部門間のすれ違いを解決してくれるAzure ML
まずご紹介するのは、日本マイクロソフトのエバンジェリスト西脇 資哲氏によるセッションだ。「マーケティング優位性=データ×AI AIマーケターになるためのCall to Action」と題し、マイクロソフトが長年培ってきた機械学習に関する知見や活用事例について話が進められた。
「日頃マーケティング部門では、イベントやキャンペーンに多くの人を集めるために、情報システム部門に対して高い要求をされているはず。刻々と変わるすべてのニーズに応えることは難しいですが、マイクロソフトのAzure MLで解決できる部分は大きいと考えています」(西脇氏)
そう切り出す西脇氏は、企業が行う分析を難易度と価値の軸で記した以下の図を提示した。図の左側は「過去のデータを可視化して新しい発見をする」という分析のことを指し、これまでに多くの企業で行われてきた。しかし、西脇氏は「今後、過去から未来を予測する分析が必要で、それを実現するのがAzure ML」だと語った。
事例から見るAzure MLが描く未来
では、実際にAzure MLはどのように活用されているのだろうか。西脇氏は活用事例として、海の家の売上予測をあげた。この海の家では、天候・曜日・イベントなどの情報をもとに、商品別の売上金額を予測しているという。
上のグラフでは、Azure MLを活用して導き出された予測と、実際の売上実績が示されている。黒の線が実績で、青の線が予測だ。
「この海の家では、予測結果を見ながら2日前に仕入れを決めて、毎日スマートフォンで発注作業を行っています。これだけの精度があれば、少し余分に発注するだけで機会ロスを防ぐことができる。Azure MLではこのレベルの予測を実現しています」(西脇氏)
他にも様々な企業で、ソーシャルリスニングやレコメンデーション、広告効果分析などマーケティング領域におけるAzure MLの活用が進んでいるという。
「これからは機械学習による分析や予測だけでなく、AIを用いたプロモーションや広告が求められるようになります。ぜひみなさんのマーケティング活動にもAzure MLをご活用いただければ」と西脇氏はセッションを締めくくった。
Azure MLが持つ3つの優位性
次に登壇したのは、ナレッジコミュニケーションの取締役副社長、COOである小泉 裕二氏だ。クラウドの中でも主にビッグデータや機械学習の分野に注力しているという同社。Azureの魅力や同社が提供する機械学習ソリューションについて紹介した。
「2006年から運用している自社運営の口コミサイト『ナレコム』では、Azureの機械学習によって掲示板の書き込み内容を自動判別し、不正投稿の削除対応を行っています。過去に削除した書き込みを蓄積しテキストマイニングを行うことで、約8割の精度で削除対応の自動化を可能にしました」(小泉氏)
また、小泉氏はAzure MLの優位性について3つの側面から解説した。まず1つ目はインフラ面だ。クラウド上で提供されているので、個別に大規模なインフラを用意する必要がなく、データをAzureに蓄積すれば、すぐに利用できる。
2つ目は、アルゴリズムに関する優位性だという。XboxやBingといったマイクロソフトのサービスで実証済みのアルゴリズムが約20種類提供されており、常に最新のものにバージョンアップされる。そして、自社で環境を構築してアルゴリズムを開発すると検証機関に長い時間を要するが、Azure MLを活用すると速いスピードで実証・検証することができる。
最後はユーザーへの配慮だ。使った分だけ課金される従量課金の仕組みをとっており、ブラウザ上で操作でき、基本的にコーディングがいらないことから、コスト面・操作面ともにユーザー思いであるのが特徴だ。
これらの優位性を踏まえ、最後に小泉氏は「互いの得意分野を持ち寄って、お客様に良い価値を届けられるよう、ぜひ今後のビジネスに発展させていければ」と語り、講演を終えた。
40兆件を超すデータを格納するトレジャーデータのDMP
続けて、トレジャーデータでマーケティングを担当する堀内 健后氏がセッションを行った。トレジャーデータは約200社の企業にデータマネジメントサービスを活用しており、日々増え続けるデータは40兆件を超えているという。
