今マーケティングオートメーションが求められる理由
2014年ごろを境に、日本にマーケティングオートメーション(以下、MA)の概念が登場し始めた。そして国内・海外のベンダーから様々なMAツールが出てくる中で、「“MA”という言葉は輪郭を失い始めている」と語るのはフロムスクラッチ 代表取締役社長の安部 泰洋氏だ。
フロムスクラッチは、この1年間で100社以上の企業にマーケティングオートメーションプラットフォーム「B→Dash」を提供してきた。その中で安部氏はMAを“One to One マーケティングを実現するソリューション”であると再定義したという。
「これからのマーケティングでは、顧客立脚が求められます。企業都合の視点で一方通行のアプローチをするマーケティングから、ユーザーの都合に合わせたアプローチへの転換が重要視されています。属性情報や行動情報などを起点に、ユーザーと双方向のコミュニケーションをとりつつ、企業側のアプローチをユーザーの状況に合わせて最適化していくことがOne to Oneマーケティングの本質です。
例えば、“30代会社員のユーザーがメールマガジンを開封したら追加でその内容に対応したメールも送ろう”、“その後メールも開封してホームページに流入し3分以上滞在したら、クーポンを発行しよう”とユーザーの状況に合わせ、アプローチや施策を変えていくことが求められています」(安部氏)
そして、MAの導入が加速度的に進んでいる背景には、「“見込み客管理の壁”に直面している企業の増加がある」と安部氏は指摘。広告偏重型の日本のマーケティングは、CPA至上主義となり、新規会員や新規のリードの獲得ばかりに広告予算を割いてきた。
しかしそれだけでは、売り上げを最大化することは難しい。そこで重要になってきたのが見込み客の管理だ。集めたリードの未受注企業・未購入ユーザーを管理し育成(ナーチャリング)した方が、売上にインパクトを与えるという考えが企業間で広まり、結果としてMAの導入が進んだ。
営業の特性によって生まれる放置されたリード
では、MAの導入されるマーケティングには、どういった問題が起きているのか。例えば、BtoBの企業で営業1人の新規訪問数が月30件、そこからの受注率が10%だったと仮定した場合、27件が未受注案件となる。営業10名が仮に同じ成績だった場合、未受注案件は1ヶ月に270件、1年で3,240件にまで膨れ上がる。もちろん、この未受注案件の中には、タイミングによっては受注につながる可能性を秘めた案件もあるはずだ。
しかし、安部氏によれば、営業の特性上、それを受注につなげることが難しいという。
「営業は例えるならば、狩猟民族です。目の前にある受注につながりそうな熱い案件は、追うなといっても追う。そのため、極端な表現をすれば、農耕民族が種をまき収穫までこつこつ植物を育てるように、長期に渡ってリレーションを築きながら関係性を構築していくことは、営業には向いていないと理解する必要があります」(安部氏)
また、この現象はBtoCの企業でも同様に起こりうる。例えば、ある結婚相談所の月間の広告コストが1,000万円で、CPAが1万円と仮定すると1,000件のリードが蓄積される。その1,000件のリードのうち200件が来店につながったとして、残り800件は同様に放置されてしまう。この800件が1年間続いた場合、金額に換算すると、年間9,600万円分の放置されたリードが生まれてしまうのだ。
どちらのケースでも膨大なリード数になっているが、この中から受注、申込に繋がる案件を導き出せるのがMAだという。
「人の力でこの問題を解決するには、限界があります。そこで、テクノロジーの力を借りることで、マーケティングの無理・無駄・ムラを無くそうという発想で生まれたのが、MAというサービスなのです」(安部氏)
マーケティングオートメーションに潜む3つの罠
MAに対するニーズの高まりの背景がわかったところで、安部氏はMA導入時に起きやすい3つの問題、「コスト・工数の増加」「効果測定・ROI算出が困難」そして「高難易度なシナリオ設計、運用」を挙げた。
まず「コスト・工数の増加」は、MAを導入すると、「顕在コスト」と「潜在コスト」が増加傾向になる企業が多いという。
顕在コストとは、ツールにかかる費用のことを指す。初めはMAを導入するだけのつもりが、スコアリングの精度を上げるために分析ツールを導入し、営業サポートのためにSFA(営業支援システム)を導入するなど、結局、成果を追及していくとMAだけでは必要機能をカバーできなくなり、新たなツールを導入することで費用が増加してしまうという。
一方、潜在コストとは業務にかかる負荷だ。MAだけでなく他のツールを複数導入することで、業務が複雑化し、潜在コストも非常に高くなってしまう。各ツールからのデータ抽出や上長へ提出するレポートの作成といった作業で1日の大半が奪われてしまうといった状態に陥るケースもある。
2つ目の「効果測定・ROI算出が困難」は、集客施策・販売促進・顧客管理という3つのマーケティングステップにおいて、ツールやデータがステップごとに分断されているがゆえに、どのシナリオや施策が最も費用対効果が高いのかがわからない。それにより、最も成果の上がる施策をMAで自動化させていくことが困難になってしまう。
シナリオ設計の成功モデル「4S」とは
そして、安部氏が最も熱く語ったのは、3つ目の「高難易度なシナリオ設計、運用」に関してだった。「シナリオ設計とは、誰に、何を、いつ、どのように伝えていくのかを決めること。ほとんどの組織では、このシナリオ設計につまずき成果が上がっていない」と語る安部氏。至極当然のことに思えるが、実現するまでのハードルが高い。
「本日のセッションで1番重要なテーマであり、MAを導入している企業からいただく相談の中でも、圧倒的に多い。ただ、我々の実績から導き出したフレームワーク『4S』を元に苦戦しないポイントを解説したいと思います」(安部氏)
