これからのデジタルマーケティングはチャネルの再定義から
── 最近、デジタルマーケティングの重要性が叫ばれ、そのデジタルにおける有力なツールとしてスマートフォン(以下、スマホ)が取り沙汰されています。マーケティングという大枠の視点のなかでなぜスマホがこれほど注目を集めているのかについて教えてください。
伊藤氏:まず、各社が新しい領域に取り組むとき、最初に考えるべきは歴史の流れだと思います。マーケティングについてもこれは同じで、過去の歴史を振り返っていけばその源流が見えてきて、大枠は外さないようになるはずです。
マーケティングの歴史を振り返ってみると、よく言われることですが、近年の特徴はチャネルの数が急増したという点にあります。十年前まではテレビや実店舗、チラシや新聞といった紙媒体など、お客さまとのチャネルは非常に限られた数しかありませんでした。
今、いわゆるデジタルサイネージやSNS、Webなど、すごくチャネルが増えてきました。このような時代には「チャネル別に役割を定義しなおす」ことが必要になります。その上で、チャネルにあわせてどういった施策をするのか考えていくことが必要です。これがデジタルマーケティングの基礎だと考えています。
スキマ時間をメディアの時間に変えることができたスマホの可能性
スマホが登場したからといって近年のデジタルマーケティングの流れが突然変わるわけではないと思います。スマホという新しいチャネルが増えたのだからその特徴を理解して対応する、という基本的な作業は同じです。
では、デジタルマーケティング観点でのスマホの最大の特徴は何なのか、というと「肌身離さないメディア」という点です。この特徴を活かすと、「スキマ時間をメディアの時間に変える」「One to One性を高める」ということができるようになります。これはスマホだからこその価値です。
今までのメディアは、ユーザーが「メディアを見るぞ」とならなければいけなかったのに対し、スマホは電車の待ち時間などのいわゆる「スキマ時間」を活かすことができます。
また、お客さまに情報配信を行うにはメールアドレスや個人情報が必要不可欠だったのに対して、スマホはアプリIDを使い、位置情報やスマホ内で見ている情報などで趣味趣向を分析して配信を切り分けることができます。
このように高い精度でお客さまと気軽に接することができるようになったことで、マーケティング史上初めてOne to Oneが行えるようになったと言えるのではないでしょうか。
EC化率10%以上 海外の先進的なデジタルマーケティング事情
── スマホによりOne to Oneでコミュニケーションができるようになったとのことですが、具体的な事例として、どういった企業がスマホを活用してマーケティングをしているのでしょうか。
伊藤氏:例えば、英米のEC化率が10%以上のすべての百貨店でスマホのアプリを出しています。その中の一例として、アメリカの百貨店 メイシーズ(macy's)が最初にやったことは、クーポンやお得情報の配信です。
最近では店舗での購買もサポートしており、欲しいものの画像を入力して検索するとメイシーズのECサイトで購入できるというアプリも出しています。
また、2014年に最もエンゲージ度の高いアプリと評された高級百貨店 ニーマン・マーカス(Neiman Marcus)では、EC機能やロイヤルティカードとの連携のほか、さらにアプリ経由で店頭の販売員とビデオ通話・Facetimeができます。
高級店ならではのショッピングのアドバイスが受けられる接客機能を取り入れており、販売員が直接上顧客に対して商品のオススメをするといったことも実現しています。
アプリの見た目や機能はもちろん変わってきますが、自社のお客さまが求めていることに対して一番適切な形で対応できるアプリを各社考えていますね。
── 一方で国内の事業者はどうなのでしょうか。
伊藤氏:現状ですと、残念ながら初期のメイシーズの事例レベルにすら達していない企業がほとんどです。スマホとショッピングとの親和性を意識して、クーポンや宣伝としてプッシュ通知を活用する企業がやっと出てきた状況です。
その中で、東急ハンズのアプリは、商品バーコードを読み取るとその商品をそのままスマホで購入できたり、商品情報がメモできるようになっており、国内企業のなかでは一歩進んでいる印象です。
