“顧客の声”を商品開発に生かし売上1.4倍に
リクルートテクノロジーズは、リクルートグループのITとネットマーケティングを横断的にサポートしている企業だ。午前中のパネルディスカッションに登壇したデータサイエンティストの西郷彰氏など、ビッグデータ活用のスペシャリストも多数在籍する。坂本氏は、2011年からコミュニティパネルR&D 推進を担当。これまで短納期開発スキームのプロジェクトや、サイトUI改善でコンバージョンを最大化するR&Dなどを担当してきており、サイトのUXやデザインに関するスペシャリストと言える。
坂本氏によると、コミュニティパネルというのは「ソーシャルメディア上にカスタマーコミュニティを構築し、カスタマーと企業がインターネット上で対話しながら消費者意識を調査すること」で、マーケティング調査の最新手法だという。一回ごとに参加者が変わる市場調査ではなく、特定の関心を持ったオンラインコミュニティ上で、一定期間メンバーが交流することが特徴で、MROC(Marketing Research Online Community)と呼ばれることもある。
「サービスの立上期、成長期、成熟期では、顧客を理解するための課題が変わってくる。特に、成熟期に入り、これまでとは違う概念を持った新しい価値を提供する場合、顧客が何を考えるのかをよりスピーディーに深く知ることが求められる。その答えがコミュニティパネルにあると考えて取り組んでいる」(坂本氏)
具体的なコミュニティパネルの例としては、通販サービス「赤すぐ」での展開がある。ママ隊と呼ばれる赤すぐの商品開発に協力してくれるママを中心としたコミュニティを通して実際の商品開発を行った。コミュニティの活動は、2013年3月~9月までの半年間にわたり、人数は219名、無償で協力したという。
坂本氏によると、コミュニティパネルのメリットは「カスタマーの本音が聞けること」、そして「多様で唯一無二のデータが得られること」だ。これは、カスタマーとの継続的な関係があることや、自宅というリラックスした環境から参加できること、メンバーとのやりとりがあることが背景にあるという。たとえば、「冬に使いたいマタニティパジャマについて」の質問では、「どんなものを使用しているか」「良い点、悪い点は何か」「ほかにどんなものを使っているか」など、だんだんと深堀りする質問を対話形式で行い本音を理解する。
これにより、今までの調査では発見できなかった情報が聴取可能になる。たとえば、「子供との寝方」「旦那さんとの育児参加」「お金の使い方」「教育の方針」「夫婦関係」「イノベーターかアーリーアダプターかといったタイプ(性格や気質)」などだ。
そうした顧客理解の手法のもと半年間で10個の商品を実現。そのうちの1つに、おしりふきのパッケージのデザインをコミュニティのメンバーの投票で決めたという例がある。このケースが興味深いのは、売上に直接貢献したことだ。ほかの条件をできるだけ変えずに比較したところ、前年同月比で売上は144%(5・6月)の伸びを示したという。
この理由として、赤すぐママ隊の活動を通して76%のユーザーの好感度が改善し、約2割のユーザーは購入頻度が増えたことが挙げられる。また、興味を持ったユーザーの半分が友人にエバンジェリストとして宣伝してくれ、そのうちの7割が商品に興味をもってくれたという。
なお、コミュニティパネルでの分析には、Hadoopを使ったテキストマイニングと画像解析を組み合わせて行っている。坂本氏は、コミュニティパネルにビッグデータ解析を組み合わせることの価値として「バイアスを排除したユーザーの深い理解が可能になることだ。同じ行動モデル、同一の価値観など似たカスタマーごとに意見の違いを分析することでそうした理解が可能になる」と強調した。