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全デジタル広告の5%が“不正広告”!? 広告主とメディアの収益をかすめるアドフラウドへの真摯な対策を

 今、デジタル広告業界で大きな話題となっているのが、不正な手段で広告収益をかすめとるアドフラウドだ。BOTで不正なトラフィックを発生させ、誰も見ていない広告を配信させて広告料を取るなど、広告主やユーザー、そして優良メディアにとって不利益でしかないアドフラウドは、国内で取引されるデジタル広告の約5%を占めているという。2016年4月、そんなアドフラウド対策に立ち上がったエスワンオーインタラクティブの高瀬大輔氏と、Momentumの高頭博志氏が、アドフラウドの現状と根絶するための施策について語り合った。

インターネットの広告価値向上を目指して

(左)Momentum株式会社 代表取締役 高頭博志氏
(右)株式会社エスワンオーインタラクティブ 代表取締役社長 高瀬大輔氏

高瀬:当社エスワンオーインタラクティブは、ネット広告運用のトレーディングデスク専業会社です。広告主の利益を最大化するために細かいチューニングを繰り返しながら運用を行っています。そのため、BOTへの広告出稿や無意味なインプレッション発生など、不正なデジタル広告の存在には頭を悩ませていました。こうした中、Momentumさんが不正広告対策ツールを提供されていることを知り、「これはぜひとも協業せねば」と考えたことが高頭さんと出会った背景にあります。

高頭:思っていることは同じですよね。僕も「インターネットの広告価値を上げる」という信念で起業しました。今月(2016年9月)で3期目、丸2年が経過します。

高瀬:起業したきっかけは何ですか。

高頭:もともと学生のころにクラウドファンディングの「READYFOR(レディーフォー)」を立ち上げたことで、インターネット事業との関わりが生まれたんです。卒業後はGREEに入社して、新規事業開発やプラットフォーム開発に携わりました。しかし当時、ネット広告は、従来の4マス広告に比べて一段低く見られていたんです。広告を見るユーザーにしても、優良顧客とは捉えられていませんでした。当事者として「それはおかしい」という思いがあり、ならば「インターネットの広告価値を上げたい」ということで起業したわけです。

配信されている広告の5%はアドフラウドの可能性

高瀬:さて、冒頭に出た不正広告についてです。不正広告はさまざまな種類があり、今は大きく括って「アドフラウド」といわれているようですが、アドフラウドにはどんな種類があるのでしょうか?

高頭:フラウド(Fraud)は「不正」という意味の英単語なので、直訳すると「広告不正」となります。ただこれだと、誇大広告なども全部含まれる感じがありますよね。海外だと「invalid traffic」(無価値なトラフィック)という言葉に集約されています。たとえば、先ほど出たBOTへの広告出稿の何が問題かといえば、BOTが広告インプレッションやクリックを行うため、これは「媒体のPV・impの水増し」という不正を誘発します。広告主にとっては、本来広告を必要とするべき読者に届かないという事態が起こってしまう。これ以外にも、広告を非表示にしているのにインプレッションを発生させる不正や、ゲームサイトでポイント欲しさに不正クリックをさせるものなど、無価値なトラフィックを発生させる不正がいくつかあります。こうしたinvalid trafficに関して言うと、次の4種類になると考えています。

出典:http://www.logicad.com/product/adfraud/report.html
※種別については、重複して該当するため、各種別の割合の合計が100%を超過します。

高瀬:アドフラウドというとBOTだけが注目されがちですが、いろいろな種類があるんですね。実際、配信されている広告の中で、どれくらいがアドフラウドとして認定されるのでしょうか。

高頭:細かい数字までは言えないのですが、国内市場だと5%前後と考えてください。海外の事例だと、全広告配信のうち20%がアドフラウドといわれています。だからといって、日本が安全というわけではありません。電通の調査によると、インターネット広告市場1兆1,594億円のうち、媒体費が9,194億円だそうですが、その5%といっても459億円に上ります。現段階でも、アドフラウドによってこれだけ経済的な悪影響があるんです。

高瀬:アドフラウドが注目されるようになったきっかけとして、2014年、メルセデス・ベンツが北米の広告配信プラットフォームを訴えた事件がありましたよね。

高頭:外部の調査機関を使って調べたところ、人間以外のBOTに向けた広告配信があったという事件ですね。この事件は、プラットフォームが不正をしたわけではなく、プログラマティック・バイイングの中でプラットフォームが不正を排除できなかったことが理由です。

高瀬:あの事件の調査結果によると、配信した広告の57%が自動プログラムのトラフィックだったそうですね。当時、全ネット広告市場の売上のうち、6~7%ほどが人間外のプログラムによってインプレッションされ、課金されていたことがわかったそうです。この数字にも衝撃を受けましたが、結局その不正インプレッションの分は払い戻しされたことにも驚きました。これは海の向こうの話ではなく、確実に日本でも起こり得ることです。実際、Googleはアドフラウド対策としてSpider.ioという会社を買収しましたし、アドフラウドに対する対策は進んできています。

高頭:米国では「Trustworthy Accountability Group」(TAG)という団体が立ち上がり、各媒体を認証するサーティファイド・プログラムができつつあるようです。大手広告代理店であるGroupMでは「TAGの認証を受けていないメディアはバイイングしない」と表明しています。日本の広告主の方も、アドフラウドに対してはこれぐらいの意識を持つべきだと思います。