多くの企業はなぜスマートフォンマーケティングに乗り遅れたのか
── なるほど。マーケティング×スマホ×アプリにおいて日本の企業が遅れている原因にはどういった理由があるのでしょうか。
伊藤氏:今各社が遅れている一番の理由は、別に障壁があったとかではなく、単純に「スマホの普及スピードがあまりにも早すぎた」と言ってしまってよいのではないかと思います。
特にこの1年、スマホからのWebサイト訪問数の伸びは異常だったようです。
ご相談いただく各社さまとお話するなかで、スマホからの流入率は2014年年初の3~4割だったところから年末には7割以上になってしまったと、ご担当者さまの驚きの声を聞いています。
この数字はユーザーの年代別にバラツキが大きいと言うのが私の仮説でしたが、明らかに高年齢層のユーザーが多い企業さまのWebサイトでも、もはや軒並み7割を超えているという認識です。
それくらい急激に、スマホが日常のデバイスとして普及したことがベースにあり、そこに遅れを取る形で昨年あたりからようやく各社のスマホ対応が始まったというのが現状になります。
では、どういうことが課題になっているかというと、非常に「当たり前のこと」ができていないということになるかと思います。
Webサイトのスマホ対応ができていないことはもちろん、もう少し別の観点から見ると、LINEを筆頭に、スマートニュースやGunosyといったキュレーションメディア、Rettyなどの食系アプリなど、スマホに最適化された新興プラットフォームに対して自社広告を打つというように、スマホになってよく見られるようになったメディアへの対策もされていない状況があります。
“うざい”プッシュ通知から“嬉しい”プッシュ通知に
── あまりにもスマホ市場の伸びが早すぎたのですね。先ほどのお話でも出て来た企業やその他一般企業でも採用されている「プッシュ通知」について、最近ユーザーの間では非常に“うざい”ものと捉えられがちな状況ですが、企業がプッシュ通知を使う時に効果的な使い方などはあるのでしょうか。
伊藤氏:まず、なぜプッシュ通知を“うざい”と感じてしまうのかを考えると、プッシュ型のコミュニケーションだからなのかな、と思うんです。たまの休みに家で趣味に没頭しているとき玄関のチャイムが鳴って「うちの商品どうですか」って言われたら“うざい”と思います。
スマホは、確実にお客さまに届ける方法としては有効ですが、やりすぎると“うざい”と感じてしまう、良くも悪くもアピール力の強いメディアなのです。
その“うざさ”を解決するには、配信内容とタイミングの精度を高める必要があります。本来、よく使うお店からの有益な情報はお客さまにとって嬉しいものであり、正しく配信すれば「いい情報を教えてくれてありがとう」となるはずです。
スマホマーケの救世主か? OFFERsが作る世界観
── なるほどです。これまでの話を踏まえ、各課題に対する解決策として伊藤さんはOFFERsというスマホ専用のマーケティングシステムを作られたと思うのですが、実際、どのようなシステムで、どのように支援してくれるツールなのでしょうか。
伊藤氏:まず、適正なタイミング・適正な方法・適正な内容を人に伝えるということは、スマホでのコミュニケーションも日常のコミュニケーションも変わらないと思います。
それが企業とユーザー間のコミュニケーションになった瞬間に、なぜか「とりあえずプッシュ通知を」ということになりがちです。
その結果、一時的にお客さまが集まることはあっても、水面下でサイレントクレーマーがどんどん不満を持ち、離脱していくのです。ある調査では23%がプッシュ通知を理由にアプリをアンインストールしたと答えています。リテール系アプリに於いてはそもそも平均46%しかプッシュ通知を許可しないという結果も出ています(出典:アプリマーケティング研究所)。
一方、しっかりしたスマホマーケティングの仕組みを既存のツールやスクラッチ整備しようとすると、設計から構築まで数千万円規模のお金がかかります。そのため「簡易アプリ+プッシュ通知」をまずリリースしてみたものの、次の一手を打てない企業さまを多数目の当たりにしていました。
