その情報が自分にとってどういう意味があるのかを考える
――MarkeZine編集部では、定期誌第14号(2017年2月号)で「ネットメディアの向かう先」という特集を組みました。メディアのあり方が問われる中で、情報を鵜呑みにしないなどユーザー側の姿勢も問われています。
そこで、定期誌を購読していただいている福田さんに情報収集術についてうかがいます。福田さんは情報収集をする際、どんなことに気をつけていますか?
福田:私は1996年に社会人になったのですが、その頃の経験が大きな影響を与えています。当時はやっとメールが普及し出した時期で、まだ毎週広報から紙のニュースクリッピングが届くような時代でした。ですが、感度の高い人はネットで記事を閲覧していました。
社内にも感度の高い人がいて、少しでも自社に関係のある記事があれば参考としてメールで転送してくれるんです。ところが、最初はよかったものの、だんだんネガティブに感じるようになってきました。なぜかというと、パッと見て役に立つかどうか、どんなことが書かれているのかわからないからです。
そのとき学んだのが、自分が情報を収集するとき、もちろん共有するときもそうですが、その情報がどういう意味を持っているのかをきちんと意識することです。気になった記事は必ず全体をしっかり読み込み、自分にとってどういう意味があるのかを考えるようにしています。
社内で情報共有するときも、単に渡すだけでなく、自社にとってどういう意味を持っているのか、自分の解釈を伝えるようにしています。そうしないと受け取ったほうも読んでくれませんからね。まさにマーケティングと同じです。
もう一つ、専門家の意見を聞くことも大事にしています。私自身がIT業界で働いているため、専門外のメディアが書くIT関連の記事は本質を捉えていないものが多いように感じています。ですからその逆も然りで、自分がIT業界以外のこと――たとえば金融の情報が正しいのか判断できませんし、IT専門メディアに出てくる金融の情報も鵜呑みにできません。
そのため、自分が目にした記事が正しいのかどうか、その業界に詳しい方に話を聞くことで確かめるようにしているわけです。今後は特定の業界・領域を専門に扱うメディアの価値が見直され、より評価が高まっていくのではないでしょうか。
――そうした情報収集術は社内でも共有されていますか?
福田:弊社はエンゲージメントマーケティング支援を行っていますが、一口にそう言っても関わる範囲は膨大です。広告、メールマーケティング、オフラインなど、それぞれに強みを持つ人がいますし、私にはITや営業のバックグラウンドがあります。しかし、それらすべてを理解している人はいません。そのため、各分野に強い人がその領域の情報を収集することが必要です。
ちょうど、3、4ヵ月前にIoTとAIに関する情報収集チームを作りました。ある程度の予算を設け、業界や技術に詳しい人と会う、勉強会やイベントに参加するなどして情報収集し、社員にフィードバックするためのチームです。
自分でも勉強したいんですが、なかなか時間を取れませんし、情報収集するためにも相応の知識が必要ですから、そもそも詳しい人が情報を集めるというのは理に適っていると思います。
SNSのタイムラインが自分だけのキュレーションメディアに
――専門家含め人と話をすることを重視されているのですね。今注目されている人物、あるいはメディアはありますか?
福田:実は最近、オンラインでは特にそうですが、特定の人物やメディアを追いかけることが減っています。代わりに重宝しているのがFacebookやLinkedInのタイムラインです。
SNSではマーケティングやIT業界に関わらず、様々な人とつながっています。タイムラインにはそうした自分の知っている人が「いいね」した情報が流れてきますから、信用というフィルタリングが一度なされていると言えます。そこからおもしろいと思った記事を辿り、知識を吸収しています。
――一昔前なら著名人や特定の媒体の名前が挙げられるような質問でしたが、SNSがある今だとまったく別の世界観があるわけですね。
福田:とはいえ、タイムラインの情報をすべて読むわけではないので、Pocketで気になる記事をクリッピングしておき、その中から特に読んでおくべきだという記事をWunderlistのタスクに保存しています。Evernoteに転送して読むこともありますね。
また、最近見逃せないのは紙媒体です。そもそも共有したいネットの記事は紙にプリントしますし、紙媒体だとお客様にもミーティングの場で共有しやすいんです。ネットと紙では情報の吸収力が違うのかもしれません。
デジタルマーケティングではメルマガやソーシャルメディアが主流ですが、紙のDMが改めて注目されています。形に残る紙はエモーショナルですし、時間をかけて読もうという気持ちになりますよね。
インプットの時間は絶対に必要
――読む記事を選ぶ基準はあるのでしょうか。
福田:直感です。ただ、結果的には今関心のあるキーワードを拾っていると思います。また、社員が得てきた情報も大変参考になります。記事や情報自体はネットにあるとしても、それを知るのは身近な人からなんです。
