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テレビCMの本当の効果を測る新指標『GAP(グロス・アテンション・ポイント)』とは何か

テレビCMを科学することで、何が起きるのか

MZ:打った数に加えて当たった数がわかれば、戦略の立て方や広告出稿の方法が変わってきますね。

横山:従来は単に予算配分で考えていましたが、KPI達成を目指した考え方にシフトするでしょう。コスト配分というものは最終的に決まるのです。

株式会社デジタルインテリジェンス 代表取締役 横山隆治氏
株式会社デジタルインテリジェンス 代表取締役 横山隆治氏

 たとえば、1億円の予算をテレビ広告7000万円、デジタル広告3000万円と配分するとします。デジタル広告3000万円分の打ち方には無数にプランが想定できます。やはり目標設定としてのターゲットリーチ○○万人とか、ターゲットインプレッション数○○○万回とかいうような目標を設定しないといけない。

 目標は予算消化ではなく、あくまでKPI達成なのです。マス広告だけの時代は「予算がプランを決めた」と思います。しかしデジタル時代は、マス広告も含めて達成目標数値をもつ必要があります。

MZ:テレビの世界もデータドリブンへ移行するわけですね。

横山:クリエイティブも含めてより科学的になるイメージですね。ターゲットに視聴されるための変数は、タイミング(時期・曜日時間帯)、コンテンツ(どんな「番組」内で放送されたか)、量(どの程度投下するか)と、「クリエイティブ」パワーの掛け算になります。

 クリエイティブという変数は、これまで単独で良し悪しが語られてきましたが、CM効果を科学的に検証するには、やはりデータで数値化して見る必要があります。1回目の接触時にアテンションを獲得するクリエイティブもあれば、2度目以降からじわじわとアテンションが上がるクリエイティブもあります。

 従来、クリエイティブはクリエイティブ、メディアプランはメディアプランとまったく並行したままの作業であったのですが、GAPという指標は、メディアプランとクリエイティブ力の掛け合わされた結果としての数値となるのです。

 だから、GRPは同じだけ出稿しているのに、GAPが落ちてきたとしたら、その時点でそのCMクリエイティブの賞味期限が来ているので、素材差し替えを早めるとか、リアルタイムに対応(手を打つこと)ができると思います。

 また、クリエイティブの最適化のために1秒ごとの注視度合いをアテンションインデックス(AI値)というかたちで見ているため、たとえ15秒のCMであっても、どこで視聴者の注意が離脱したか、肝心なブランドメッセージのところで注視しているのかいないのかなどによって、タレントの使い方や構成上のメッセージの出し方のNGルールやゴールデンルールがわかってくると思います。また競合他社と比較することで、競合と比べてクリエイティブの強さ弱さも把握できます。

競合2社のCMについて、累積GRPと累積GAPの変化を比較した図
競合2社のCMについて、累積GRPと累積GAPの変化を比較した図

 実際、ある業界の競合2社のCMについて、累積の広告投下量と累積アテンションの変化を見たのですが、出稿時期もGRPもほぼ同一であるにもかかわらず、GAPでは30%以上の開きが見られました。これはやはりクリエイティブ力の差なんでしょうね。

MZ:今年4月には、テレビCMに対する男女の脳反応の違いを測定し、クリエイティブの評価や開発を行う「男女脳プロジェクト」がスタートしましたが、それとの関係はいかがですか。

横山:男女脳プロジェクトも、クリエイティブの評価・開発に際し、データに基づく科学的な手法を取り入れる試みの一環です。

 当然ながら、1つのCMを見て好悪をどう判断するかは、個々人で違うものですが、あるセグメント同士で比較してみると、反応の違いが顕著に表れるのは、人種や年齢よりも男女差であることがわかりました。脳の構造は男女で異なるといわれていますが、おそらくその違いが、同じ素材を見た時の反応に関係しているのでしょう。初期トライアルでは食品やサービスなど4社を募っていますが、すでに複数社が決まっています。

 一般によく知られたCMを分析しても、たとえば食品会社のCMでは、男性タレントが豪快に食べるシーンが出てくるのですが、このシーンでは男性の方がAI値が高く、女性との間に開きが見られました。そのほか男性ターゲットのはずなのに、男性のAI値は低く女性が高いとか、男女両方がターゲットなのに男女とも低いAI値で結局どちらにも刺さっていないCMとか、様々なケースが見られます。

 もちろんテレビCMそのものを改善することも目的ですが、同じブランドでも男性に強く刺さるものと、女性に強く刺さるもの2パターンつくって、オンライン動画でターゲティング配信してみようというのが今回の試みです。テレビCMとデジタル広告(特にオンライン動画広告)との組み合わせの考え方として、テレビでは大きなリーチとブランドの文脈でのコミュニケーション、デジタルではユーザーの文脈やターゲットに強く刺さるコミュニケーション、と両方に接触することでより態度変容を起こしやすくするという狙いがあります。

デジタル動画が踊り場に差し掛かる時、テレビCMの真価が問われる

MZ:ところで、テレビCMはこれからどうなるのでしょうか。デジタルシフトに進む中、テレビCMの価値は、一昔前とまったく違っているように感じます。

横山:確かにそういう見方もありますが、それでもやっぱり、私はテレビというメディアは強力だと思っています。これだけ大規模に、一斉にリーチできるメディアはほかにありません。だからこそ、その価値をもっと科学的に検証する手段を考えようよ、と数年前から提言してきました。

 長い目で見ると、放送と通信の役割どころはもっと変化するでしょう。ですからデジタルデバイスへの動画広告がもっともっと市場を形成すると思います。ただ非常に大きな成長を果たすにはまだ解決しないといけない課題もあります。

 そもそも動画広告のインベントリーをつくるための動画コンテンツが必要で、これがもっともっと伸びないといけない、またスマートフォンでの動画広告のユーザーの受容性がまだ確立されていません。PCより画面占有率が高いスマホでは、PCではユーザーとある程度和解できていた広告の受容が完全に担保できているとはいえないのです。動画のフォーマットや出し方も、まだ発展途上ですが、そうしたこともそう先ではない将来解決されるでしょう。

 そうした時にスマホを中心とした動画広告市場は第2弾ロケットを噴射することになるでしょう。それまでにテレビ広告の側が今までのデータや取引モデルを脱却していかないと、さすがの日本のテレビ広告市場もデジタルデバイスのCMに主客逆転される可能性はあると思います。

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デジタル化は必然、一方で「踊らされない」姿勢も必要

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この記事の著者

岩崎 史絵(イワサキ シエ)

リックテレコム、アットマーク・アイティ(現ITmedia)の編集記者を経てフリーに。最近はマーケティング分野の取材・執筆のほか、一般企業のオウンドメディア企画・編集やPR/広報支援なども行っている。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2016/06/30 13:00 https://markezine.jp/article/detail/24538

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