「4S」とは、安部氏が「B→Dash」を導入している顧客企業に対するコンサルティングの中で誕生した理論。具体的には、「Star target」「Scoring on hotlead」「Small campaign」「Special content」という4つのポイントの頭文字をとっている。ひとつずつ詳しく見ていこう。
まず一つ目の「Star target」は、重要・重点顧客にターゲットを絞ることを表している。
「MAはターゲティングを細かく行えます。しかし、細かくした分ターゲットごとにスコアリングやキャンペーンの設計をする必要があるため、膨大な工数がかかってしまう。また、優先順位が曖昧になりやすく、明確な効果が感じられにくい」と安部氏は指摘する。そして同氏は、最初に「Star target=ロイヤルカスタマー」を明確にすることの重要性を説いた。
「重点を置くターゲットを設定し、まずその中での収益化に注力します。その後、徐々にターゲットを増やしていくという考え方が必要です。ほとんどの企業は、はじめから細かいターゲットの分類に必死になる傾向が強い。しかし実は、まずは重点を置くターゲットに勇気を出して絞り込んでしまうことが重要なのです」(安部氏)
2つ目の「Scoring on hotlead」はホットリード、つまり受注や申込に繋がりやすいリードの定義を明確にし、スコアリングしていくことを指す。
「先に施策別にスコアリングを設計してしまうと、スコアが高いのにホットリードとは程遠い案件が出てくることがあります。ホットリードの定義を明確にしていれば、多少スコアリングの設計が甘くなっても、PDCAを回す中で調整することが可能です。言葉にすると本当に単純なことですが、これが実際に導入してみると相当難しい。ホットリードではないリードを営業に渡してしまい、成果につながらないケースが数多く見受けられます」(安部氏)
キャンペーン、コンテンツ設計のコツとは
安部氏が続けて3つ目のS、「Small campaign」について解説した。これに関して、同氏は代表的なキャンペーンモデルを3つ紹介した。
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Retention Model(リテンションモデル):ユーザーの情報行動別に継続して
特定コンテンツを定期的に配信・供給していく。
<例>定期的なセール情報配信、新着商品・新着情報配信 -
Trigger Model(トリガーモデル):複雑なスコアリングは設定せず、
ユーザーの特定行動ごとに次のステージへとシンプルに移行させる。
<例>定期的にクーポンを配信し、DLしたらセール招待を送り、刈り取るなど -
Concierge Model(コンシェルジェモデル):ユーザーの属性行動ごとに細かくスコアリングし、
まるでコンシェルジェがついているような個別対応をデジタルで実現。
ユーザーの購買意欲促進につながりやすいが、最も難易度が高い。
<例>メールを開封(3点)し、URLをクリックしてHPへ流入(5点)し、
2分以上滞在(8点)、料金ページを見たら(5点)、次のステージへと移行させる
そして、上記のモデルの中でも、コンシェルジェモデルから取り組もうとするマーケターが多いことに問題があると安部氏は指摘する。
「コンシェルジェモデルは難しい分、設定していることへの満足感が高い。しかしそこに罠があって、こだわりすぎた結果、運用にのらないケースをよく見てきました。結論として、まず着手すべきはリテンションモデルからなのです。簡単なキャンペーンのPDCAを高速で回しながら、徐々に運用の精度を上げ、最終的にコンシェルジェモデルできめ細やかな運用を目指すべきです」(安部氏)
今後は「マーケティングプラットフォーム」が主流に
最後は「Special content」、MAのキャンペーンで利用するコンテンツ設計に関する「S」だ。コンテンツ設計で陥りやすいのは、ありがちで訴求点が定まっていないものになってしまうことだという。そうならないよう、安部氏はコンテンツ作りに役立つ独自メソッド「essence(エッセンス)」を紹介した。
「これらの要素が入ったコンテンツは、ユーザーに響く可能性が高いです。マーケターは“どういったコンテンツを作るか”考えるのではなく、“ユーザーに響くコンテンツは何か”を考えなければなりません。徹底的に反応率にこだわりましょう」(安部氏)
ここまで、安部氏は3つのMAにおける問題解決策を提示した。そして「これらの原因はMAに特化したツールを使っていること」と同氏は語る。
「MAのみならず、ログの解析やA/Bテスト、SFAなどマーケティングに関わる機能をワンプラットフォームで使えることが、これまで挙げてきた課題の解決に大いに役立ちます。統合型マーケティングという言葉が流行ってから数年が立ちましたが、提供されているツールもソリューションも分断されてしまっているのが実態です。
一方、我々が提供する「B→Dash」は、マーケターが求める機能を全て取りそろえ、データも一元管理できるマーケティングプラットフォームです。まさに統合型マーケティングをクラウドで実現できる、まだまだ新しい概念のソリューションです。このようなソリューションの導入により、CPAの最適化にとどまらず、LTVで顧客を捉えることができ、全体最適のマーケティングが実践できます」(安部氏)
安部氏は最後に「今後の潮流は『マーケティングオートメーション』から『マーケティングプラットフォーム』へと変わっていく。分断されたツールを用いて局所最適なマーケティングをする時代から、ワンプラットフォームのソリューションによる全体最適な統合型マーケティングをする時代へ転換しつつある」と語り、講演を終えた。