実店舗のスタッフがデジタルで活躍できるように
これまで実店舗をベースにビジネスを展開してきた企業も、販売方法をオムニチャネル化させていくことは免れない。その上で、伊藤氏は「実店舗の力を活かす」ことを提案する。実店舗の力をデジタルで拡張できるようになったことを、大きな追い風として活用できるというのだ。
例えば、実店舗での声かけやダイレクトメールなどの集客は、TwitterやFacebookで。接客は、店頭接客のノウハウを活かしたオンラインチャットで。ほかにも店内の陳列や顧客理解の面でも、データ分析などを取り入れながら十分デジタルへ拡張できる。

実店舗とECの両方を展開している企業でも、これまではそれぞれ別の事業として展開するケースが多かった。だが、これからは「デジタルだけを担当する専任部隊を持っていてはいけない」と伊藤氏は提案する。
「店舗のスタッフにデジタルで活躍していただくことが可能になった。これが、オムニチャネルのもうひとつの側面だと捉えています。なので『オムニチャネルに対応する』ためには、まず自分たちの企業がこの“Winner Takes All”時代にどの立ち位置を獲るのかを考え、そして実店舗の力の活用に取り組んでいく。EC出身の企業は逆に、実店舗の強みをどういう方法で享受していくかを考える。そんなプロセスが、ひとつの正攻法だと思っています」。
百貨店やSC、ネット小売、GMS……業態の境が曖昧に
実店舗の力を活かす。自社内にないなら、他社との連携でそれを取り込む。こういった動きは、昨今ますます強くなっているという。伊藤氏は、製造から配送までのプロセスと、商材の種類をそれぞれ縦軸と横軸にとり、各社の現状と今後の戦略を図解化。百貨店やショッピングセンター(以下SC)、製造小売、ネット小売、コンビニやGMS(総合スーパー)まで、小売業の先進各社が現在どのように自社の立ち位置を描き、どう進もうとしているのかを解説する。

数年前までは、各社が自社の業態内で競合との差別化に注力してきた。しかしオムニチャネル化が進むことで、前述のように商圏という概念が消え、ひとつの企業がいくつもの販売チャネルを持つようになると、業態の境が曖昧になってくる。
「例えば三越伊勢丹は、独自開発や独自仕入れ商品を増やすことで、商流を製品の企画や製造工程にまで拡大していく戦略です。一方で同じ百貨店でも昔からテナント要素の強い高島屋は、よりパルコやルミネに近づいて『複合商業施設』業態として拡大する戦略のようです」。

中~高頻度で購入される生活必需品を扱う業態でも、プライベートブランドへの注力や流通プラットフォームの強化など、総合小売業に向けて各社が凌ぎを削ってる。さらに本講演当日、ファーストリテイリングとセブン&アイホールディングスが提携することが明らかになった。ユニクロの流通網として、セブンイレブンが機能することになるわけだ。