DMPに注力、具体的な施策を打てるようになってきた
――御社はデジタルマーケティング施策に積極的ですが、田代さんが所属するデジタルマーケティンググループでは今、どんなことに取り組まれているのでしょうか。
田代:注力しているのはDMPです。定期誌第7号で「テクノロジーで革新する次世代CRM」という特集がありましたが、ギャップジャパンさん、Sansanさん、ヤマト運輸さんのお話は大変参考になりました。
中でも、ギャップジャパンさんは最初から会員情報を統合されていて驚きました。翻って我々は、会員が店舗とWeb、各商材によってばらばらだったんです。そこでDMPにデータを集約しようとし始めたのがこの数年、なんとかここ1年で大きな商材――航空券、ツアー、ホテルに関してはまとめることができてきました。
下地ができ、これからデジタルマーケティングの施策を打ち出していこうという状況で、メールマーケティングやサイトのパーソナライズを開始しています。効果は少しずつ出てきていますが、まだ手探り状態です。
――今後、他にどういう施策を考えられていますか?
田代:まずは基本的なところで、航空券だけを購入した方にホテルをおすすめしたり、旅ナカと呼ばれる旅行先でのオプショナルツアーを提案したりするクロスセルです。
これまでは「航空券だけを購入した方」というセグメント分け自体が難しく、会員が航空券を購入したのかもわからなかったんですが、DMPによってセグメント分けができるようになりました。たとえば、ホノルルの航空券を購入した方にホノルルのホテルを提案できるようになったんです。
こうしたニーズがあることはわかっていましたが、それに対してアプローチができるようになり、「やっとここまで来られた」という気持ちがありましたね。
――既に成果が出始めているとのことですが、社内での反響はありますか?
田代:社内でもずっと、会員情報の集約を始めデジタルマーケティングをやらなくてはいけない、けれどできていないという状態が続いていました。組織が大きくなる中で、動きが遅くなっていたのも事実です。そこにDMPなどのツールが入ってきたことで、デジタルマーケティングに取り組みやすくなりました。
我々のチームでは、全社的に取り組んでいけるように施策の成果と提案を出していますが、まだ施策の母数が少ないのもあって、全体で取り組んでいく流れを生み出すには至っていません。ただ、今のまま成果を出していけば問題ないと考えています。
チーム内で知識・情報を共有するための定期誌
――CRMが御社のデジタルマーケティングの重要な位置を占めているのですね。CRMを特集した定期誌第7号が印象的だったとのことですが、そもそも定期誌を購読する決め手は何だったのでしょうか。
田代:昨年1月の創刊からしばらくは様子見をしていましたが、発行される定期誌の情報はメールマガジンなどで得ていました。するとだんだん「これは読んでおかないといけない」という気持ちが強くなっていき、購読することに決めました。
元々チームメンバーはマーケティング系のセミナーに行って情報収集していましたが、全員で一緒に行くことはできないので、知識の共有が難しかったんです。各人の知識を共有しようとしても、そのための時間が取れず、チーム全体として知識が蓄積していかない状況がありました。
そこに、紙媒体の定期誌があると非常に便利だと思ったんです。情報の鮮度や確かさ、なにより質が担保されているので、毎月読んでおけばチームの情報力を保てますからね。他社の成功・失敗事例や考えていることがわかるのはとても有意義です。
第7号については、本当にちょうど自社でDMPに取り組んでいる最中だったので、各社の課題に共感しましたし、取り組みは参考になりました。特にヤマト運輸さんは一般消費者としては配送の面しか知りませんでしたから、どんなことをされているのか興味が湧きました。配送業者でありながらLINEやID統合などの先端的なデジタルマーケティングに取り組まれていて、とても驚かされましたね。
――紙媒体であることについてはどう感じられていますか?
