拡大するスマホゲーム市場で、アプリ運営者がぶつかる悩み
今年3月にCyberZとシード・プランニングが共同で発表した調査結果によると、2013年の国内ゲーム市場において、スマホゲームが占める割合は約5割とのこと。2014年には、前年比120%増の6,584億円に達すると見られている。実際AppAnnieの調査によれば、ゲームの収益は前年度の約2.2倍とかなり大きく伸びている。
ところがゲームのダウンロード数で見ると、それほど伸びているわけではないという。ビッグデータ解析・研究を手掛けるロガリズム 代表取締役社長の小林哲也氏によると、「売上自体は倍になっていますが、ダウンロード数は前年に比べ微増であり、ほとんど成長していません。そこがゲームアプリ事業者が苦慮している点なのです」と述べる。
ゲームのダウンロード数があまり変化していないということは、ユーザーの裾野が広がっていないということだ。中にはダウンロードしたものの離脱したユーザーもいれば、あまり熱心でないユーザーもいる。こうした非アクティブユーザーが、ゲーム内の課金アイテムにお金を遣うことは、まずないはずだ。もちろんヘビーなゲームユーザーであれば、ゲーム内の課金に対してそれほど抵抗はない。つまりユーザーが飽和状態な中、「お金を落とす」ヘビーユーザーの取り合いが始まっているのだ。
こうした状況に対しロガリズムが先日11月12日にリリースしたのが、ゲームアプリの分析に特化した「BUNSEKI」だ。BUNSEKIは、スマートフォン向けゲームアプリのユーザーログデータを用い、その利用状況を解析するクラウドサービス。特別なSDKを必要とせず、ゲームアプリ運営者がBUNSEKIにログデータを送ると、BUNSEKI側で自動的にデータを解析、結果を表示するという。「BUNSEKIによる高性能の予測を活用することで、ゲームの収益は必ず向上できます」と小林氏は自信を見せる。(関連ニュースはこちら)
レッドオーシャンになった今こそ、データ分析で差別化を
小林氏は、「収益向上の肝となるのは、アクティブユーザーを正確に把握することです」と指摘。ゲームに投資するアクティブユーザーを増やす施策を適切に打てば、収益は必ず上がってくるという。
ロガリズムにはここ1年の間に少しずつ、「ゲームアプリの利用状況について、データ分析をお願いしたい」という依頼が増えてきたそうだ。小林氏はその理由について、市場の飽和度を感じるゲームアプリ運営者が増えてきたからだと見ている。「こうしたデータ分析サービスは、レッドオーシャンになった時に必要になるんです。ここからが僕らの出番。飽和する市場の中で、差別化を打ち出したい企業に対し、僕らのノウハウを提供するのです」(小林氏)
ゲームアプリの運用「あるある」パターン
もちろん、ゲームアプリ運営業者の方も手をこまねいているわけではない。一例として、陰(かげ)りが出てきた時に、ログインを増やそうとして「ログインボーナス」という名目でアイテムやクリスタルをプレゼントすることもある。ヘビーユーザーをターゲットに、アイテムを買わせようとハードルを上げることもある。しかしこうした施策が失敗する例も少なくない。
そもそもゲームをローンチしたフェーズ1では、まずはユーザーを獲得することが目的であり、新しいゲームということでユーザーも獲得しやすい。実際のアクションも、ユーザーの初動観察やバグつぶしに終始することが多く、ダウンロード数やユーザー数、課金量といった「数」を中心にモニタリングしている。これを経て運営初期となるフェーズ2では、適切な集客をかけつつ、初動イベントを実施。KPIもアクティブ率や離脱原因の特定、課金率、初期課金までかかったプレイ時間や自由時間(ダウンロードしてからの実際の時間)など、「質」を見ていく時期となる。ここを乗り越えると、成長路線に入るのだ。
次のフェーズ3は、運営中期となる。小林氏によると、多くのアプリ運営者は、ほぼこの時期にいるそうだ。大規模な集客を行い、各種イベントを実行しながら、広告効果やアクティブ率、課金率、継続率などの重要KPIをチェックするフェーズであり、ビジネス的に最ものっている時期だという。フェーズ3のような成長路線でいれば、総じてアクティブ率も高い。これが少しずつ下がってくるようだと、徐々に運営後期のフェーズ4に移行中と見ることができる。
フェーズ4になるとアクティブ率が減ってくるので、当然、収益も低下する。ゲームアプリ運営者は、ここであわててリピート対策を始めようとし、リピート率を必死にモニタリングするケースが多い。だが早めのフェーズでアクティブユーザーの向上・維持を保つ方が、もちろん効果は高い。
ゲームアプリの収益が向上する3つの理由
BUNSEKIでは、過去1か月の間で週/日に何回ログインしているかをログからはじき出す。これをもとに、「低頻度」「平均的」「高頻度」の3分類×4セグメントの12種類にユーザーを分けてモニタリングする。
ログイン回数を増やそうとしてログインボーナスをバラまくと、確かにログインするユーザーは増えるが、逆にゲーム内でインフレ状態に陥り、課金アイテムやクリスタルの購入にはつながらない。そのため、単純にログインするユーザーの増加を喜ぶだけでなく、それがいかにアクティブユーザーに移行したかを把握することが重要なのだ。BUNSEKIの場合、単純なユーザー数の推移ではなく、セグメント別にきめ細かくユーザーの「中身」を可視化することで、施策の有効性が測れるわけだ。
