機能別のチームに各事業が横串を通す組織体制
MarkeZine編集部(以下、MZ):まずはレバレジーズの棚橋さんから、御社の事業と現在の業務についてお話しいただけますか?
棚橋:当社はIT・Web業界の転職や案件提供サイト「レバテックキャリア」「レバテッククリエイター」「レバテックフリーランス」や、看護師専門の転職サイト「看護のお仕事」などを通した人材紹介事業のほか、新卒向けの情報サイトやITエンジニア向けQ&Aサイトなど、10以上の自社メディアを運営しています。
当社のマーケティングは組織体制が少し特殊で、事業ごとではなくプロモーションやSEOなど機能ごとにチームを分けており、そこに横串を通す形で各事業の担当者を決めています。私はプロモーションチームの責任者を担っていて、各事業の広告運用担当者のマネジメントが主な業務です。同時に私自身も事業の担当があり、今は「看護のお仕事」のブランドづくりに取り組んでいます。
MZ:広告運用をインハウスで行われているそうですが、その目的は?
棚橋:ノウハウの蓄積、その1点です。私が入社した2012年当時、全事業の広告運用は2名体制でしたが、今では9名に増えています。その間も新たな概念や手法が次々と登場しているので、そのノウハウを社内に蓄積し共有していることは、当社の成長に大きくかかわっていると思います。
MZ:ロックオンの足立さんは、レバレジーズのアドエビス導入時からコンサルティングを担当されているそうですね。
足立:はい。現在はコンサルティングというほどのことはしておらず、棚橋さんが考えるやりたいことや抱えている課題に対して必要なソリューションやデータを提供する形で支援をさせていただいてます。
本業は、アドエビスの事業開発・製品企画の責任者として、レバレジーズさんをはじめ各社の課題に応じて必要な機能やサービスを企画・開発する仕事をメインで行っており、定期的に棚橋さんとは意見交換をさせていただいてます。同社には、特に考え方や運用の体制など、学ばせていただくことのほうが圧倒的に多いです。
効率を求めつつ、中間指標を追う実験を重ねる
MZ:デジタルマーケティングが普及して、今多くの企業で「刈り取りだけでなく潜在的な顧客の発掘に取り組みたい」というニーズが出てきています。レバレジーズでは、現在どのようなマーケティングを実践されているのですか?
棚橋:事業によってフェーズはさまざまですが、現状では最終的にはCPAとコンバージョンを指標として年間の目標や予算を立てています。ただ、もちろん刈り取り以前の態度変容やイメージの醸成にはかなり前から注目しています。
アトリビューション分析は、その概念が出始めたころから行っていますし、特定のバナー広告の接触によるCVRの変化なども、実験を重ねています。最近では、アンケート調査を使った態度変容の把握に力を入れていますね。ただ、アンケートの数値がどう変わると売上にどのくらいインパクトを与えるのかは、まだ明らかにできていないので、そこは目下の課題です。
MZ:ちなみに、機能でチームを分けて事業部が横断的という体制や、効率を求めつつ積極的に実験を推進する社風は、かなり特徴的だと思います。これらはなぜ可能なのでしょうか?
棚橋:その点は、社長の意志が大きいですね。マーケティングドリブンの組織にするために投資すると振り切っているので、環境整備が進んでいます。同時に、現場には比較的裁量があるので、非常に動きやすいです。
足立:機能ごとのスペシャリストがいるので、当社からかなりの量のローデータ、ノンコンバージョンのユーザーデータをお渡しして、レバレジーズさんの分析担当の方に分析していただくこともあります。この組織体制は、アドエビスを駆使できている要因の一つだと思います。
事業の進行とともにブランド指標の可視化に注力
MZ:ニーズが顕在した層の獲得と、潜在顧客層の創出は、数字を見ている以上どうしても前者に偏りがちな難しさもあると思います。そのあたりのバランスはどう取られていますか?
棚橋:おっしゃる通り、この両輪のバランスは非常に大事だと思っています。当社の場合、事業の立ち上げ期は刈り取りに集中し、まずコンバージョンを伸ばしながらCPAを下げていきます。
次第にSEOで成果が上がったり顧客リストが蓄積されてきたりすると、CRMの施策によってある程度リピーターを獲得できるようになり、必ずしも刈り取りを広告に依存しなくてもよくなります。すると、獲得施策に必要な広告費が減るので、その予算をもう少しコンバージョンのポイントから前の地点に投下して、実験してみようという流れができています。
そこでどういう実験をするかは、各事業のフェーズや課題によりますが、やはり最近ではブランド指標の可視化が大きいですね。獲得施策に関しては、かなりノウハウが貯まっているので、早くから展開している事業での取り組みを若い事業に反映でき、今ではどの事業もかなり効率的にできていると思います。
MZ:なるほど。たとえば近年の取り組みで、大きく成果が上がったものなどはありますか?
