バドワイザーのスーパーボールCM「Lost Dog」
2つ目はバドワイザーの「Lost Dog」です。シェア数のランキングは約280万件と5位ですが、YouTube上の再生回数ではランキング内3位の約3060万回となっています。
Hook
この動画の最大のHookポイントは、1つ目の動画と同じ「時事性」と、「事前キャンペーン」です。
アメリカンフットボールリーグNFLの優勝決定大会であるスーパーボールは、例年テレビで中継される際に年間最高視聴率を記録する程、国民的行事となっています。
ゆえに、そのCM枠は世界で一番高額な枠と言われ、広告会社とスポンサー企業が全力を掛けてアイデア溢れるCMを展開する場でもあります。従って、元々注目度がとても高く、TVと連動してオンライン動画の視聴も伸びやすい、時事性の高いタイミングなのです。
ただ、もちろんスーパーボールにぶつければ全ての動画がヒットするわけではありません。バドワイザーは、スーパーボールを迎えるにあたり、Twitterで以下の投稿を行いました。
#BestBudsのハッシュタグと共に、写真に写った子犬の居場所をつぶやくと、スーパーボールの観戦チケットが当たる、という内容です。
また、更にバドワイザーブランドの顔として長年位置づけられ、CMにも頻繁に出演してきたクライスデールという種類の馬が、子犬を探しているようなティザー動画の配信も行われました。これらによって、スーパーボールCMへの事前の注目を集めたのです。
Help bring our lost pup home. RT+Follow and you could win #SB49 tix. #BestBuds http://t.co/RyO0Ru5bL1 #sweeps pic.twitter.com/obvURsl30u
— Budweiser (@Budweiser) 2015, 1月 23
Enjoy
この動画は感動的な内容ですが、視聴者個人の境遇やスタンスと重なる内容というよりは、感動を楽しむ類のものであるという意味で、Enjoyに分類されます。その上でのポイントは、「本物感のある動物」「愛」「辛さ」、かつ「少ない宣伝要素」です。
御存知の通り動物は世界中で人気の題材で、見ているだけで癒されると感じる人も多いでしょう。しかし、動物ならなんでもよいわけではありません。
ネットでは特に「本物らしい動物」が重要視されます。オランダの航空会社の事例で、遺失物を持ち主に返却する仕事をする犬、という動画が話題になったことがありました。実際にはこの動画はフェイクなのですが、これは本当に存在すると誤解が広まった事で、動画自体も話題になりました。
また、ドラマの形式をとった動画では、多くの場合「愛」と「辛さ」の要素が強く入ることも特徴です。バドワイザーの場合はそれが「異種間の強い友情」という愛と、「迷子」という辛さでした。
辛い経験を、愛情をテコに乗り越えるという普遍的な物語は、それが広告だと分かっていても、人の琴線に触れるわけです。でも、そんなことは当たり前じゃないか、と思われる方もいらっしゃるでしょう。
そこで最も重要になるのが、「少ない宣伝要素」です。企業が作る動画のほどんどは、ビジネスへの貢献が最終目的です。そのため、どうしても動画内に商品を出したい、商品について説明したい、という要求が出てきます。
バドワイザーの動画で言えば、主人公の男性が犬を失った後、パブでビールをあおっているシーンを入れたい、といった話が出てくるわけです。しかし、そういった内容を盛り込んでいると、本題の物語が次第に宣伝臭くなっていき、視聴者の視点からすると、シェアしにくいものになってしまいます。
バドワイザーは、動画の内容を「BestBuds(親友)」という言葉と、バドワイザーの”Bud”を掛けた友情ストーリーに設定し、看板キャラであるクライスデール馬を主役級に据えて、バドワイザーのブランドを想起させる外堀を組みましたが、その代わりに「友情の物語」自体に商品、ブランドの宣伝を入れることはしませんでした(実は主人公の男性の帽子にちらっとバドワイザーのマークが入っていますが、大半の人は気づかないでしょう)。
ぐっと宣伝したい欲求を抑えて、コンテンツに倒すこと。これが施策の成否を決める重大な境界線です。
Show
バドワイザーは、動画の内容を見た人々の間で、更に話題になるような仕掛けも行っています。動画公開後、バドワイザー公式のTwitterで、以下の様な意味不明な投稿が行われました。
xjkoweaiodsgajkse;loszdetghjkeiouqw3 nsk;oaw
— Budweiser (@Budweiser) 2014, 1月 31
実は、この動画は例の子犬が勝手に書き込んだのだ、ということにしたのです。その後も子犬による書き込みを複数仕掛けることで、動画を視聴し、ファンになった人たちに「コミュニケーションのネタ」を提供したわけです。
Oops. It seems our #SuperBowl pup really wants to tweet! See what the little guy has to say @BudweiserPuppy #BestBuds pic.twitter.com/DmBJUQQ0fY
— Budweiser (@Budweiser) 2014, 1月 31
コンテンツイズキングの潮流
以上2つの事例をリバースエンジニアリングするとネット上で広く話題になり、エンゲージメントが生じる動画で重要なのは、「いかに限界までコンテンツに寄せた広告を作るか」という点だと分かります。
インターネット上は、視聴者の反応がダイレクトに可視化されるがゆえに、人気のあるものと無いものの差が明確に出る、民主的でシビアな世界です。
アメリカでは、このトレンドを「Content is King」と呼んだりしますが、メディアが視聴者に直接リーチできる経路が減り、Facebook等のプラットフォームが台頭する中で、コンテンツの内容こそが問われるという状況は、中長期的に不可逆的な流れです。
2016年は、これまでより一歩踏み込んで、コンテンツに近づけた広告に挑戦してみてはいかがでしょうか。さて、次回はこれまでの議論を振り返りつつ、動画の使い方と購買ファネルの関係、動画の種類別KPIについてお話します。 お楽しみに。