多くの企業がデータドリブンマーケティングに悩む理由
今や経営戦略の一翼を担うといわれているデータ活用だが、実は企業経営におけるデータ活用は、それほど新しいものではない。特にマーケティング分野では、顧客属性や購買履歴データを基に市場を分析したり、コアとなる顧客層を洗い出したり、店舗ごとの売上把握やテコ入れの施策を打ったりと、さまざまなシーンでデータを活用してきた。
では、今回の記事のテーマである「データドリブンマーケティング」と、従来のデータを活用したマーケティングとは何が違うのだろうか。「マーケティングにデータを活用するのは当たり前」といわれている中、この問いに答えられる専門家は、実はそれほど多くはない。
データ活用基盤として注目されているDMP(Data Management Platform)についても、企業によって定義が異なるのが現状だ。そもそもデータドリブンマーケティングの定義や方法を広告主やITベンダー、デジタルマーケティング専門家が話し合う機会もほとんどない。目の前の課題や施策を話し合うことがあっても、そもそも「データドリブンマーケティングとは何か」という出発点を明らかにしないままスタートするので、多くの企業は手探り状態で進むことになってしまうのではないだろうか。
今回、この「データドリブンマーケティング」という抽象的な概念に関し、真剣に論じ合うのは、データドリブンマーケティングを広告主として実践する日本マイクロソフト、プライベートDMP「TREASURE DMP」を提供するトレジャーデータ、そしてデジタル広告事業・メディア事業を展開するSupershipの3社。それぞれの立場から、データドリブンマーケティングについて語ってもらった。
今の「データドリブンマーケティング」は、昔と何が違うのか
さて、冒頭の「従来のマーケティングにおけるデータ活用と、今のデータドリブンマーケティングとは何が違うのか」という問いに対し、日本マイクロソフトにてデジタル広告とDMPのオペレーションを担当する松田恵利子氏は次のように答えた。
「今までのデータ活用は、『分析して、過去の実績を見ること』でした。これに対し、今のデータドリブンマーケティングには2つの意味があると考えています。1つは、現状把握と次の打ち手を考えるためにデータを活用すること。もう1つは、マーケティングテクノロジーを使ってデータそのものを活用し、施策に適用することです」(松田氏)
これまでは顧客属性の分析によるコアターゲット層の抽出や広告配信後のレポート閲覧が、データ活用の大半を占めていた。しかし、昨今では施策に直接データを活用することができる。たとえばオーディエンスデータをもとにターゲティング広告を配信するなど、施策とデータが密接に関わるようになった。つまりデータが結果を知るためのみならず、攻めの一手としても活用されているのだ。
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マーケティングにおけるデータの価値
松田氏の話を受け、Supership CMO(2016年5月当時)の菅原健一氏はデータドリブンの定義に関して「統計的な数字に基づいて判断・行動すること」と述べ、次のように説明する。
「データを使うことで、広告枠のバイイングはもちろん、どういったクリエイティブで誰に配信するかという適切な投資判断ができるようになります。米国や英国、オーストラリアなど広告が成熟した市場ではデジタル広告の比率が50%を超えており、さまざまな形でデータは積極的に活用されています」(菅原氏)
具体的には、オーディエンス分析やメディアミックス戦略の立案・最適化、顧客セグメンテーション、クリエイティブの改善など枚挙にいとまがない。
また菅原氏によれば、データを使うことで適切な投資判断ができるのはもちろん、データ活用の環境が整備されるためPDCAサイクルも加速するという。
「こうして投資判断を最適化・迅速化できるというのは、経営上、非常に大きなインパクトになります。実際グローバル単位でみると、競争力優位のためにデータ活用は欠かせないと考えている経営者はすでに6割を超えています」(菅原氏)
日本マイクロソフトの松田氏も次のように語る。
「データドリブンマーケティングを行うメリットのひとつに、数字を使って施策の効果検証ができるという点が挙げられます。たとえば『この投資戦略によってCPAがこれだけ下がった』というように、部門が異なってもデータを共通言語として使えるため、課題の共有や取り組みがスムーズに進みます」(松田氏)
データドリブンマーケティングに火が付いた理由
海外ではデータドリブンマーケティングが強化される中、国内に目を転じると、データ活用に積極的な企業はまだまだ少ないのが現状だ。これについて、トレジャーデータでマーケティング担当ディレクターを務める堀内健后氏は「米国のように国土が広く、多様な人種で構成されている市場に比べ、日本は1つの商材を全国に訴求しやすいという商習慣があったことと関係しているでしょう」と指摘する。
ただ、ネットサービスが拡大・増大するに連れ、顧客の動向を探るためにデータを“見ざるを得ない”という状態になっているのも確かだ。リアルであれば顧客とコミュニケーションを図ることで、顧客の感情や動きは把握しやすい。しかし、ネットでは購買や口コミ、サイト訪問など顧客の行動ログを見なければ、状態を把握することはできない。