昨今は特にメディアへの信頼が揺らいでいるので、情報の取捨選択や読み方は重要です。私も、少し前までは記事を読んで要約することが情報収集の中心だったんですが、今は一つの記事をより深く考えるようになりました。
たとえば翻訳記事の場合、訳者が元の英語記事を誤訳したり間違って理解したりしている可能性がありますから、原文を読むことが大切です。また、一つの出来事を複数のメディアが取り上げることがありますが、そういうときは各メディアの記事を比較して読み込み、一つひとつ深掘りして理解しようとしていますね。
こうした読み方は、社会人になって最初の上司に「インフォメーションとインテリジェンスは違う」と叩き込まれたことが影響しています。手に入れた情報をそのまま鵜呑みにするのではなく、それにどんな意味があるのかを考えろ、と。
時間はかかりますが、情報は収集しただけでは意味がありません。インプットするための時間を惜しんではいけないんです。誰でも仕事が忙しくなるとアウトプットばかりになり、成長が鈍くなっていきますから。
インプットに関して私がよくやっているのは、記事に書いてあることを自分ならどう表現するか、どうスライドに利用するかとメモを書くことです。そうやって試行錯誤することで情報を咀嚼できます。ちなみに、今使っているiPad Proなら手書きでメモできて便利ですね。
先ほど申し上げたように、情報を共有するとき、そのまま渡すのではなく何かコメントをつけて送ることには、読まれるようにするという意図があります。同時に、自分が理解できているかのチェックにもなるんですよ。何事も、誰かに伝えるときや教えるときに初めて理解できるようになりますから、それを情報共有と兼ねるのは合理的です。
最近はメモ代わりにFacebookを使っています。過去の自分の投稿を簡単に見られるようになって、以前書いたことを振り返ることも増えました。すると、いろいろと発見があるんですよ。これは自分なりのFacebookの新しい使い方として重宝しています。
――お話をうかがっていると、昔から情報収集術、特にインプットの方法を磨いてこられたという印象があります。原点はどういうところにあるのでしょうか。
福田:実は学生の頃、府中に引っ越すほど競馬が大好きで、自分の手帳に毎週のレースの予想と持論を書き留めたりしていました。ですから、原点は競馬にあると言えます。
なぜその馬が1着だと思うのか、着順と収支はどうだったか、と細かく記録していました。そのときFacebookがあれば、毎週投稿していたと思います(笑)。
人の思想にまで掘り下げた情報を期待
――今回はぜひ、定期誌『MarkeZine』についてうかがいたいと思います。普段の情報収集の中で、定期誌はどのような位置づけなのでしょうか。
福田:インタビュー記事にはとても注目しています。製品のリリース情報はネットで拾えますが、その企業の考え方まではわかりません。定期誌ではマーケティング業界の人たちがどんなことを考えているのかに触れられるので、しっかり読み込んでいます。
編集部が業界に精通されているため、変に強調したり意訳したりしない、正確な情報・発言が掲載されていることもありがたいと思っています。ネットメディアだと記事からコンバージョンにつなげる必要があるので様々な工夫が入り込んできますが、紙媒体だとその必要がありません。それは大きな利点ですよね。
――今後、定期誌に期待されることはありますか?
福田:インタビュー記事にはこれからも期待しています。業界が違えばマーケティングに対する考え方が違うことを私も実感していますし、BtoBやBtoCという区切りだけでは捉えられなくなってきています。そのため、人にフォーカスした記事でマーケティングの本質に迫ってもらえればと思います。
テクノロジーの観点からは、グローバルの新しい潮流・テクノロジーを伝えていただくことに期待したいですね。アメリカを中心に、マーケティング関連のテクノロジーは毎年増え続けています。それをキャッチアップしたり、新しいものを知ったりすることには我々も含め、多くの方が苦労しているようです。
また、最近は国内でも経営層がテクノロジーに関心を持ち始めています。グローバルにデジタルマーケティングを展開するためで、マーケティングやITに詳しくなかった経営層の方が自分でも理解したくて勉強しているんですよ。そういう方に役立つ情報を届けてもらえるといいですね。
全体的には、網羅性や一覧性よりも深掘りした情報のほうが嬉しいです。たとえば、様々な製品の違いを一覧で見ても表面的な情報だけになってしまい、実際の役には立たないことが多いんです。それよりは、一つの製品に関して機能だけでなく開発者や代表の考え・思想まで掘り下げてもらえると、読者としてはより理解が深まるでしょう。
深掘りした情報はメディアしか提供できませんし、定期誌だからこそ一つのテーマに焦点を合わせたボリュームのある記事を掲載できるのだと思います。
MarkeZineの場合、そうした紙のよさと、速報性や記事の注目度・ランキングがわかるといったネットのよさ、両方を兼ね備えています。読者の皆さんも、その違いを意識しながら情報収集に活かしてもらいたいですね。