田代:Webよりはじっくり読みます(笑)。号によって特集のテーマが明確なのもありがたくて、空いた時間にテーマごとに読み返せるのがいいと思います。Webだとテーマでまとめた記事の一覧を見つけるのが難しいですから。
それはインデックスにもなるということでもあります。我々はお客様にどのように旅のよさ、体験を伝えられるかを常に考えています。デジタルマーケティングはそのための手段にしか過ぎないので、どう使うかという引き出しをたくさん持っておく必要があります。そのインデックスとしての役割を定期誌に期待しているんです。
また、先進的な企業が紹介されているので、どの企業とコラボするかの参考にもなりますね。
――定期誌を購読される前は、そうした情報はどのように得られていたのでしょうか。
田代:基本的には自分で調べたりセミナーに行ったり、本を買ったりしていました。しかし、それらはどうしても概念的な内容になりがちで、事例や具体例がなかなか載っていません。一般論的なハウツーよりはむしろ、「他社はこうしている」と示していただいたほうが、自社と比べて判断しやすいんです。
もちろん他社事例は探せばありますし、セミナーでも教えてもらえます。ただ、時間がかかるのは辛いですね。半日拘束のセミナーとなると、そもそも行ける機会が限られてしまいます。あとは身近な人に話を聞くくらいしかありませんでした。
別部署でもマーケティングから学ぼうという姿勢が生まれている
――定期誌はチームの皆さんとも目を通していただけているのでしょうか。
田代:全員がひととおり読んでいます。私はきちんと理解するために何回か読み直していて、かなり詳しく覚えてしまうこともあります。ただ、お互いに意見をフィードバックし合うことまではできていません。ですが、たとえば社内の朝礼でネタとして使わせていただくなどはしています。
そのおかげか、システム部門から定期誌を貸してほしいと言われることもあるんですよ。
――それはシステム部門でもマーケティングのトレンドを押さえておきたいという理由からですか?
田代:システム開発の担当者からしても、マーケティングの思考・手法がないとダメだということに気づき始めているんです。開発はお客様と接する現場の声を聞いて仕事をするのがいいことだと思っています。ですが、お客様は本心を何でも話してくださるわけではありませんから、客観的なデータを参考にする必要が生じます。
そうしたデータが掲載されているのが定期誌ということで、システム部門でもマーケティングから学ぼうという姿勢が当たり前になりつつあるわけです。非常にいい流れができているのかなと思います。
――ちなみに、年間定期購読サービスには定期誌の他、データダウンロードサービス「MarkeZine Stock」やイベントもあるのですが、これらは利用されていますか?
田代:MarkeZine Stockは社内で情報共有したいとき、ダウンロードしたデータを加工して利用しています。イベントも昨年8月の「AI(人工知能)はマーケターの仕事・キャリアにどのような影響を及ぼすのか?」には参加させていただきました。多様な業種の方が来られていたので、ネットワーキングの場としていい環境でしたね。
MarkeZineから「新しいこと」を提言してもらいたい
――編集部としても嬉しいお言葉です。おかげさまで第13号(2017年1月号)から創刊2年目となった定期誌ですが、御社として今後期待されることを教えていただけますか?
田代:マーケティング業界は流れがとても速いので、新しいことに追いついていくのが大変です。ですから、「現時点から見える未来」といったような記事があるとありがたいですね。KPIを決めるときに参考にできるかもしれません。連載の「米国最新事情レポート『DI. MAD MAN Report』」のテーマをより大きくしたようなものでしょうか。
旅行業界は世界ではデジタルの最先端です。なぜかというと、物流が発生せず、情報の受け渡しで完結するからです。在庫を持たなくていいビジネスなのでスタートアップも多いですし、様々なプレイヤーやサービスが参入してきています。大型カンファレンスではもはやDMPのような基本的なことは話題に上がらず、それを前提にした施策やサービスの話であふれています。
そのような新しい情報を見つけるのは難しく、見つけられるのはごく一部の人だけでしょう。ですから、そういった情報が定期誌を通して我々のような読者にも見えるようになってくると嬉しいですね。
もう一つ期待するのは、MarkeZineから「新しいこと」を提言していただくことです。編集後記のような形でもいいかもしれませんが、定期誌自体がマーケティング業界に新しい波を生み出す発信源になればおもしろいのではないかと思います。