「Webやアプリのログデータといったデジタルマーケティングに関するデータ以外にも、ウェアラブルウォッチや自動車、風力発電のタービンの稼働状況まで、ありとあらゆるデータをお預かりしています。データの蓄積は誰にでもできること。大量のデータを分散処理するという労力のかかるところは我々にお任せいただきたい」(堀内氏)
堀内氏はデータを蓄積する重要性についても言及した。Webやモバイルでも購買はもちろん、顧客は様々な行動をとる。そのログや他のデータをもとに分析し、施策を投じなければ顧客とのコミュニケーションが成立しないという。
トレジャーデータでは、そういった背景からプライベートDMP「TREASURE DMP」をリリースした。様々なツールと連携し、クラウド上にデータを上げるのみでデータを蓄積することができる。くわえて、広告ソリューションを提供する企業と連携し、蓄積データをスムーズに施策に反映するといったことも可能にしており、随時連携先を拡充している。
実際にサービスを活用する広告主の事例も増加している。たとえば、若年層に対するマーケティングにおいて課題を抱えていた資生堂では、Webサイト「ワタシプラス」で保有する260万人分のIDと店舗のPOSデータなどを紐付け、データを蓄積している。今後はアドネットワークやDSP、ソーシャルメディアへの広告出稿などに役立てる予定だという。
堀内氏は最後に、「他にも『TREASURE DMP』はさまざまな活用が可能です。この瞬間も増え続けているデータをビジネスの価値に変えていただきたい」と語った。
AIは分析手法やモデルの理解から始めよう
最後に登壇したのは、日本マイクロソフトのパートナービジネス推進統括本部でシニアマーケティングマネージャーを務める田中健太郎氏だ。AIサービスの垂直立ち上げを実現するマイクロソフトのパートナー支援施策について解説した。(日本マイクロソフトのパートナー企業の事例についてはこちら)
初めに田中氏は、「AIや機械学習の活用で重要なのは、一般的な分析手法の理解」と語った。マーケティングで使われる代表的な分析手法は図にあるようにいくつかのパターンに分かれる。まずこれらのパターンを理解することで、マーケティングサービスへの転用が可能になるというのだ。
また、田中氏は、新しいAIマーケティングサービスを作る上での成功の鍵として、次のポイントをあげた。
・ナレッジとスキルの獲得……機械学習の手法を理解・取得し、具体的なサービスに転換できているパートナーはまだ多くない。先にあげた手法を理解しながら実践し、ナレッジとスキルを蓄積することが先駆者利益につながる。
・サービスのパッケージ化……エンドユーザーもまだAIをどう活用すべきかイメージしきれていない。価値をパッケージ化することでお客様の理解が進み、具体的な検討を進めてもらえる。
・事例の獲得……アーリーアダプターの事例をセールスツールとして活かせるかどうかによって、ビジネスの勝率は大きく左右される。
くわえて、これらの3つのポイントにくわえて、「誰よりも早く達成するというスピード感」が重要だという。
「市場の成長が早く技術的な障壁がある市場においては、誰よりも早く飛び込んで、お客様と共にサービスを作って改善を重ねることが重要です。そして、その実績とサービスの価値を市場に対しメッセージアウトしてきた人たちが勝ち残るというのは、アドテクノロジー企業などの歴史を見ても明らかです」(田中氏)
新ビジネスをサポートする2つのパートナープログラム
田中氏は続けて、マイクロソフトが行っている2つのパートナー支援プログラムを紹介した。
1つは「Microsoft Partner Network」というプログラム。4段階あるレベルにあわせて特典が受けられるもので、最上級のGoldコンピテンシーになると3,500万円相当の特典が受けられる。もう1つは「Cloud Solutions Provider」というライセンスプログラムだ。パートナーがAzureに独自サービスやソリューションの付加価値を乗せた形で再販売できるというものだ。
同社のパートナーの支援はこれに留まらない。なんと、個別支援も企業によっては行っているというのだ。両社ビジネス成長に向けた戦略の設計、サービス開発時の技術支援、プロモーションなどAzureやAzure MLを活用したマーケティングサービスの立ち上げ支援を手厚く行っている。
これに対し田中氏は、「こうしたパートナープログラムや個別支援を活用していただきながら、新しいサービスを立ち上げるためのリソースを確保していただければ」と語り、イベントの結びとした。