ECとマーケティングは急接近している
――このたびは『EC市場とテクノロジー活用最新動向調査2015-2016』をご購入いただきありがとうございます。本資料では御社がリリースされているECサイト構築のためのオープンプラットフォーム「EC-CUBE」を紹介させていただきました。
梶原:弊社はプラットフォーマーなので、EC業界全体がどうなっているのかと俯瞰することが購入の大きな目的でした。もしECzineにすべての情報が載っていたとしても、本資料を購入していたと思います。なにより情報を探すのが大変ですからね。
――御社では2015年7月にEC-CUBE3へとバージョンアップされ、ちょうどその頃からECにもマーケティングが必要だという機運が急に高まってきた気がします。この動きをどう捉えられていますか?
梶原:つい最近までECとマーケティングはあまり接点がなかったんですが、ここに来てEC事業者が困っているのは実は広告やマーケティングだということがはっきりしてきました。弊社はアドエビスというマーケティングツールの提供が主事業ですので、EC-CUBEとの繋がりがようやく見えてきたという感触を掴めています。
今まではEC事業者の方に尋ねてみても、マーケティングに時間を割く余裕がなく、サイトの最適化やスマートフォン対応が話題のほとんどでした。本資料を読んで強く思ったのは、ECとマーケティングが接近しているという我々の認識が間違っていなかったことですね。
――EC-CUBE3がリリースされたとき御社に取材させていただきましたが、その際にこれを中心のECプラットフォームとして、マーケティングを始めとする様々な機能を付加していくとお話しされていました。今もその方針で開発をされているのでしょうか。
梶原:方向性はそのとおりですが、理想のソフトウェアにしていくのには時間がかかりますね。相当安定してきてはいるので、ぜひ一度、使ってみていただきたいと思います。
ECでもコンテンツマーケティングが注目を浴びている
――ECとマーケティングが繋がってきたと感じられたのは、何か印象的な出来事があったからなのでしょうか。
梶原:EC事業者の方にマーケティングの話が伝わるようになってきたのが一つですね。それと、最近EC-CUBEで構築したサイトにブログを追加できないかというニーズが多いんです。なぜかと尋ねると、コンテンツマーケティングを実施したいからだそうなんです。ブログが重要だというのはまさにマーケティング視点ですよね。
――本資料では物流や決済がさらに発展していると書いてありますが、マーケティングが盛り上がってきているとも強調しています。
梶原:そうした流れを感じていたので、本資料はマーケティングチームに響いたようです。EC事業者がマーケティングに困っていると確信したのは本当に大きな出来事だったんですね。具体的には集客が課題だと言えるかもしれませんが、そうした声が聞こえてくるようになったのが2016年でした。
――本資料のアンケートでも、テクノロジーで解決したいことをうかがったら1位が「新規集客」でした。
梶原:今までは集客がやや単純だったのかもしれません。ショッピングフィードやSNSで大丈夫ではないか、と。しかし、リスティング広告はレッドオーシャンになり、もっと根本的な部分を考えないといけないという雰囲気になってきました。そこで、潜在顧客の囲い込みを目的としたコンテンツマーケティングが注目を浴びているのでしょう。
これからはECサイトのブランディングが不可欠になる
――そうした状況で、今後はどうなっていくとお考えでしょうか。
梶原:EC事業者にとっては、ECサイトを作るだけでなくそのブランディングがとても重要になります。そのためにはオリジナリティが必要ですから、そこでの課題が多くなるのではないでしょうか。
実は、弊社ではブランディングを基点にサイト構築をするような時代はもう少し早く来るはずだと考えていました。
10年前、大手モールでECサイト同士の価格競争が起きると踏んで、弊社は「EC事業者はブランディングで顧客を囲い込む必要がある」と判断しました。そこで2006年にEC-CUBE1をリリースしたのですが、まだまだモールが使われているどころか、巨大な市場ができ上がっています。
EC事業者は大手モール事業者への依存から自社ブランディングへと変わっていかなければなりません。放っておくとECサイトはすべてモールにあるという状況になってしまうでしょう。かつてはモールに出店しつつ自社サイトもあるというやり方が一般的でしたが、今やEC機能はすべてモールにという流れができつつあります。
ECサイトの多様性がなくなることには大きな危機感を覚えています。やはり「今日はこのECサイトで楽しいショッピングができた」という体験はとても大事なんですよ。
――ブランディングや個性的なECの必要性については以前からおっしゃっていますね。
梶原:日本では簡単にECサイトを作って販売できるというモールのメリットがまだ強いんですね。弊社もそこをクリアして、よりよいプラットフォームを提供していかなければいけません。
オムニチャネルをOne to Oneマーケティングとして捉え直す
――10年前に現在の状況を想定されていた御社ですが、もし2017年以降に『EC市場とテクノロジー活用最新動向調査』を制作する際に期待されることは何かありますか?
