上流から決めると、KPIはおのずと適正な数に絞られる
小川:例えばゴールが「来年●月までに問い合わせを●件増やしたい」だとすると、それに向かって上流から目標と戦略を立てるんです。「集客は向こう半年、リスティングにフォーカスしよう」「サイト内のフォームをがっつり改善しよう」とか。ところがそうなった瞬間に、今度はSEOの部署の対応人数が減らされたりする。だからKPIを考えるのは楽だけど、決めるのは時間がかかります。

そんな社内事情は一切考えずに、私たちアナリストは無邪気に改善案を考えて、ご提案するんですけどね(笑)。だってデータを見る限り、「そこに注力すべきポテンシャルがある」と判断できるなら、伝えないわけにはいかないじゃないですか。
マーケティングの部長にお話しながら「この領域はこういう風に回そう」「ここの部署はこのままだと回らないから、人を増やそう」と社内の意思決定がされていくのです。もしそういう風に上流からKPIを決めていくなら、たぶん問題ないんです。どんなに数が多くても10個ぐらいに絞られてきますから。
福山:要注意なのは、各事業部のKPIって上からの押しつけになってしまうことも多い点ですね。現場にしてみれば、積極的に自分たちがコミットして立てた目標ではないので、「それって●●(リニューアルプロジェクトの主管部署)が決めた話でしょ」と不満を持つんです。「言われてやらされるKPI」ではうまくいかないですね。
小川:「KPIをいかに自分ごととして考えられるか」という点においても、目標の種類は少ないほうがいいですね。KPIはただの数値だけではなく、取るべき戦略、そして覚悟の表れであるべきだと私は思っています。
ゴールまでのストーリーを「みんなで共有」が重要
福山:これは組織論と共通するかもしれませんけど、「自分の仕事は会社のどの部分にどの程度貢献できているのか」、そこが理解できないと働く気って失せると思うんですよ。各事業部に対してKPIを課す場合、広報など、サイトリニューアルを主管している部署には、企画力だけでなく社員を納得させて、やる気にさせる“説明力”が求められると思います。
小川:「こういう人に、このサイトでこういう風に行動してもらいたい」という共通のストーリーをもってKPIを決めることが大事ですね。KPIが「複数のページを、興味をもってじっくり見てくれるユーザーを●%増やす」なら、「そういった顧客にリーチするなら、SNSを使ってバズらせるだけではダメ」「SEOやリターゲティングをしっかりやろう」と、ちゃんと目的に合ったユーザーを連れてくる施策が考えられるわけです。
福山:その理想のゴールを達成するまでのストーリーをみんなで共有していると、順序としてどの部署から着手すべきか、どこに予算やリソースを割くべきか、おのずと見えてきますよね。逆に部署ごとにKPIを立ててしまうと、利害が相反する部署があった場合に、個人のプレゼン能力や組織の風土などで優先度が決まってしまうことがある。「KPIの数は、みんなが覚えられる範囲に絞る」っていうのが、僕はいいと思います。
対談で出てきたコーポレートサイトのKPIになり得る指標の例から、3つ紹介します。
リリースによる訪問者数
一つのリリースに対して一定の閲覧を得るための施策を費用対効果で見る手法。例えば「プレスリリースサイトに予算10万で載せたときの流入数に対し、コーポレートサイトをリフォームして載せても狙っていた効果は十分まかなえた。この割合をもっと増やしていこう」といった考え方をする。
さらに分析が進むと、Facebookに配信したタイミングと効果や、「どういうプレスリリースがよく見られるのか」を調べて、良いリリースの書き方や、リリースから商品情報に遷移した割合を焦点にすることもできる。
閲覧企業数
IPアドレスから、コーポレートサイトのリリースについて、どのような企業に・何社くらいに見られているのかを知ることができる。これを指標にするアプローチ。例えば、今までコンタクトしていなかった企業が見にきていたら、積極的にアプローチをかけて販路を広げるきっかけにもなる。
公式発表の検索順位
これは、業界トップクラスの企業の悪いニュースが出て、検索上位にネガティブな掲示板やまとめが並ぶ状況になった時に限った指標。「公式発表がネガティブなコンテンツに埋もれずユーザーの目に届いた率=検索順位を上げる施策」によって、そのニュースを見る人が、ネガティブな噂だけでなく、公式情報と両方を手にして、公平な比較をできるようにする。