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広がるテレビの価値を計測し、あらゆる視聴の場で収益を得る新たなビジネスモデルを【氏家x有園対談】


 アタラ合同会社が運営するメディア「Unyoo.jp」から、コラムやキーパーソンへのインタビュー記事をピックアップして紹介する本連載。今回は、アタラ 取締役 COOの有園氏が、鋭い洞察力でテレビ業界を斬る言論者の氏家夏彦氏に行ったインタビューの要約版です。

氏家夏彦(うじいえ・なつひこ)氏
メディア論ブログ「あやぶろ」編集長、放送批評懇談会機関誌「GALAC」編集委員。 東京大学経済学部卒業後テレビ局入社。報道、バラエティー、情報番組、管理部門、デジタル部門、放送外事業を担当した後、メディア総合研究所代表を経て現在はテレビ局関連企業経営。

危機意識を持ち始めたテレビ局

有園:最近よく「テレビ業界は元気がない」という声を聞きます。しかしながら、フジテレビが1959年の開局以来初の赤字に転落したというニュースがあった一方で、民放連の井上会長のかけ声で始まったといわれる「TVer(ティーバー)」が開始から3週間で100万ダウンロードを突破したというリリースも耳にしました。テレビコンテンツはスマートフォンでも見られている時代になりました。そういった状況の中で、テレビ業界およびテレビ局の未来について氏家さんはどのようにお考えでしょうか。

氏家:数年前までは、テレビ局に対しては「悲観的になりましょうよ」というメッセージを私は意識的に発信していました。悲観的にならなければ正しい危機意識を持つことができません。正しい危機意識を持ってはじめて具体的な動きができるわけですから。

 ここにきていろいろな動きが一気に進んできたのも、各局のみなさんがしっかり危機意識を持つようになったから、変化のスピードが急に上がったのだと思います。イノベーションを起こす原動力になるものは「ヤバイよ」という気持ち。それを持つ人が増えていることは、僕は良いことだと思っています。それによってテレビの未来は明るくなるんですから。

有園:僕は、氏家さんはテレビ業界に対して啓発する意識をもって発言されてきたんだろうなと思っていました。少しずつ状況が変わり、未来を語れるようになってきましたね。2008年秋のリーマンショックの影響で、テレビCMの視聴率1%あたりの収入が2009年に底を打ちました。その後、2010年以降、CMの単価が上がっている。けれども、いわゆる全日視聴率が落ち続けているといわれています。このままでいいのでしょうか。

氏家:テレビの視聴率が落ちているのは動かしがたい事実であって、いまでも落ち続けています。これは受け止めなければなりません。視聴率が減っているのは、テレビを見ている人が減っているからです。特に若い人を中心に。これによって何が起きるか。今のところ景気が上向いているので、テレビ広告費は少しずつ増えています。でも、この先に何かあればドーンと落ちる恐れがあります。

 この5年ぐらいは、視聴率が下がっているのに広告市場は膨らんできました。膨らんできた分が一気に弾けて、すごく悲惨なことになるのではないかと警戒し、まずはそれに備える必要があります。未来にそういうことが起きることを想定しながら対策を練らなければ危険です。

 広告収入が減るということは制作費が減るということです。一番大事なコンテンツを生み出す源泉が無くなるということです。いくら「安くても良い番組を作ればいい」といったって、それには限界がある。そうした事態に備えていかなければなりません。

リアルタイム視聴の促進

氏家:そのために必要なことは2つあります。ひとつは、リアルタイム視聴の促進です。テレビは視聴率が下がっているとは言っても、リーチ力では他の媒体に比べて地上波は圧倒的。その地上波の利点をどうやって伸ばしていくのか。視聴率が下がったとしても見る濃度、濃さが高まればいい。

 テレビは一度に多くの人に見られる、いわば広い面積を取れるメディアですが、奥行きが浅い。気に入ったドラマであれば奥行きは深いけれど、そういうドラマって録画されてしまうんです。例えば、絶対に見たいドラマは、録画をして視聴する人が増えています。そして録画視聴している人の8割くらいがCMを飛ばしてしまうので、今のテレビのビジネスモデルでは苦しくなってしまいます。その状況をどうやって乗り越え、どうやって媒体価値を高められるか。その解がリアルタイム視聴の促進です。

有園:リアルタイム視聴という言葉は、録画ではなく普通にテレビを見るという意味で使っていますか?

氏家:そうです。生で見ること、生放送という意味ではなくて、放送しているのをそのまま見ることをどうやって促進していくか。そのやり方の1つとして有望だと思っているのが「みんなで見ているのを実感してもらう」「みんなで盛り上がる」というものです。

 盛り上がっていることが視聴者に伝われば、視聴者が参加している感を得ることができるのではないでしょうか。特に、スポーツイベントはそうかもしれませね。それってリアルタイムでやらなければできませんから、リアルタイム視聴を促進することになります。1年ほど前までは各局とも積極的にやっていたのですが、最近はあまりやりません。期待したほど視聴率に反映しないためらしいのですが、目的を「視聴率アップ」から「視聴者を放送に巻き込む」に変えて、継続的にトライしていくべきだと思います。

テレビCMの効果を上げる

氏家:二つ目は、CMの効果を上げることです。今はただ流れているCMをたまたま見ているだけで、普通の視聴者は、CMタイムに入ると意識がCMから離れてしまう。CMをただ流れるものではなく付加価値を付けていく。例えば、セカンドスクリーン連動もいろいろ試行錯誤しているけれど、イケてる方法が見つからない。

有園:TBSは「ぶぶたす」アプリで番組と連動したことをやっていますよね。

氏家:あれは大変よくできているアプリですが、もっとユーザー目線でサービスを考えて、こっちが何をやりたいかではなくユーザーにとって面白いセカンドスクリーンサービスという発想を突き詰めれば、さらにいろいろなことができると思うんです。テレビ局が自分たちだけでやるのでなくサードパーティにも解放して、面白いアイデアを持ってきたところとは一緒に組んでやればいい。

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この記事の著者

有園 雄一(アリゾノ ユウイチ)

Regional Vice President, Microsoft Advertising Japan

早稲田大学政治経済学部卒。1995年、学部生時代に執筆した「貨幣の複数性」(卒業論文)が「現代思想」(青土社 1995年9月 貨幣とナショナリズム<特集>)で出版される。2004年、日本初のマス連動施策を考案。オーバーチュア株式会...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2016/03/11 20:02 https://markezine.jp/article/detail/23825

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