梶原:本資料にはEC事業者の方の課題、困っていることがまとめられていますが、次回も同じ視点の調査を行っていただき、課題の内容や数の推移がわかるとありがたいですね。
2015年はスマートフォン対応が最大の課題だったかもしれませんが、2016年はその要望が下がってきた。ということがわかれば、多くの事業者でスマートフォン対応が済んだのだとわかります。一方で、本資料にあるように広告や集客、マーケティングに関する課題が上位になると、弊社がお役に立てる場面が増えることになります。
――ECzineとしても、そうした課題をいかに言語化するかは常に意識していることです。
梶原:あと、越境ECやオムニチャネルは以前から取り沙汰されていますが、まだ成功事例の紹介が少ない気がします。中小規模のECサイトでも「これならできる」と思える事例です。
大企業の取り組みや事例はありますが、横展開できるものではありません。個別のECサイトでも取り組めて、成功できるようなノウハウの共有・紹介が必要だと思っています。
――オムニチャネルにしてもフルスクラッチで取り組むしかない状況です。サービスもコモディティ化すると横展開できる成功事例が出てくるかもしれません。
梶原:その意味では、EC業界は混沌としている印象があります。その象徴がオムニチャネルです。以前、セミナーで「オムニチャネルという言葉を忘れてみましょう」と言ったことがあります。オムニチャネルではなく、One to Oneマーケティングであると。
オムニチャネルはオンラインとオフラインを問わずお客様にとって最も便利な購買方法を提供することですが、チャネルという言葉のせいか、いろいろなチャネルでいろいろなことを行うことだと捉えられがちです。けれど、オムニチャネルはチャネル主体ではなく、お客様視点の取り組みであるべきなんです。
電車広告を見て、その場でスマートフォンで買える。あるいはポスティングやティッシュ配りのチラシやダイレクトメールでも同じです。ユーザーの1人ひとりが最も快適に思うお買い物体験を考えれば、別に問題ないかもしれません。 オムニチャネルの理想はこれらの顧客を一元管理すべき、ということで、今後もこの方向性に向かっていくのは間違いないと思います。
オムニチャネルという言葉にこだわり過ぎると、むしろ自由な発想ができなくなるので、ぜひOne to Oneマーケティングという視点で考え直してみていただきたいですね。そして、その中にECがあるというイメージが最も適切だと思います。
――つまり、ECは主役ではないということですね。
梶原:そうです。もっと柔軟に考えたほうがいいでしょう。オムニチャネルの成功事例は少なくても、One to Oneマーケティングの成功事例で見ると様々あるのではないかと思います。
実際には混沌としている最先端の情報ばかりが掲載されているとなかなか方向性を見出しにくいので、次回の制作があるのでしたら企業規模にこだわらない「取り組みとその結果」といった、地に足の着いた情報をもっと教えていただけると嬉しいですね。
ECを楽しむ、ショッピングを楽しんでもらう
――梶原さんから見て、EC業界全体の課題は何か感じていらっしゃいますか?
梶原:オムニチャネルもそうですが、O2Oの取り組みやPOS対応などバックヤードの連携が遅いと感じています。お客様が便利に使えるようになることはどんどん取り入れていくべきです。
また、お客様にショッピングを楽しんでいただくために、様々なことに取り組むのは楽しいことです。たしかに、最先端のテクノロジーや事例を見ると自社では難しいと思ってしまうかもしれませんが、事例そのままのやり方をする必要はありません。大手でなくてもできることはたくさんありますし、大手にはできないこともたくさんあるんです。
ですから、事業者の方もECを楽しむというのが大切だと思います。
――本資料も、紹介している事例をどうやって自社の規模に合わせて展開するかを考えるために利用していただきたいですね。梶原さん、ありがとうございました。