高品質の秘訣は「職人」と「マネジメント」
広告クリエイティブ制作の中でも、バナーやLP(Landing Page)等の広告制作に特化して事業を展開してきたクリエイターズマッチ。今年9期目を迎えるが、その間に作成したバナー本数は11万本以上にのぼる。さらに、その中で培われたノウハウに基づく教育事業やASPサービス事業にも進出している。
月産1,500~2,000本に及ぶ制作を担うのは、日本全国および海外に抱える約240名もの「バナー職人」「LP職人」と呼ばれるクリエイターだ。呉氏は「当社はクラウドソーシングを実践し始めた草分け。しかもクオリティを担保するために綿密な教育を行い、審査をパスした人材のみが職人としてエントリーしているため、品質が高い」と胸を張る。そしてクリエイティブだけでなく、その納期管理や営業といった的確なマネジメントが組織的に行われているのも大きな強みだという。
改善の鍵は「バナーをクリックしない人」の声
クリエイティブの品質を高めるために、クリエイターズマッチが何をやっているのか。化粧品通販会社である株式会社 JIMOSの化粧品広告バナーのクリエイティブを事例として取り上げ、説明が行われた。
JIMOSはもともと通販のみを販売チャネルとしており、ユーザーを広告バナーから無料サンプルモニターを募集するLPに、そして定期コースを予約する自社ページへ誘導するという流れをとっている。ネット広告は重要な顧客獲得の窓口だ。これまでも広告代理店のもと7~8年間に渡り、度重なる改善が繰り返されてきた。しかし、それゆえに劇的な改善やノウハウを既存の体制から生み出すことは困難と考え、クリエイターズマッチにバナーとLPの改善が依頼されたという。そこで同社が提供したのが、クリエイティブに特化したユーザーテスト「ADTest」だ。
これまで、クリエイティブ分析はCTR(クリック率)やCVR(コンバージョン数)に基づいて行われたため、多くの場合「成約=購入した人たち」のデータから仮説を立てて、クリエイティブの改善を行ってきた。しかし、バナーの成約率は0.1~数%であり、ほとんどの人がコンバージョンに至ることがなく広告を閉じている。いわばそうした人達の声は、これまでほとんど活かされていなかったというわけだ。
一方「ADTest」は172万人のリサーチ専門モニターの中から実際の配信対象と近い属性の対象を抽出し、クリエイティブテストを行う。つまり、コンバージョンに至らなかった人を含めたターゲット全体の「生の声」を活かせる。複数のバナーに対し、全体の印象のほか、各ビジュアルやコピーといった部分についても意見を集約することができる。また、GoodとBadのボタンで簡単に評価ができ、良いと評価された部分は暖色系で、悪いと判断されたところは寒色系で示されるなど、視覚的な判断も行いやすい。
呉氏は「これまでの数値的な分析に『生の声』という定性的な分析を加えることで、よりターゲットに訴求するクリエイティブへと品質を向上させる」と語る。事実その声を反映して作成したバナーやLPは、長年に渡って調整を繰り返してきたバナーやLPよりもCTR・CVRともに高く、特にメインターゲットの30代および、平日に比べると反応の得にくい休日において大きな改善効果が得られた。ただし、継続的にパフォーマンスを高めていくためには、一過性に留まらず、定常的なトライ&エラーが必要だという。
1か月に27時間も発生する埋没コスト、いかに解消するか
「ADTest」のような効果検証を繰り返し、改善を行っていく際には、大量のクリエイティブが生じる。クリエイターズマッチでも毎月約1,500ものバナー・LPが作成されるが、実際に納品までには修正チェックなども含めて、その4~5倍ものファイルを作成することになる。同社でも平均して1日375ファイル、1時間で47ファイルもの作業が発生するという。ミスなく作業し続けるのは至難の業だ。
そのため、メールやファイルの管理は煩雑になりがち。ファイルを探すなどの雑務に費やす時間も、軽く見ることはできない。1時間当たり10分とすると1か月で1,600分、27時間もの埋没コストを発生させることになる。呉氏に代わって登壇した岡村氏は「メールやファイルの整理・管理をスピーディーに完璧にできるようになるのが真の成長だろうか。管理を簡単にし、本来の業務に集中できる方が建設的ではないか」と訴える。
そこでクリエイターズマッチでは、クリエイティブファイルを効率的に管理するためのソリューションを開発。さらに2011年9月より「AdFlow」として社外にも提供している。
全工程で40%のタイムロスの削減を実現
