結果を共有することが改善に取り組む気持ちにさせる
――今回は植山さんが執筆された『数字思考力×EXCELでマーケティングの成果を上げる本』を読まれた吉田さんに、どんなことを学んだのか、仕事にどう役立っているのかをうかがいます。
植山さんには本書刊行時にお話をうかがいました(インタビュー記事はこちら)。本書ともども大きな反響があり、データ分析のためにExcelを使いこなしたいという方が多いのだということを実感しました。
吉田さんも本書を読んでとても勉強になったとのことですが、最初に普段どんなお仕事をされているのか教えていただけますでしょうか。
吉田:私はガシー・レンカー・ジャパンのデジタル・マーケティング部に所属していて、Web周りのマーケティングで特に制作と編集を担当しています。弊社はプロアクティブという化粧品を中心に通信販売を行っていますので、デジタルでの施策は欠かせません。
業務としては、既存顧客向けキャンペーンの注文ページのディレクション、メルマガ配信、ステップメール配信などを行っています。また、弊社のオウンドメディアであるニキペディアの記事更新や、商品紹介のメルマガ配信も担当しています。
植山:ニキペディアはニキビに関する記事を掲載していて、コンテンツマーケティングとして大成功を収めていますよね。実は僕がガシー・レンカー・ジャパンで働いていたときニキペディアを企画し社長から承認をいただいたあと、同僚だった吉田さんにも声をかけたんです。僕はそのあとすぐ退職してしまうんですが、吉田さんがニキペディアのコンテンツ作成を情熱をもってリードしていったことが大きな成功要因だと思います。
――本書を読んでみていかがでしたか?
吉田:私はブランドマーケティング発信で販促が決まるという流れの中で、自分ではマーケティングの施策を考えることのないまま仕事をしてきてしまいました。頼まれたことをこなすことに精一杯で、データ分析なんて考えたこともなかったんです。ですから、本書にある「数字は単体では意味がない」といったような言葉にはっとさせられました。
今までは何もかもやりっぱなしで、数字をあまり気にしていませんでした。頼まれたキャンペーンを実施しても結果の共有がなかったので、なんとなく「よかったのかな」と思うだけだったんですね。ですが、本書をきっかけにメルマガの開封率やクリック数を共有するようにしたら、「○個売れたよ」とキャンペーンの効果を教えてもらえるようになりました。
そのあと、どのURLがどれくらいクリックされたのかわかるグラフや、これまでのメルマガの開封率をまとめたグラフを作って共有し始めたんです。そうすると、チーム全員が開封率やCTRなどに気を配るようになり、改善していこうという気持ちになってくれるようになりました。
――マーケティングに従事されている方でも、施策をやりっぱなしにしてしまうことはあるんですね。
吉田:弊社が商品を販売し始めた十数年前は競合が存在せず、施策を打てば売上が増えるという状況でした。ですから、私がやっていたことに関しては、数字を細かく検証されることもありませんでした。ところが、最近は競合の商品が登場し、病院でもニキビを治療することができるようになったため、競争が激しくなってきました。
昔のやり方に甘えていたので、何の気づきもないまま、漠然とメルマガを送り続けていたのですが、配信数が減ってきてようやく、今までのままでは顧客数もセールスも減ってしまうことに気が付きました。ですので、きちんと施策の効果を検証したうえで次のキャンペーンを実施しないとダメだなと痛感しています。
植山:吉田さんはまさに本書が想定していたターゲットですね。施策をやりっぱなしのマーケターは意外と多いのではないかと思っています。本書はそういう方に読んでいただきたくて執筆したんですよ。
疑問が出るようになることが最も大切
植山:本書で具体的に役に立ったと思うところはありましたか?
吉田:初心者だからこそ数字を味方にするという考え方はとても参考になりました。私は数字を見るのも苦手だったんですが、本書を読んでいると自分でもできるのではないかと、明るい希望を持たせてもらえました。
「PDCAを回せば必ずいい結果が出る」「練習は絶対に裏切らない」「必ず成功する」といった言葉も心強く感じます。私は直接知っている方ではありますが、読みながら植山さんに応援されている気持ちになって、それに応えようと読み進めていきましたね。分析する癖をつけることが数字思考力を身につけることだと日々実感しています。
植山:実際にメルマガの分析をしてみてどうでしたか。
吉田:休眠顧客向けのメルマガを配信したとき、「100個売れたよ」と言われてとても効果があったと思ったんですが、実は配信数が10万通以上だったんです。以前なら100個売れたことで満足していたかもしれません。ですが、これだけ配信して100個しか売れなかったということは、CVRは0.1%以下です。それに気づいて驚きました。
これは無駄打ちが多いということですから、より効率的に効果を生めるようにターゲットを絞り込んでメルマガを配信しないといけないと考えました。なので、休眠顧客の中でも買っていただけそうな方と買っていただけなさそうな方を分ける必要があるという話を担当者に持っていきました。
今はそこからどうセグメントすべきなのかを考えるフェーズです。メルマガを配信するのもタダではないですし、見直していこうという方向で話が進んだのはよかったです。
植山:過去にそういうメルマガを配信したときは、やはり配信しっぱなしだったんですか?
