データ分析、資料作成における課題は時間と分かりやすさ
Tableau 社の創業は2003年で、本社はワシントン州のシアトルにある。元々は1997年、スタンフォード大学の小さな研究室から生まれた。同社の製品は現在、全世界で3万5000社以上の企業、団体で活用されている。日本法人の登記は2012年11月。並木正之氏が第一号社員である。Tableau全体の四半期ごとの売上高は、対前年同期比で64%以上の伸びを続けている。
同社の企業ミッションは、「Help people see and understand their data 私どもは、全ての方々が、ご自分の力でデータを見て理解し、活用することをお手伝いします。」というもの。この目的のためにソフトウェアを作っている会社だ。
2015年2月に調査会社のガートナーが発表したBI、ビジネス・インテリジェンス、情報活用製品市場の調査で、Tableauは主導的地位にあると評価されている。
ビッグデータ、IoTを活用するとき、分析が目的ではない。仕事にデータを役立たせることだ。そこで役立つのがTableau Desktopだ。
セッションでのデモはPC上で行われたが、Macでも動く。基本は、普段使っているExcelやPowerPointと同じようなものと考えていい。業務において数字を集計して分析、つまり理解して行動へつないでいる。その時、よく使われているのがExcel、PowerPointだ。
並木氏は「まず一つの視点から言うと、TableauはExcelやPowerPointに置き換わるものになります」と語る。たとえば、明日の会議のため、今月の売上の予実管理を行う、来年のプランを立てる必要がある。そのためExcelやPowerPointを使い、資料を作るのに数時間かけ、場合によっては徹夜することになるかもしれない。そこでTableauを使うと、作業効率が飛躍的にアップする。
並木氏が示したのは多くの人が直面している、Excelのデータで、何らかの分析をした資料を作成するときのシナリオだ。想定はスーパーマーケットの商品企画の担当者になる。
過去4年間の販売実績データがExcelの中に入っている。知りたいのは何が売れ筋製品なのか、問題点は無いのかなど、要は会議で発表したい情報だ。まず売上という項目のデータをTableauにドラッグ&ドロップしていくと棒グラフが作成され、18億5000万円の売上高があることも分かる。
次に受注日からドラッグ&ドロップ。続けて製品データを入れ、サブカテゴリーに分けると、棒グラフが分割された。ここでどのカテゴリーの売上が高いのか、高さで並べ替えてみると、トップ4が抜きんでて売上を牽引していることが分かった。
では、利益の方はどうなのか。利益という項目をこの中に落とすと、今度は赤と緑色のグラデーションで表現された。見てみると3番目に売れていた家具の中のサブカテゴリー、テーブルが実は収益では1番の問題児だということが判明した。
人間の脳の特性研究から生まれたデータ・ビジュアライゼーションを活用
ここまで、一連のドラッグ&ドロップの動作で、勝手にグラフが出てきた。これが1997年から研究してきた成果で、これをビジュアル分析、データ・ビジュアライゼーションという。元となっているのは、ゼロックスのパロアルトの研究所による、ほぼ30年前の研究だ。並木氏は「この中にはまさに現在、ビッグデータに直面している皆さんにとって、重要な鍵がある」と語る。
ビッグデータの処理は人間の能力では限界がある。しかしグラフ化、可視化することにより、人間はビッグデータを直感的に理解することができる。そこで数字が意味を持ってくる。そのためには適切なグラフ表現が必要だ。棒グラフを使うことにより、売上高の比較がすごく分かりやすくなった。色のグラデーションを使うことにより二つ目の数値、利益が瞬時に分かる様になる。
またドラッグ&ドロップという動作は、ユーザー体験だ。質問に対して答えを得る、仮説に対して検証を得るということが、あたかもデータを手で触っているような、疑似体験ができるようになっている。
「この仕組みを、圧倒的に高速な処理で行うことにより、皆さんがデータの中に没入し、一番やりたかったこと、この中にある宝物を探して問題点を見つけることができるのです」(並木氏)。
さて今、収益が悪いものがあるという問題点が見つかった。マーケティングが原因ではないかと考え、宣伝費をこのグラフの中に入れてみる。今度は太さで宣伝費が表現されており、どうやらこれが原因ではないようだ。
今度は地域別に見るとどうか。出荷先の都道府県の情報が入っていたので、それをTableauに認識させると、今度は地図で表現し、売上量を円の大きさで示した。すると静岡や埼玉、北海道と、東日本で、配送センターがある関西から離れるほど収益が良くない、赤字になっていることが分かる。
ここまでのデモで分かるように、この道具を使うことにより、資料を作るスピードが上がる。しかし、それだけではない。本来やりたかったこと、「正しい情報を元にして、正しい判断を短時間で作れる」ようになる。視点を切り替え、モデリングをしていく感覚で、どんどんデータを彫り込んでいける。
高度な分析やITの知識がなくても、効果的に情報から宝の山、問題点、解決策などを見つけることができる。
続けて並木氏は、IoTにおけるデモを紹介した。ショッピングセンターのカートにセンサーを付け、その動きのデータをTableauでプロットしたもので、滞在時間が長い所の円が大きくなっている。特定の人が、フロア内をどう動き、どこで購買したかのデータを見ることもできる。今はこうしたデータを簡単に取れるのだが、そのデータをどう使っていいかが分からないケースも多い。しかしデモのようにフロアの地図に載せて見たら、業務の知識がある担当者には途端に「あそこに生鮮食品があるから何かあった」と分かる。
また時間ごとの動線の変化を見れば、「タイムセールを何処でやったらいいのか」、「効果的な陳列の方法」などの戦略、計画を立てることができるようになる。ITの専門家に頼らなくても。すでに国内のスーパー、リテールで、こうしたものを使っての分析が行われている。
並木氏は「ビッグデータもたとえば、Tableauとクラウド型のデータベースと組み合わせることにより、簡単に分析ができる。こうした仕組みを使い、製品を作っているのは、皆さんがデータを活用し、何か成果を上げてもらいたいから」と語る。また学生に無償配布しているのは、データに慣れ親しむことにより、将来、次世代の方々が、正しい情報で、正しい判断を迅速にして行動できるように育てたいと目的からだという。
人間の脳は、数字と視覚では認識する仕組みが異なっている。数字が五個以上になると、数字ではなく視覚対象が動き出す。この仕組みを上手く使い、脳をハッキングするテクノロジーが、30年かけて作られてきたデータ・ビジュアライゼーションだ。Tableauはその仕組みを使い、効果的なグラフなどを効果的に作れるようになっている。
また人が情報を理解して行動につなげるための流れはウォーターフロー、計画ではない。データを取ると何かに気づき、行動する。または試行錯誤し、行ったり来たりする。これを実現するためには、優れたユーザーインターフェースが必要になる。ウィザードではなく、思い立ったらすぐに使える仕組みが必要なのだ。
Tableau社を創業した3人の一人、パット・ハンラハン教授は、スティーブ・ジョブスがオーナーだったことでも知られるアニメーション制作会社ピクサーの創立メンバーでもある。彼は「人間は、情報を処理する力をもっと持っているはずだ。そのためには、良い道具を与えてあげれば、発揮できるのではないか」と思っている。そのためにこの道具を作った。
並木氏は「Tableauのような優れた道具を使い、データを使ってExcelとPowerPointの代わりにコミュニケーションできるような世界を作っていって下さい。そうすることで、きっと皆さんがハッピーな顔になると私たちは思っています」と語り、講演を終えた。