「AdFlow」は発注側と受注側が同じプラットフォームを共有し、依頼や作業の流れをリアルタイムで管理することができる。クリエイティブの制作、修正、反映などもすべてシステム上で行えるようになっており、面倒なメールでのやりとりやファイル管理、Excelによる進捗管理などを不要にする。ライブラリ機能も用意されており、大量のファイルの中から必要なファイルを検索することも容易だ。
つまり、クリエイティブ制作時の進捗管理だけでなく、以前のリソースを活用することでプランニングに役立てたり、案件終了後のファイル整理を不要にできたりと、クリエイティブに関する全ての工程において効率化が可能になる。
岡村氏は「AdFlow」導入による埋没コストの削減例として、あるユーザーにおける導入前と導入後の業務時間差を紹介。導入前に比べ、プランニング・提案、制作・進行管理、そして実績管理に至るすべての工程で40%も時間が削減でき、新たに時間が確保できるようになったという。確保した時間をプランのブラッシュアップに費やすもよし、デザインクオリティを追求するもよし。より価値のある仕事に費やせるようになるだろう。
アドテクが伸長する今、分析データの活用が肝
最後に、「AdFlow」のレポート機能である「AdFlow Banner Pool」が紹介された。背景にはオンライン広告における「DSP(Demand Side Platform)」「ADNW(アドネットワーク)」といった運用型広告配信手法の急速な伸びがある。DSPやADNWなどのアドテクノロジーを駆使することで、ムダのない効率的な広告配信が可能になった。しかし「あくまで運用者の腕次第であり、それを支援するツールが大きな意味を持つ」と岡村氏。そのためにもレポート機能が重要というわけだ。
DSPやADNWを最大限に活用するには、結果を見える化するレポートとそれに基づく多様なクリエイティブが不可欠となる。例えば、媒体が異なれば同じ広告でも別のファイルとして管理することになる。さらに同じ媒体でも複数使用するとなれば、別管理が必要だ。そうして倍々に増えていくファイルとともに、分析するデータも増え、結果的にはExcelでは管理しきれない量となる。むろんデータを活用できなくては意味がない。
こうした増え続けるクリエイティブと媒体に関する効果データを管理し、分析結果をレポートとしてアウトプットするために、クリエイターズマッチがつくりあげたのが「AdFlow Banner Pool」だ。
増えてしまう原稿とそれに紐づくデータをどうやって管理すべきだろうか。「AdFlow Banner Pool」ではバナー専用のデータベースが用意されており、実施したキャンペーンの効果データを原稿自身に紐付けて一元管理することができる。任意でタグなどをつけることも可能で、一覧で表示されるため、いちいちファイルを開いて確認する必要もない。広告効果を原稿と共にExcelシートにまとめて出すことができるので、レポートも容易に作成できる。
なお、広告効果を分析するために必要なデータは膨大になる。そうしたExcelでは難しい大量のデータでも「AdFlow Banner Pool」ならば各社ごとに用意された専用サーバ側で処理が可能なため、欲しい内容をすばやく検索・集計・抽出することができる。複数の媒体の結果を合わせてクリエイティブごとに検証したり、効果の高かったクリエイティブ順にソートしてみたり、様々な条件で検索し、比較分析することが可能だという。
クリエイターとプランナーが同じ目線に立てる
「AdFlow Banner Pool」によって原稿とデータの資産化、レポート作業の効率化を測ることで、クリエイティブ制作時と同様に作業を大幅に削減する。その効果について、ユーザーからは「原稿の管理が楽になった」「レポート作業が楽になった」と高く評価されており、中には従来の約半分の作業時間に圧縮できたというケースも少なくないという。そうして生まれた時間をさらにプランニングやセグメント設計などの運用の本質に時間をかけることで、より質の高いデータ解析を実現し、より高い効果を上げるクリエイティブ制作へとつなげることができる。
さらに「AdFlow Banner Pool」の本質的な効果について、岡村氏は「チーム全体がスピーディに情報を共有できることで、同じ目線に立って取り組むことができること」と語る。「作りっぱなしだったクリエイターも、自分が作成したクリエイティブの効果を知ることができる。プランナー側はもちろん、アカウントの設定次第ではクライアントもリアルタイムに効果を閲覧できる。これまで分断していた情報をチームとして共有することで、業務的にはもちろん心理的にも密接な連携が可能となり、施策の効果を高めることができるのではないか」というわけだ。
現在「AdFlow」「Banner Pool」はそれぞれ、広告主・代理店、制作会社を含め約310社に導入され、多くのユーザーに活用されている。その活用実績からも効果のほどが伺えるだろう。