取り組みではあるが、『集合知』としてはもう少しスケールメリットがあった方がいいのではないか」と、佐々木氏は指摘する。
質が低下する可能性がなく、しかもある程度の集合知としての価値を持つという考え方では、 「MemeOrandum」の取り組みがユニークだ。これは「ソーシャルブックマーク」のサービスではあるが、誰もが登録できるわけではない。
アルファブロガーといわれる一定の支持者を持つ人々が、興味を持ったニュースに対して投票するという仕組みだ。ただしこれについても、佐々木氏は「プロによる情報選択ではこれまでのマスメディアと変わらないのではないか。普通の人たちの知識をまとめてインターネットの集合知としていく、という在り方としては時代に逆行しかねない」と手厳しい。
このように考えていくと、インターネットの集合知の価値を最大化するためには、「母集団」をどのようにつくり出すかということがカギになる。そして、そこで得られる「情報の確度」をどのように担保していくかが重要なポイントだ。これは、必ずしも情報の精度や正しさのことではなく、必要としている人に必要とされている情報がいかに的確に届けられるかという「マッチングの正しさ」を指す。これを目指して前述のようなさまざまな取り組みが行われてきたわけだが、Googleの時のような絶対的な正しさが必ずしも見つかっていない。ソーシャルの世界で「マッチング」の精度を高めるという現状では、まだまだ紆余曲折の余地があるといえるだろう。