企業とインフルエンサーをつなげる「iCON CAST」
MarkeZine編集部(以下、MZ):ブログが浸透したころから、オンラインマーケティングのひとつとして、著名ブロガーの協力を得たインフルエンサーマーケティングの手法が広がり始めました。ただ、最近ではYouTuberを筆頭に、動画を主戦場とするインフルエンサーを起用するケースが出始めています。
今回お話をうかがうTHECOOは、YouTuberと企業を繋ぐマッチングサービス「iCON CAST」を企画・運営されています。まず、代表の平良さんのご経歴を教えていただけますか?
平良:複数の企業でマーケティングやビジネス開発にかかわった後、2007年からGoogleに在籍し、パブリッシャーやメディアに対するパートナーシップや、中小企業向けの広告営業部門の立ち上げと責任者を務めていました。2014年1月に起業し、翌年にYouTuber と企業を繋ぐ「iCON CAST」をリリースしました。
MZ:現在「iCON CAST」はどの程度の規模になっているのですか?
平良:YouTuberの登録者数はサービス開始1年で2,300人以上に増加しています。企業に関しても、幅広い業界で600社以上に活用いただいています。現状ではゲーム業界が多いですが、九州観光推進機構さんの提供で「九州の世界遺産」の現地レポートを行ったコンテンツ(動画はこちら)や、世界最大のビューティーブランド「ロレアル パリ」とのタイアップによって若い女性から強い支持を受けるYouTuberを複数名同時起用した年間プロモーションなどの事例も出てきています(動画はジャルダンサマーコレクションを使用したメイクチュートリアル)。
動画が“顔出し”促進、親密感を高める要因に
MZ:では、最近のインフルエンサーマーケティングの動向についてお聞かせいただけますか?
平良:冒頭でお話しいただいたように、10年以上前からブロガーマーケティングが行われているので、手法としては新しいものではありません。それでも、最近改めてこの手法が注目を集めているのは、表現方法がリッチになり、ユーザーとの親密度が増したからだと考えています。
その大きな要因は“顔出し”です。ブロガーを起用したインフルエンサーマーケティングも健在ですが、テキストと写真が中心のブログでは、顔出しをしている人が多いわけではありません。ですが、YouTubeで独自のチャンネルを持ち、自分の個性や強みを活かして動画コンテンツを制作し配信するYouTuberは、顔出しをしているのが基本です。それがユーザーの親近感を醸成しています。
MZ:一般的な動画広告だと、すぐスキップされてしまうのではといった懸念もありますが、そのあたりは問題ないのでしょうか?
平良:そうですね。むしろYouTuberがコンテンツとして発信する動画は驚くほど視聴時間が長く、5分や8分の動画も普通に見られているので、その趣味やテーマの文脈に則っている限り、企業のタイアップ動画だからといって極端に離反することはないですね。
あるゲーム会社のYouTuberプロモーションに手応え
MZ:テクノロジーが進化したことで、プレーヤーであるインフルエンサーも、そのファンとなるユーザーの動向も変わってきていると。
平良:そうですね。YouTube、またInstagramなども同じだと思いますが、これらは基本的にアカウント主が自分の好きなことを自由に表現し発信するプラットフォームであって、そこに純粋にファンがついていきます。なので、エンゲージメントが高いのです。まさに、そのインフルエンサーとファンとのエンゲージメントの強さに関心を寄せる企業が増えています。
MZ:そもそも、なぜYouTuberを起用したインフルエンサーマーケティングに着目されたのでしょうか?
平良:Google出身だからだろうと思われがちなのですが、そうではありません。前職で一緒に広告営業に携わっていたメンバーと起業した当時は、スケールする可能性のあるビジネスをいくつかあたりながら、オンラインマーケティングのコンサルティングを行っていました。
その中で日本のゲーム会社の海外での、YouTuberを起用したプロモーションのお手伝いをしたことがありました。海外ではすでに彼らを束ねるプロダクションが発展しているので、そういった企業と連絡を取りながらいくつかの案件を進めていました。
すると、予想以上に効果が高く、そのゲーム会社はもちろん当社としても大きな手応えを感じました。
獲得単価、DL数、そしてリテンションレートも好スコア
MZ:具体的に、どういった効果があったのですか?
