多様化するリサーチサービスを活用しよう
はじめまして。古波津(こはつ)です。私は日産自動車にてマーケットインテリジェンスの業務を担当し、市場調査によって得られる知見を社内の事業活動に反映する活動や、経営層に対して課題解決のための提案を行ってきました。
「マーケットインテリジェンス」とは「企業の事業戦略・オペレーションの意思決定に直結する市場情報」のこと。消費者動向などの市場環境・競合の動向をリサーチし、その結果をもとに戦略的な事業展開に必要なサジェスチョンを行い、意思決定に反映させることが目的です。その経験を活かして、現在は経営・事業戦略コンサルティングなどを行う株式会社KAIを設立し、マーケティングに関するさまざまな支援を行っています。
この連載では、DIY(Do It Yourself)型と呼ばれるセルフサービスのリサーチの上手な活用法をお伝えしたいと思います。ネットだけでなく、紙で行うアンケートなどでも活用できる基本的なノウハウを中心に紹介するので、ぜひ多くの方に読んでいただければ幸いです。
マーケティングリサーチはなぜ高い?
「マーケティング」という言葉はファジーに使われていて、広告宣伝や販売促進(最近ではSEOなど)もその中に含められることが多いのですが、「マーケットインテリジェンス」はマーケティングの中でも特に戦略にかかわる部分と言えるでしょう。マーケットインテリジェンスを実践するには、マーケットリサーチが必須であり、自社が展開する事業を取り巻く市場環境を理解したうえで戦略を策定しなければなりません。しかし、実はここに大きな課題が隠れています。
そのひとつがマーケットリサーチサービスの「価格」です。リサーチ会社に依頼すると、1案件あたり数百万円は当たり前、場合によってはもうひと桁変わることもしばしば起こります。こちらの表は、リサーチサービスに含まれる作業をまとめたものです。簡略化してもこれだけの作業に分かれます。現在提供されているリサーチサービスは、これらの作業をどこまで含むかで、料金が大幅に変わってくるのです。
表の右側に示したように、現在では数十万円ほどで利用できるリサーチサービスや、年間数万円程度のアンケートツールがネットで利用できるようになり、選択肢が広がっています。本連載では、この表の右側にある「セミセルフ型」「セルフ型」と呼ばれるサービスを活用するときに必要な基礎知識を解説しますが、その際、表の中でピンク色で示した部分が大事になってくるのです。
あなたはアンケートの設計ができますか?
上の表をあらためて見て見ると、「セルフ型」サービスの内容は「Webツール」1つだけ。「調査パネル」は外部と連携することで利用可能となっています。こうしたツールは利用者が自分で調査票(アンケート)を作成してサービス側に渡し、生データ(集計前の回答者単位のベタリスト)を入手するかたちになります。料金も数万円からと手軽に利用できる重宝なサービスです。しかしこのサービスを上手に活用するには、調査の「設計」ができることが重要になってきます。
調査の設計とは何でしょうか。これは家電製品の設計に置き換えるとよくわかります。市場のニーズを製品の機能として実現するために、工学的な根拠をもってデザインすることです。その「設計」には緻密な技術的根拠やノウハウが伴います。実はアンケートも同じように、設計の際に技術的な根拠やノウハウが必要なのです。
アンケートを実施したことがあるという方は、以下のような体験をしたことはありませんか。
・アンケートを作ろうにも、どう質問したらいいのかわからない
・アンケートを作ってみたものの、本当に知りたいことがわかるのかが不安
・アンケートを実施してみたものの、結果をどう解釈したらいいのかわからない
・アンケートの結果がなかなか有効はアクションにつながらない
「大丈夫! どれも当てはまっていないし、特に問題を感じたことはない」。本当にそうでしょうか。