棚橋:2013年にアドエビスを導入し、同年末ごろから「看護のお仕事」のLPOに集中的に取り組みました。これによって、コンバージョンは伸ばしつつ、CPAを大きく下げられました。
独自のアンケート結果をアドエビスに反映
MZ:具体的には、どういったことを行ったのですか?
棚橋:アドエビスを導入して、ABテストを非常に手軽に行えるようになったため、それでかなりLPOを推進できました。導入以前は、給与や働き方といった訴求軸のアイデアはたくさんあったものの、実践するには手間がかかって苦戦していたんです。
ほかにも、中間指標の例としてお話ししたバナー広告の接触とCVRの関係については、ビュースルーサーチ(VTS)分析を活用しています。バナー広告の接触後の自然検索流入数や検索ワードの把握、あるいは、異なるバナーによるCVRの比較などにも使っています。
また、特定のコンバージョンや行動を起こしているユーザー群を取り出して、最初の接触を確認したりもしていますね。これらを総合的に捉えて、効果的な動線を探っています。
MZ:まさに、カスタマージャーニー分析ですね。最近注力されているアンケート調査というのは、御社独自で行っているんですか?
棚橋:アンケート自体はそうなんですが、その結果はロックオンさんの支援でアドエビスに反映し、カスタマージャーニーのフロー単位で分析しています。それによって、アンケートで分かるブランド指標の向上に、どのような広告やコンテンツが効いているのかを瞬時に分析できています。
7月のバージョンアップでさらに柔軟な分析が可能に
MZ:なるほど。こうした使い方は、足立さんから見ていかがですか?
足立:「さすが棚橋さん」と思いました(笑)。そもそもアドエビスに限らず、ひとつのツールで経営指標に紐づくすべてのKPIを取得・可視化できるわけではないので、Web上だけでは効果が紐付けられないアンケート結果を、瞬時に施策と紐づける機能は非常に求められていると感じました。
今回の事例では、他業種にも活かせる重要な分析をお手伝いできたと思います。今回の要望を反映して、弊社独自技術であるユーザー軸のデータ基盤に対して、不動産の実契約有無や、ECでのLTV等の「企業独自のKPI」をアップロードすることで、瞬時に効果を可視化・分析できる機能を、7月末に予定している大幅バージョンアップにも盛り込んでいます。
MZ:クライアントごとの課題に応えながら、そこで得た新たな要望を製品のバージョンアップにつなげているんですね。特にカスタマージャーニー分析に対する要望は多いのではないですか?
足立:そうなんです。これまでは不特定多数の人に対する分析に留まっていたので、「この広告に接触した人」など企業ごとにピンポイントで分析したいグループを抽出して、詳しく分析できるようにします。
例えば、過去にオウンドメディアに訪れたことがあるユーザーだけで、AコンテンツとBコンテンツに接触したユーザーは何人いて、その後の平均PVやCVRにどんな影響を与えているか? などが瞬時に分析できます。
MZ:ほかに、今後のバージョンアップで予定されていることはありますか?
足立:7月末には、デモグラフィック情報のアップロードユーザーリストの生成と検索性・分析利便性の向上や、分析結果に出てくる指標の充実を予定しています。さらに秋には、テレビCMの効果をアドエビスのユーザーIDに紐づけて分析できるよう準備中です。
カスタマージャーニーをより良質な体験へ
足立:棚橋さんに私から質問なのですが、ユーザーの生の声を知るアンケート調査も、結果を活かし切るには、提供する情報とそれによる態度変容の仮説をあらかじめ立てておく必要があると思います。どのように仮説を立てられているのですか?
棚橋:その点は、「どのフェーズの人に」「次にどうなってもらいたいか」を常に考えています。たとえば、当社のサービスをそもそも知らない人なら、知ってもらうことが次のステップであり、その場合のKPIは認知度になると思います。その次は理解してもらいたいので、それを測るKPIを設計し、施策を検討するという形です。
MZ:棚橋さんはマーケターとして数値を追いながら、ユーザーの心を捉えるメッセージやコンテンツづくりにも非常に力を入れられているんですね。
棚橋:たしかに、いかに情報発信していくかという点は、今後のマーケターには必須の視点かもしれないですね。記事コンテンツも広告も、良質な情報かどうかが問われていると思います。
最近、アドブロックの話題も聞かれますが、何かしら心が動くものが含まれていれば、単なるバナー広告でもコンテンツとして成り立つはずです。事業全体を見据えながら、カスタマージャーニーにおける一つひとつのタッチポイントを統合して、全体として良質な体験に整えていくことが、今の大きな課題だと思っています。
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