吉田:そうです。効果がどうだったのかも全然わかりませんでした。今は開封率とCTRをチェックしていますし、数字を見やすいように工夫して共有もしています。
メルマガのタイトルなどを少し変えてみると、結果にも変化があるんです。試しにやってみたことの結果がすぐにわかるのはとてもおもしろいですね。
植山:PDCAが回り始めていますね。疑問が出ることが最も大切なことです。10万通も送っていることや100個しか売れなかったことに「なぜ?」と思えるようになり、そこから次にどうするかを考えるようになれたのはすばらしいことですよ。
吉田:他にも、ニキペディアではよくクリックされるバナー位置があるので、そのバナーの文言などをPDCAで回してよりよくしていかないといけないと考えています。今までは考えるべきことがあったのに考えなかっただけで、やりっぱなしはやはりダメですね。本書では手法はもちろんですが、そういった心構えについても多く学びました。
普段Excelを使わない人が「自分でもできる」と思えるようになる
吉田:今お話をしましたように、私が次に取り組みたいのはニキペディアです。毎日とても多くの方が訪問してくださっていますが、必ずしも売上に大きく繋がっているわけではありません。そこをなんとかしなくてはと思っています。
現状では、ニキペディアの記事を更新したあとExcelでPVや検索順位などをまとめています。たくさん読まれている記事の順位が低いともったいないので、何か対策をする必要がありますよね。ですので、この記事はこれくらい見られていて何位にある、というデータを散布図で確認できたらいいなと思ったんですが、これはちょっと難しかったです(笑)。
ただ、フィルター機能は使えるようになって、順位が低い、たとえば1位から20位にある記事が何本あるかということはわかるようになりました。
本当は散布図が作れるようになればよかったんですが、実は私のデータのまとめ方が悪かったようなんです。あるいはVLOOKUP関数でデータを整理しようと思っても、一覧表のほうでデータをきちんと入力していないと機能してくれませんよね。作ろうとしてみて初めて、そんな初歩的なところからダメだったことに気づかされました。普段Excelを使わないので、そういうことばかりで苦戦しています。
――本書はExcelの使い方についてもページを割いていますが、他に参考になったことはありますか?
吉田:並べ替えができるようになってよかったです。あと、本書にはダウンロードできる練習用のExcelワークシートがありますよね。これを使用して本書に書かれているとおりに練習するんですが、Excelを全然使えない私でも「すごい、できてる」と思えるのが嬉しかったですね。
まだ施策をシミュレーションするところまでExcelでの練習ができていませんが、このあともっといろいろなことができるようになるのが楽しみです。
コンテンツマーケティングの企画を通し売上に繋げるには
――本書からは少し離れますが、オウンドメディアが売上に繋がってこないなど、昨今のマーケティングには悩みどころも多いと思います。
吉田:ニキペディアにはニキビで悩んでいる方のための記事を掲載しています。ですが、その記事から商品を購入していただくのがとても難しいんです。読んで情報を得て終わり、となってしまっているので、どれだけ多くの方に訪問していただいても売上に繋がりにくいんですよね。
植山:どの企業も、まず集客するのに莫大なお金が必要ですよね。ガシー・レンカー・ジャパンの場合は、ニキペディアというコンテンツマーケティングで広告費を抑えて集客することに成功しています。
集客を売上に繋げるのは次の壁ですね。もちろん集客に成功していないとその壁がそもそもありませんから、課題があるだけ先に進んでいると捉えるのが大事なことです。
――そもそもオウンドメディアで集客すること自体が難しいと思うのですが、ニキペディアの場合はなぜ成功したのでしょうか。
植山:簡単に言えば、最高のコンテンツを大量に用意したので集客に結びついたんです。いいコンテンツには二通りの意味があり、自社にとっていいものとユーザーにとっていいものがあります。しかし、ネットはユーザーのものですから、ユーザーにとっていいコンテンツを作ることが重要です。そうすれば、Googleなどの検索エンジンが検索結果で上位に表示してくれて、訪問者数も自然と増えていきます。
もちろん集客を売上に繋げるのは簡単ではありません。方法の一つは、サイトや記事に購入ページへのリンクを張ることです。ですが、検索エンジンからやってきたユーザーは商品を購入したい気持ちにはなっておらず、購入ページへのリンクをクリックすらしてもらえません。そういったユーザーの購入意欲を高めるにはどうすればいいのかが大きな課題になります。