平良:主には3つありました。ひとつは一般的な獲得単価、CPI(Cost Per Install)を他のアドネットワークより低く抑えることができた。もう1つはダウンロード数が大きく伸長した。そして最後が特徴的で、リテンションレートが高かったのです。これにはとても驚きました。
つまり、しっかり動画を見て興味を持ってくれた人がダウンロードしているから、その後も使い続けられているということだと。一定の数のファンを抱えているYouTuberなら、リーチもダウンロード数も確保できると分かったので、これは国内のYouTuberに依頼した場合でも実現できるだろうと考えました。
ただ、インフルエンサーを探している企業に適したYouTuberを引き合わせるのは、とても大変でした。それなら、お互いにマッチングできる場をつくろうと思い、現在の「iCON CAST」を開発するに至りました。
MZ:双方を引き合わせる上で、具体的には何が大変なのですか?
平良:要は、さまざまなインフルエンサーの中から「この人がいい」と企業に示せるデータがないのです。裏を返せば、YouTuberだけがそれが可能だったので、YouTuberに特化したマッチングサービスを立ち上げるに至りました。YouTuberは動画の再生回数や自身のファンのデータなどを「YouTubeアナリティクス」というダッシュボードで見られるのですが、iCON CASTはYouTuberの同意を得て、それらの情報をAPIで取得しています。
「iCON CAST」ではYouTubeアナリティクス上で得られる情報に基づいて、YouTuberの視聴者層や平均視聴時間といった情報も見ることができるので、自社に合ったYouTuberが探しやすくなっています。
ゲームを中心に化粧品やEC、旅行にも拡大
MZ:そうすると、データドリブンのマーケティングが可能になるのですね。今、特にどういった業界でYouTuberのプロモーションが盛んなのでしょうか?
平良:サービスを始めた当初はゲーム業界がほとんどでしたが、それはYouTuberにゲーム実況者が多かったという理由もあります。しかしゲーム以外のジャンルに特化したYouTuberも育つにつれて、化粧品やEC、現地へ行って紹介するスタイルで旅行関係や、企業のイベント紹介の案件なども伸びています。
MZ:どういう目的で使われることが多いですか?
平良:大きくは、ダイレクトレスポンスと認知拡大の2つです。ゲーム業界はダイレクトレスポンス目的で利用することが多く、先ほどのCPI、ダウンロード、リテンションレートの良い施策という認識が広がっています。それ以外のECなどでは、動画はアーカイブ性もあるため、獲得を狙いつつ認知も図りたいというニーズがあります。認知目的では、今までのメディアではリーチできなかったユーザー層に対して、新しくYouTuberを介してエンゲージしたいという声があります。
MZ:YouTuberを起用したマーケティングならではの、活用のコツはあるのでしょうか?
平良:つい、最近露出しているYouTuberやファン数の多いYouTuberを選びがちなのですが、それが良いとは限らないということは念頭に置いてほしいですね。というのも、ファンが限られるほどエンゲージメントが強く、割合としては多くの人に響くのです。先日弊社で「インフルエンサーの影響力に関する調査」を発表しましたが(詳細はこちら)、1万人から10万人のファンを抱えるYouTuberの影響力は、ファン数100万人以上のYouTuberの約2倍であることがわかっています。
日本企業の海外進出やインバウンド促進にも可能性
MZ:基本的に、コアなファンが視聴していることがベースになっているのですね。
平良:そうですね。その感情のつながりはデータには表れにくいですが、先ほどのAPI経由で得られるデータを分析しつつ、そこから個々のYouTuberとファンとのつながりを推測し、起用していくことは可能だと思います。
MZ:これから各ジャンルのYouTuberが育つにつれて、YouTuberの登録数も増えそうですね。
平良:より広い業界に対応できるようになると思います。現状、2,300人のうち1割が外国人で、海外在住の人も北米やアジア圏などほぼカバーしてします。ですので、日本企業の海外進出や訪日観光客向けのインバウンド施策などのサポートも積極的に行っていける体制は整っています。
我々が現在の事業を立ち上げるきっかけとなったのは、アメリカでのYouTuberを起用したプロモーションでしたが、これがすごく良い経験になったと思っています。アメリカではインフルエンサーマーケティングが浸透していて、プロモーションの計画に最初から組み込まれるケースが増えています。日本でも早くそうした文化が根付けばと思いますね。
MZ:海外では主流のプロモーションになっているのですね。最後に、今後の展望を教えてください。
平良:我々が追求しているのは、インフルエンサーマーケティングで企業が得られる効果を可視化することです。それを重視して、YouTuberから着手していますが、他のプラットフォームでも効果の“見える化”を可能にし、サービス化を検討しています。さらに、中小企業がもっと気軽にインフルエンサーマーケティングを活用できる環境整備にも、力を入れていきます。