それならば我々がパッケージの開発をしようと考え、何社かにご協力いただき、試験的な導入を経て、成果の出た機能だけを洗練させるような形でスマホマーケティングシステムOFFERsを提供し始めました。
この分野は欧米ではかなり成長しており、ツールも進化していますが、日本ではまだまだ簡易的なツールしかなく遅れている印象です。
OFFERsの主な機能は、プッシュ通知を企業対全ユーザーではなくOne(企業)to One(ユーザー)で送ること、電子DMと呼んでいるプル型のコミュニケーションメディアの提供です。また、その裏側で必要となる、データ収集、既存CRMシステムと連携するためのAPIなどなど、本格的なマーケティング・CRMを行うための各種機能を有しています。
端的に言うと、これさえあれば本格的なスマホマーケティングに必要な機能は全部揃う、というツールです。メールを配信するときにメールマーケティングシステムを入れたのと同じような位置付けと考えていただければと思います。
PDCAと顧客理解の2つの分析でマーケティングをサポート
── どこまでの分析ができるのでしょうか? ユーザーの位置情報やプッシュ通知の反応率、反応した時間帯など、いろいろあると思いますが。
伊藤氏:まず、細かい効果分析とPDCAができるようになっています。プッシュ通知や電子DMを送った際の開封率、読了率、そして実際にDMがどの程度使用されたのか、といったデータをID別にトラッキングし、PDCAに活かすことができます。今までほとんど効果分析が見えなかったDMの世界にPDCAという概念を持ち込むことができたという意味で非常に高い評価をいただいています。
次に、お客さまごとにどういう内容の電子DMを見たのか、いつどこで見たのか、を分析することでお客さまのことを深く理解することもできます。
常に持ち歩くスマホは「リアルなお客さま」を理解するためのデータの宝庫ですから、その人の位置情報やライフスタイルといった情報をフルに活かすことを志向して機能開発をしています。
マーケティングツールをお店のおばちゃんでも使える手軽さに
── そのサービスを使いこなしてビジネスに繋げるためには、担当者のリソースであったり、ノウハウといったものが結構必要になってくるかと思うのですが、そこら辺はどうなのでしょうか。
伊藤氏:ご指摘の通りシステムを入れたら成功ということはありえず、運用についても考える必要があります。OFFERsは、企業のいち従業員やアルバイトの方でもすぐに使えるようなインターフェイスを実現しています。入力デバイスもパソコンではなく現場のスマホでもすべて登録できます。
場合によっては、スーパーの従業員が「この瞬間、これがタイムセールです」というようにお弁当の写真をスマホで撮り、すぐに現場からタイムセール情報を投げるようなこともできます。
また、導入後に必ず発生する「アプリダウンロードの促進」「運用の定着化」といった実運用上の課題についても、数多くのオムニチャネル支援を推進してきたレオニスのノウハウと、トランスコスモスが持つ運用力を活かし、真の成功までご一緒できるようなオムニチャネル推進支援サービスをご提供しています。
── どういった会社での導入が多いのでしょうか。
伊藤氏:現在はオムニチャネルへの意識が高い大手流通業が多いですが、最近は金融業やメーカー、EC業などスマホを用いたマーケティングを志向される幅広い業種の方々からお問合せをいただいています。
また、OFFERsがLINEやWeb広告連動などあらゆるスマホチャネルに対応するようになってからは、スマホを活用したWeb広告から実店舗への送客やアフターサポートなど、用途も幅広くなってきています。
── 2015年はスマホ対応が進む年になると思うので、レオニスとトランスコスモスの動きに注目していきたいと思います。
伊藤氏:ありがとうございます。ちなみに先ほどお話ししました株式会社東急百貨店様のスマホマーケティングの事例やデータ、さらにEMTGが運営する2人組アーティスト「コブクロ」のスマホチケットでOFFERsを活用した事例・データについては、資料にまとめていますので、こちらから是非ご覧いただければと思います。(資料ダウンロード先へ遷移)