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マーケターの意識改革でアドフラウドは根絶できる

株式会社エスワンオーインタラクティブ 代表取締役社長 高瀬大輔氏

高瀬:おっしゃるとおり、広告主の方はアドフラウドに対してもっと強い意識を持ち、排除することに向き合うべきだと考えています。これは投資している範囲や規模に関係なく、すべての広告主に共通する課題です。「ネット広告には少額しか投資していないから関係ない」ではなく、そういう無関心の積み重ねが、マーケットの健全化を阻むハードルになると思いますし、逆に「排除しよう」という意識で向き合えば、こうした不正を崩す一角になるでしょう。

高頭:インターネット広告の場合、配信先まで含めてチェックしている広告主のマーケターは少ないでしょうね。そのため、掲載面については広告代理店に一任しているケースが多いようです。

高瀬:ただ、アドフラウド業者の原資がどこから来ているかといえば、それは広告主が払った広告費なんですよ。だから起点になるマーケター自身が蛇口を止めれば、必然的にアドフラウド業者を根絶することにつながります。結果として、自分たちの広告費を健全に使うことになります。今、僕らはその間に入って止めている状態ですので。

高頭:DSP事業者も、パフォーマンスが悪いメディアは切るなどできる限りのことはやっているんです。ただ、DSPはSSPからRTBに関する情報を受け取っているのですが、RTBのプロトコルではかなりの情報が削ぎ落とされているので、DSP側で配信するか否かの判断を全てすることは難しいでしょう。そこで、SSPやDMP、そしてエスワンオーインタラクティブさんのように運用側で全方位的に対応しなければならないんです。

Momentumが実現するアドフラウド対策

Momentum株式会社 代表取締役 高頭博志氏

高瀬:Momentumさんのソリューションでは、どのような仕組みでアドフラウドを防ぐのでしょうか?

高頭:当社はフラウドをインプレッション時に検知する要素技術を持っており、そのエンジンをDSPベンダーに提供しています。具体的にどういうものかといえば、例えばBOTからのアクセスがあると、そのIPをリアルタイムで特定し、DSP側と連携することでブラックリストに登録し、不正なトラフィックを排除しています。DSPベンダーとの連携以外ですと、あるDMPベンダーと提携し、そのオーディエンスデータからBOTを排除することを始めました。

高瀬:オーディエンスデータの中にもBOTがいるんですね。

高頭:実はBOTも進化していて、ブランドのページを訪れて優良ユーザーと思い込ませるような巧妙なプログラムもあるんです。この例は、そういう紛れ込んだBOTを排除して価値の高いユーザーに適正に広告を届ける取り組みです。

高瀬:いたちごっこですね。

高頭:まさにそうなんです。当社が持っているのは要素技術なので、これを活用して市場を健全化するためには、いろいろなプレーヤーの方と協業しなくてはなりません。

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アドフラウドのブラックリストは広告主の資産になる

高瀬:当社は運用面から広告価値向上を支援するため、今年4月、Momentum社のアドフラウド(広告詐欺)対策にプラグイン「BlackHeron」と、アドフラウト対策・アドベリフィケーション機能を提供する第三者配信ツール「Black Swan」をトレーディング業務に組み込みました。おかげさまで、広告主の方からも好評です。

高頭:どんな反応があったのか教えていただけますか。

高瀬:これは当社のサービスの特徴ですが、現在お取り引きしている広告主の方に、オリジナルのアドフラウドブラックリストを提供しているんです。弊社が運用している領域はもちろんのこと、他のパートナーさんとの取り組みにおいても活用してほしいと思っています。当たり前のことですが、「そもそも広告は人に配信しないと意味がない」ということで、このサービスを非常に喜んでいただいています。これにより、コスト効率も良く、広告価値はさらに上がることになります。つまりこのブラックリストは、広告主の資産なんです。そこに寄与できていることが、個人的にはとても嬉しいですね。

アドフラウド対策はメディアの価値向上にも貢献

高瀬:アドフラウド対策といえば、「SNSなどアドフラウドがいないクローズなネットワークで広告展開すればいい」という話もありますが、これについてはどう思いますか。

高頭:僕はインターネットの一番の魅力はアクセシビリティだと思っているんですよ。だからこそ、アドフラウドのような不正も発生してしまうのですが、そうかといってクローズドなアカウントを持つところだけに限定すると、ほかへのリーチを逃してしまいますよね。これはブランドにとっても損ですし、またクローズドネットワークに広告費が流れれば、インターネット自体が縮小してしまうというリスクもあります。個人的には、その流れを食い止めたいという思いがあります。

高瀬:おっしゃるとおり、僕もインターネットの良さはアクセシビリティにあると思いますし、いろんなコンテンツを生み出せるプラットフォームであるところも魅力だと思います。だからこそ、ブランドセーフティの考え方も含めて、アドフラウドなどの課題を解決することが、インターネットを良くすることにつながると考えているんです。

高頭:アドフラウドやブランドセーフティに関しては、いまのところ「ブランド広告主にとって有益」という文脈が大きいですが、これは将来的にはパブリッシャーにとっても有益なことにつながると思っているんです。つまり、自分たちで作り出した良質なコンテンツが、良質な顧客を獲得し、それによって広告主も喜び、収益向上につながるという図式です。まじめにやっているパブリッシャーの方が多数いる中で、フラウドによって本来メディアに流れていく収益を奪うことは、不健全きわまりないこと。実際、こうした取り組みを行っているメディアには高い価値がつくということが北米でも証明されています。そういう世界が日本でも起こればいいなと思っています。

高瀬:本当にそうですね。今日はありがとうございました。

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この記事の著者

岩崎 史絵(イワサキ シエ)

リックテレコム、アットマーク・アイティ(現ITmedia)の編集記者を経てフリーに。最近はマーケティング分野の取材・執筆のほか、一般企業のオウンドメディア企画・編集やPR/広報支援なども行っている。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2016/10/14 11:00 https://markezine.jp/article/detail/25150