またアクティブ率改善のため、ボーナス付与などの対症療法ではなく、ユーザーセグメント別にアクティブ率を阻害する離脱ルートを特定できるのもBUNSEKIの特徴だ。ゲームの離脱ルートは通常、ユーザーによって異なるが、階層化されたセグメント別で分析すれば、そのパターンが見えてくる。そこで解析された離脱ルートを一覧表示することで、離脱原因を特定し、アクティブ率の向上につなげられるのだ。
これらの分析を自社で行おうとすると、システムを開発するだけでも1か月以上はかかってしまう。また、国内外でゲームアプリ分析ツールが出ているが、そのほとんどが計測用SDKを導入する必要があり、やはり手間がかかる。その点BUNSEKIなら、自社のゲームアプリサーバーにあるログをBUNSEKIサーバーに送るだけで、自動的に分析を行い、ユーザー企業の管理画面に表示される仕組みだ。このデータ転送設定は8時間もあれば完了する。手軽かつ手間なく始められるので、他社との差別化も迅速に行えるわけだ。
「分析はしたいけど、できない」アプリ運営者を支援する
小林氏によれば、ゲームアプリサーバーの生データがあれば、こうした分析は可能だという。つまり理論的には、ゲームアプリ運営者が自社で分析することも可能なわけだが、できない理由は2つある。
第一に、優秀なエンジニアこそ本業のゲーム開発に注力させたいこと。分析で得られる情報が複雑になるほどUI開発の難度も上がり、その結果ゲーム開発に回す余力がなくなってしまう。第二に、ゲームエンジニアの多くはデータ分析に必要な機械学習などの教育を受けておらず、分析をしようと思っても行き詰まることが多いためだ。
そこを肩代わりするのが、ツールであるBUNSEKIと、データ分析のプロフェッショナルがそろったロガリズムとなる。BUNSEKIを利用すれば、アクティブユーザーの正確な把握や改善案は見えてくるが、それ以上にきめ細やかな「戦略案」を求めるゲームアプリ運営者も多い。例えば「課金率のベストパターンを知りたい」「無課金者の代表的なパターンのデータが欲しい」「課金が増えるルートを教えてほしい」といったものだ。こうしたことは、生データがあって適切な分析をすれば、改善案が必ず見えてくるという。こうしたきめ細かい要望を相談できるのが、ロガリズムの大きな強みとなっている。
また、BUNSEKI自体、ベータ版を経て満を持してリリースされたもの。特徴的な画面はいくつかあるが、ユニークなものとしては「課金率が上がるルートステップ」なども分析できるようになっている。こうしたテンプレートのような機能は、他社のアプリ分析ツールにはほとんどない。これもBUNSEKIの特長だ。
「少しの工夫で反応が変わる」その変化をテクノロジーで見える化する
小林氏が、「生データさえあればあらゆる分析が可能」と言うのは理由がある。もともとロガリズムはモバイルアドネットワークの運営会社としてスタートし、移動的に広告を最適化して掲出するアルゴリズムを開発していた。DMPの運営にも携わっている。そのため、ユーザー属性の把握や、広告に対しどれくらいの人がアプローチしたかなど、分析の技術を徐々に磨いていったそうだ。こうした背景を武器に、アプリケーション向けのユーザー分析コンサルティングやツール開発に着手。もともと生データを利用した解析が得意だったため、分析次第でさまざまな結果が得られることを実感していたそうだ。
そんな小林氏だが、キャリアの起点となったのはフリーのデザイナーだったという。その後、広告企業に正式に入社し、グラフィックなどを担当するうち、ダイレクトマーケティングの面白さに気付くようになったそうだ。例えば、紙面のどこにどのような素材をどう置けば反応が変わるのか、コピーを少し変えるだけで売上がどれほど上がるのか、そうしたことを実地で学んでいった。その後サイバーエージェントを経て、独立系ベンチャー企業から2011年に分社という形でロガリズムを起業したという。
アナログな時代の中から、「少しの工夫で反応が変わる」ということを身をもって学んだ小林氏。その“変わる”部分をテクノロジーで見える化するのがロガリズムの最大の強みだ。小林氏によると、今後はBUNSEKIサービスも範囲を広げ、ECアプリやニュースアプリの運営支援ツールとして進化させていきたいと考えている。
無料セミナー「ゲームアプリの収益を高めるためのデータの活用術」12月9日(火)開催!
2014年12月9日(火)に、無料セミナー「ゲームアプリの収益を高めるためのデータの活用術」を開催します(主催:MMD研究所)。記事のインタビューに登場した小林氏も登壇しますので、興味を持たれた方はぜひご参加ください。お申し込みはこちらから。
【日時】2014年12月9日(火)10:00~12:00(開場受付9:30~)
【場所】EBiS303 カンファレンススペースA(恵比寿)
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【応募締切】12月2日(火)19:00まで