たとえば、記事を読みに来たユーザーにとって役に立つeBookを無料でダウンロードできるようにしてメールアドレスを登録してもらい、メルマガでさらにいいコンテンツを提供していく手法があります。だんだん信頼感が増していったところでキャンペーンメールを送るなどして、やっと購入へと繋がっていきます。そこまでやらないと、商品宣伝に対する拒否感は薄まらないんです。
これは社会心理学で研究されている返報性の原理の応用です。誰でもプレゼントをもらうとお返しをしたくなる気持ちになりますよね。コンテンツマーケティングはユーザーにコンテンツをたくさんプレゼントして、そのお返しとして購入してもらうという手法なんです。
吉田:集客すること、さらに集客を売上に繋げることの難しさは、コンテンツマーケティングに取り組んでいる、取り組もうとしている方ならどなたでも感じている難しい課題かと思います。そもそもコンテンツマーケティングの企画が通らないこともあるのではないでしょうか。
ニキペディアはコンテンツマーケティングの成功事例として広く認識されているため、どうやって企画を実現したのかよく尋ねられるんです。皆さんともに、コンテンツマーケティングは売上にすぐ貢献するものではないからなかなか承認をもらえない、とおっしゃるんですね。
植山:企画を通すにはなにより情熱が必要です。それを起爆剤にして、数字とロジックで裏づけられたシミュレーションを提示するんです。これくらい投資すれば何年間で黒字になる、といった予測がないと、上司も何を基準に判断すればいいのかわかりませんよね。企画者も、様々な方向から飛んでくる質問に答えられる準備が不可欠です。
私は今まで事業会社の立場で三つのコンテンツマーケティングのメディアを立ち上げたのですが、いざその企画を通そうとすると、様々な壁にぶつかりました。予算不足だったり、あるいは本社の人たちがどうしても話を信じてくれなくて承認が遅くなったり、またはパートナー企業との契約書がまとまるのに時間がかかったりしました。これらの困難を乗り越えるためにも、最後は情熱が必須になると私は思っています。数字を使ったロジックがあるのは当たり前です。私の経験した状況では、この三つがないと話が前に進まないケースがほとんどでした。
本書ではずばりコンテンツマーケティング企画のシミュレーションを行っていますので、企画が通らないと悩んでいる方は参考にしてみてください。
結果が出れば自信に繋がり、仕事も人生も楽しくなる
――吉田さんは本書をどなたに勧めたいですか?
吉田:会社の全員に読んでもらいたいですね。マーケティングの勉強になるのは当然そうなんですが、弊社はアメリカ本社の指示に従って施策を行うことが多く、日本側からの提案を諦めている雰囲気が出ることがあります。
マーケティングへの情熱が足りないのかな、と思ったんですが、私と同じように提案するためのノウハウを知らないだけなのではと思い至りました。シミュレーションを作って提案できるようになれば、何がダメでどうすればいいのかもわかって改善できるようになります。「上司が外国人だと、文化の違いがあるからこそ、わかってもらえないことは数字とそれを視覚で表現できるグラフが有効だ」と本書にありますが、そのとおりだと思います。一度ダメでも、すぐに諦めずにやることも大事だと教わりました。
――植山さんはいかがですか?
植山:数字に弱いと思っているけれどもっといい仕事をしたい方に読んでいただきたいですね。成果が出るようになれば自信が付いて、仕事を楽しめるようになります。すると給料が上がり、そうなれば人生も楽しくなりますよね。
本書で勉強してもらえばもっと素敵な仕事をできるようになる方は大勢いると思います。シミュレーションに関しては、マーケティング施策だけでなく事業計画にも使えるかもしれません。
吉田:植山さんは本書でこのように書かれています。
「お客様と企業の両方がHappyになるために考え、行動すること」がマーケティングの秘訣だと筆者は考えています。よく「Win-Winの関係」などと言いますが、あえて「Win」ではなく「Happy」という言葉を使ったのは、誰かが「Win(勝つ)」なら誰かが「Lose(負ける)」わけで、そうではなく「目指すべきところは誰もがHappyであること」だと感じるからです。
本書もまさにそのとおりだと思います。前向きでハッピーな気持ちにしてくれる点が、本書の一番いいところです。