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オウンドメディア最前線

「ソーシャル時代に適した“パブリッシャー”へ」メディア化で成長した「北欧、暮らしの道具店」次の一手

「無理ゲー」である雑貨通販をメディア化戦略で突破

── メディア化は、自社なりのビジネスモデルを突き詰めた結果、なのですね。

 そもそも多くのビジネスが、(1)何らかの経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)を調達し、(2)何らかの方法で付加価値を付けて商品にして、(3)マーケティングによってその商品の存在や価値を伝えるというバリューチェーンを通じて顧客にアプローチすることで収益を上げていると思います。

 ですから全ての事業者は、(1)~(3)のいずれかのポイントで他社に負けない強みを持つ必要があります。大手企業であればリソースが潤沢ですから、この全方位に対して強みを持つことが出来るのかもしれませんが、僕らの様な小さな事業者はせめてこのうちの一つで強みをつくることが当面の課題になります。

 例えば上記の(1)の調達に強みを持っている事業者であればそれを利用して原価を押さえて低価格で商品を販売することが出来るでしょうし、(2)の付加価値を創造することに強みがある事業者であれば、そこでしか買えないハイプライスで販売できる収益性の高い商品を開発することで生き残っていけるかもしれません。

 しかしいずれの強みも、なかなか小規模な事業者に実現することは簡単ではないと感じました。調達に強みを持つには大きなバイイングパワーが必要ですし、付加価値の高いプロダクトを創造するためには膨大な研究開発コストを負担する必要があります。

 なので僕たちは(3)のマーケティングコミュニケーションに特別な強みを持つ事業をつくることに集中してみようと思いました。

── なるほど。

 そういった背景から、小売事業者でありつつマーケティングコミュニケーションをするための集客力とブランド力のある「メディア」を自ら持つことによって、「小売+広告代理店+メディア」を統合して革新的な業態をつくろうと考えたのです。

 それはちょうど小売事業者が自社で商品の企画製造までカバーするSPA業態を志向して革新を目指すように、複数の領域をカバーすることで自社のマーケティングに新しい価値を作り出そうと考えました。

──「伝える」点に強みを見いだしたのでしょうか。

 自分たちに出来ないことを排除した結果、と言えるかもしれません。一般に通販事業者は、粗利が大きく購買頻度が高い商品を取り扱うケースが多く、健康食品や化粧品など商材によっては売上の30~40%を広告費に回しても十分に利益を確保できるというケースも多くあります。

 でも当社は、商品を仕入れているので原価率が高い。さらにインテリア雑貨等は、「使ったり 食べたりしたら無くなる」、「陳腐化が早い」など、購買頻度が高くなる条件を備えていないため、一人のお客様からのご注文は年に1~2回程度しか期待できません。

── 雑貨の通信販売って、とても難しいんですね。

 はい、私も参入してはじめて気づきました(笑)。昔、ファミコンで「たけしの挑戦状」ってゲームがあったのをご存知ですか? とにかくクリアするのが難しいゲームなのですが、雑貨の通販販売も同じくらい難しい。いわゆる「無理ゲー」だと感じました。

── 無理ゲー、ですか……。

 総合格闘技のリングに、立ち技一本で上がったようなものですよ。でもね、私はメディアとECサイトはさほど違わないと思うんです。だってファッション誌には、商品と説明が載っているでしょう。

 違うのは「編集方針」です。ざっくり言えば、読んで面白いものにするという編集方針なのが雑誌で、掲載している商品を買いやすい、買われやすいようにするという編集方針なのが一般的なECサイトと言えるかもしれません。

 なので自社のECサイトが「メディア」として認めて頂くには、商品を販売する機能は持ちつつも、第一に読んで面白いメディアにすることを編集方針にした、「カートボタンがついた雑誌」のようなものになればいいのではないかと気づいたのです。

 明確に「メディア化」を宣言したのは12年。編集方針を「買いやすく」から「面白く」に変え、仕事すべてを「編集方針」に沿わせることにしました。商品も、編集方針に沿わないものは仕入れない。社員も、編集方針に合わない人は採用しない。「編集会議」を会社の最上位に置き、編集方針中心に会社を回すことにしました。

── 徹底していますね。

 様々なメディアを研究し、自社がメディアになるための「3つの要件」を掲げました。1つ目は編集方針があること。2つ目は用事がなくてもお客さんが見にきてくれる価値がつくれていること。3つ目は「源泉掛流しの湯」のようにコンテンツを提供し続けられる体制があることです。

1つ目はメディア化を意識した11~12年に制作し、2つ目、3つ目はこれまで徐々に積み上げて来た、という認識です。

── 源泉掛流し……?

 はい。すべてのコンテンツをあっという間に消化できたら、メディアとは言えないと思うんです。テレビもすべての番組を見るのはほぼ不可能ですし、雑誌や新聞も隅々全ての記事を読む人は少ないですよね。

 FacebookやTwitterでも、常に読み切れないコンテンツがタイムラインに流れていて、いつアクセスしても新しいコンテンツがあるだろうという信頼感があるから、アクセスしようと思ってもらえていると思います。だから読み切れないだけのコンテンツが、源泉のように湧いて提供されていくことが必要なんです。

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メディアからパブリッシャーへ 紙媒体の制作・販売も軌道に

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この記事の著者

齋藤 麻紀子(サイトウ マキコ)

フリーランスライター・エディター

74年生まれ、福岡県出身、早稲田大学第二文学部演劇専修卒業。 コンサルティング会社にて企業再建に従事したのち、独立。ビジネス誌や週刊誌等を通じて、新たなビジネストレンドや働き方を発信すると同時に、企業の情報発信支援等も行う。震災後は東北で起こるイノベーションにも注目、取...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2015/04/08 11:00 https://markezine.jp/article/detail/22171

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