映画作品のヒット要因となる2つのパラメーター
映画作品のマーケティングにおいて、ヒット要因の重要なパラメーターとしてよく挙げられるのが、「潜在ユーザー数」と「作品クチコミ数」の2つです。潜在ユーザー数は公開前から作品を観たいと考えている潜在的なユーザーの数を指します。広報活動や広告プロモーションによる認知、ディズニー・ピクサー作品、テレビアニメシリーズの映画化のように作品がもともと持っているアクティブなファンユーザー数などの要素が影響する数値です。
一方、作品クチコミ数に関しては、作品を観たユーザーによる評判やプロモーションなどによってソーシャル上でエンゲージメントされることで得られる数値です。
このヒット要因のパラメーターを軸に、先に挙げた興行収入TOP10の作品をマッピングしたのが次の図です。作品クチコミ数の軸については、実際に集計したエンゲージメント数値を元にしています。潜在ユーザー数に関しては、メジャー作品で投下される4マス媒体を中心とした広告出稿量を同程度と仮定したうえで、各作品固有のアクティブなファン数を私見でできるだけ客観的にマッピングしたものです。

ここからも「シン・ゴジラ」「君の名は。」の突出した作品クチコミ数、つまりエンゲージメント数がヒット要素として大きいことが伺えます。
また、この整理をする中で着目したもう一つのポイントは、「君の名は。」の潜在ユーザー数についてです。マーケティングの企画段階で実際にどのような戦略がとられていたのかは分かりません。ですが、新海監督の前作の興行収入を踏まえ客観的に判断すると、ディズニー・ピクサー作品などと比較して、「君の名は。」の想定潜在ユーザー数は相当低く見積もられざるを得ません。また、実際にそう捉えられていたからこそ、今回の大ヒットが「大方の予想を覆したもの」と評されているとも考えられます。
では、なぜ今回の大逆転は起きたのでしょうか? その要因を紐解く鍵は、ソーシャルエンゲージメントの中身にありました。
「シン・ゴジラ」「君の名は。」がシェアされる理由
下の2つの円グラフは「シン・ゴジラ」と「君の名は。」それぞれで、ソーシャルエンゲージメントされているコンテンツをカテゴリー分類したものです。

(右)カテゴリー別「君の名は。」エンゲージメント数
※出典:株式会社スパイスボックス自社ツール集計(調査期間:2015/9/16~2016/9/16)
クリックで拡大
「シン・ゴジラ」では明確に「映画評論」に関するカテゴリーが半数を占めるのに対して、「君の名は。」では、同映画の音楽を担当するアーティスト、RADWIMPSに関するカテゴリーが大多数を占めていることが分かります。上記の数値は、映画のタイアップ楽曲に対してのエンゲージメント数値としては異常に高い数値です。
また、それぞれ2番目にシェアの高いカテゴリーを比較してみると、「シン・ゴジラ」が監督関連カテゴリーであるのに対して、「君の名は。」は、映画がヒットしていることを伝えるニュース記事などをまとめたヒット関連のカテゴリーが続いています。