人間の脳の特性研究から生まれたデータ・ビジュアライゼーションを活用
ここまで、一連のドラッグ&ドロップの動作で、勝手にグラフが出てきた。これが1997年から研究してきた成果で、これをビジュアル分析、データ・ビジュアライゼーションという。元となっているのは、ゼロックスのパロアルトの研究所による、ほぼ30年前の研究だ。並木氏は「この中にはまさに現在、ビッグデータに直面している皆さんにとって、重要な鍵がある」と語る。
ビッグデータの処理は人間の能力では限界がある。しかしグラフ化、可視化することにより、人間はビッグデータを直感的に理解することができる。そこで数字が意味を持ってくる。そのためには適切なグラフ表現が必要だ。棒グラフを使うことにより、売上高の比較がすごく分かりやすくなった。色のグラデーションを使うことにより二つ目の数値、利益が瞬時に分かる様になる。
またドラッグ&ドロップという動作は、ユーザー体験だ。質問に対して答えを得る、仮説に対して検証を得るということが、あたかもデータを手で触っているような、疑似体験ができるようになっている。
「この仕組みを、圧倒的に高速な処理で行うことにより、皆さんがデータの中に没入し、一番やりたかったこと、この中にある宝物を探して問題点を見つけることができるのです」(並木氏)。
さて今、収益が悪いものがあるという問題点が見つかった。マーケティングが原因ではないかと考え、宣伝費をこのグラフの中に入れてみる。今度は太さで宣伝費が表現されており、どうやらこれが原因ではないようだ。
今度は地域別に見るとどうか。出荷先の都道府県の情報が入っていたので、それをTableauに認識させると、今度は地図で表現し、売上量を円の大きさで示した。すると静岡や埼玉、北海道と、東日本で、配送センターがある関西から離れるほど収益が良くない、赤字になっていることが分かる。
ここまでのデモで分かるように、この道具を使うことにより、資料を作るスピードが上がる。しかし、それだけではない。本来やりたかったこと、「正しい情報を元にして、正しい判断を短時間で作れる」ようになる。視点を切り替え、モデリングをしていく感覚で、どんどんデータを彫り込んでいける。
高度な分析やITの知識がなくても、効果的に情報から宝の山、問題点、解決策などを見つけることができる。
続けて並木氏は、IoTにおけるデモを紹介した。ショッピングセンターのカートにセンサーを付け、その動きのデータをTableauでプロットしたもので、滞在時間が長い所の円が大きくなっている。特定の人が、フロア内をどう動き、どこで購買したかのデータを見ることもできる。今はこうしたデータを簡単に取れるのだが、そのデータをどう使っていいかが分からないケースも多い。しかしデモのようにフロアの地図に載せて見たら、業務の知識がある担当者には途端に「あそこに生鮮食品があるから何かあった」と分かる。
また時間ごとの動線の変化を見れば、「タイムセールを何処でやったらいいのか」、「効果的な陳列の方法」などの戦略、計画を立てることができるようになる。ITの専門家に頼らなくても。すでに国内のスーパー、リテールで、こうしたものを使っての分析が行われている。
並木氏は「ビッグデータもたとえば、Tableauとクラウド型のデータベースと組み合わせることにより、簡単に分析ができる。こうした仕組みを使い、製品を作っているのは、皆さんがデータを活用し、何か成果を上げてもらいたいから」と語る。また学生に無償配布しているのは、データに慣れ親しむことにより、将来、次世代の方々が、正しい情報で、正しい判断を迅速にして行動できるように育てたいと目的からだという。
人間の脳は、数字と視覚では認識する仕組みが異なっている。数字が五個以上になると、数字ではなく視覚対象が動き出す。この仕組みを上手く使い、脳をハッキングするテクノロジーが、30年かけて作られてきたデータ・ビジュアライゼーションだ。Tableauはその仕組みを使い、効果的なグラフなどを効果的に作れるようになっている。
また人が情報を理解して行動につなげるための流れはウォーターフロー、計画ではない。データを取ると何かに気づき、行動する。または試行錯誤し、行ったり来たりする。これを実現するためには、優れたユーザーインターフェースが必要になる。ウィザードではなく、思い立ったらすぐに使える仕組みが必要なのだ。
Tableau社を創業した3人の一人、パット・ハンラハン教授は、スティーブ・ジョブスがオーナーだったことでも知られるアニメーション制作会社ピクサーの創立メンバーでもある。彼は「人間は、情報を処理する力をもっと持っているはずだ。そのためには、良い道具を与えてあげれば、発揮できるのではないか」と思っている。そのためにこの道具を作った。
並木氏は「Tableauのような優れた道具を使い、データを使ってExcelとPowerPointの代わりにコミュニケーションできるような世界を作っていって下さい。そうすることで、きっと皆さんがハッピーな顔になると私たちは思っています」と語り、講演を終えた。