主導権を持っているのはオーディエンス
――日本でも、例えば放送局によるネット配信事業者の買収や、紙媒体ベースのメディア企業が動画コンテンツ事業へ参入するなど、いくつか目立った動きが出始めています。ただ、コストの面や、特に後者の例だとコンテンツ制作に課題があると聞きます。海外では、そうした課題をどう乗り越えているのでしょうか?
Paul氏:まずは、単純にカメラの価格を見ても、コンテンツ制作のコストはどんどん下がっています。自社内にスタジオを設けてコンテンツを内製するハードルも、以前よりずっと低いと思います。ただ、すべて内製することを勧めているわけではなく、内製と外部への発注、すでにあるコンテンツの調達をうまく組み合わせて、まずはコンテンツ数を増やすことを目指すといいと思います。実際に私たちのデータでも、ビデオ数が1,000本を越えてくると閲覧数も飛躍的に増加します。外部から動画のジャーナリストを採用したり、コンテンツに強い事業者とパートナーシップを組むのも有効でしょう。
また、成功しているパブリッシャーは、オーディエンスが分散化していることを理解しています。当然、それぞれはニッチな市場になるのですが、無理に統合したりせずに、オーディエンスに選択権がある形で豊富なコンテンツを用意しています。
それも、海外では例えばテレビなどからキラーコンテンツやスターをアレンジするのではなく、デジタルの世界で独自にスターを発掘したりすることに力を入れる傾向があります。先日ディズニーがYouTube向けの映像制作会社、メイカーズ・スタジオを買収しましたが、“YouTuber”と呼ばれるスターを発掘し契約するためだといわれています。(関連記事はこちら)
――確かに、そのニュースは日本でも話題になりました。
Paul氏:この買収は大規模でしたが、小規模なパブリッシャーでも、自分たちのオーディエンスに合ったタレントを発掘してコンテンツ制作に活かす例が続々と出てきています。例えば世界的に人気を集めているカードゲーム「MAGIC The Gathering」において、カードを販売する事業者が、その世界で非常に強いプレーヤーを見つけてプロモーションビデオに出てもらったりしています。ニッチなオーディエンスの関心を活かしている好例です。
――なるほど。今後、日本でも新しいマネタイズの手段としての動画プラットフォームづくりが加速していくと思われます。オーディエンスのニーズからアプローチを考えると同時に、例えば今年だとサッカーのワールドカップのように、映像で視聴しうる世界的なイベントも、参入を後押ししそうですね。
Paul氏:確かにそうですね。今回のワールドカップでいうと、当社は数多くの企業と約1年半も前からストリーミング配信の準備を進めていました。ただ、そんな世界的なイベントであっても、やはり自社が接触できるオーディエンスの姿や変化を無視してはうまくいきません。主導権を持っているのはオーディエンスだとよく認識して、コンテンツの切り口や配信を検討することが重要だと思います。