これは何もネット専業ビジネスに限った話ではない。リアル店舗のほかにECを展開する企業は多いし、BtoB分野でもネット経由で取引先の開拓を進めるケースもある。国内の中でも、データ活用が競争力の源泉になると気付いた企業は、先んじてTREASURE DMPなどの基盤を活用しているという。
また堀内氏は、自社で提供するTREASURE DMPを例に挙げ、「クラウド環境の進化は、データドリブンでマーケティングを行うハードルを下げた」とも説明する。20年前であれば、データを集約するだけでもハードウェアやミドルウェア、データベースなど莫大な投資が必要となり、開発工数も長期に及んだ。これに対し現在は、申し込みをすれば即日データ基盤が利用できる。コストや工数をかけずにデータ基盤を利用できる環境が、データドリブンマーケティングの加速に大きく貢献しているのだ。
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多くの人が勘違いしているDMPの本当の価値
データ活用において、切っても切り離せない存在として注目されているDMPだが、現状と理想には大きなギャップがあると、菅原氏はいう。
「DMPは、集める・分析する・活用するというシンプルな基盤が理想です。しかし、ほとんどのDMPは、特定の施策に使うことを前提としたものになってしまっています」(菅原氏)
一方、トレジャーデータでは、これまで提供してきたクラウド型データマネジメントサービスが、DMPとしての活用されるケースが増えてきたため、データを蓄積することに特化し「TREASURE DMP」としてサービス化した。同サービスではCRMなどの業務データやWebアクセスログ、メール配信ログなどあらゆるデータを集約できる。そして、APIを公開することで、さまざまなソリューションと柔軟に連携できるようにし、菅原氏のいう「集める・分析する・活用する」という条件を満たした。
最近ではMicrosoft Azure(以下、Azure)との連携も開始し、TREASURE DMPで蓄積したデータをSQL DatabaseやPower BIに展開できるようになる。ためるデータは、どんなフォーマットのどのような種類のデータでも問わない上に、それをどう活用するかも企業の戦略次第だ。そのためにオープンなAPIを備え、自由な活用を促しているという。
Azureのユーザー企業は、デジタルマーケティングで実績のあるTREASURE DMPでAzureに溜まったデータを分析、戦略的に活かせることになる。またTREASURE DMPのユーザーは、IoTや機械学習など、エンタープライズクラウドとして実績のあるAzureで手もとのビッグデータから更なる価値を生み出すことができる。「両社のお客様に対し、AzureとTREASURE DMPのシナジーが新しい価値を提供できるようになる。その相乗効果にも期待しています」と堀内氏は語る。
これに対し、自社でAzureを活用し、また現在パートナーとしてTREASURE DMPの導入支援を行っているという菅原氏も「もともとDMPは、『たまってくるデータをどう活用するか』という思想から生まれたものです。そのため、あらゆるデータを蓄積でき様々なツールと連携できるTREASURE DMPは、DMP本来の価値を提供していると思います」と語った。
広告主もデータやテクノロジーの知識が必要
このデータの集約・活用に対する考え方について、堀内氏は「データドリブンの思想を先進的に取り入れている企業では当たり前のように取り組んでいる」と語る。たとえば、ECとリアル店舗を展開している場合、一昔前であれば両方のチャネルで顧客を“奪い合う”という図式が見られた。ところが現在は、双方のデータを活用し、ECからリアル店舗への誘導シナリオを描くなど、チャネル別ではなく企業全体として売上向上を目指す動きが広まっている。
データの活用方法もさまざまだ。たとえば良品計画では、アプリやPOSのデータをTREASURE DMPに蓄積し、専門のアナリストの分析に利用するのはもちろん、Azureを通じてExcelに分析結果を展開して各店舗の責任者が自らデータ分析できる仕組みを構築している。(関連記事はこちら)
これにより、「メール配信したい」「広告配信したい」と施策ありきではなく、「売上を上げるためにはどのマーケティング施策を選択すべきか」と課題を主軸に蓄積されたデータを基に判断できる環境を整備しているのだ。
松田氏はこれに加えて、「データドリブンが前提になっているこの時代、広告主も今後はデータやテクノロジーに関する知識を身に付けることが必要ではないでしょうか」と指摘する。そして松田氏のコメントに対し菅原氏、堀内氏の両氏も「先進的にマーケティングを行っている企業はIT部門との連携が上手くいっており、それは知識が成せるもの」と同様にデータやテクノロジーに関する知識の重要性を唱えた。
もはやマーケティングにデータは欠かせないといっても過言ではない。ITベンダーや技術者に要件を伝え適切な支援を受ける上でも、テクノロジーやデータを扱う上で最低限必要な知識やノウハウは自分たちで身に付ける必要が出てきた。今後、データドリブンマーケティングの成功の鍵は、マーケターが持つデータやテクノロジーに関する知見に左右されるのではないだろうか。
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