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表面的な「データドリブン」が施策を迷走させる データの見方が180度変わる「デジタル行動観察」

 MAやDMPでためたデータから重要な指標を選び出し、その数値の最適化のために施策を集中させれば必勝……その「データドリブン」に死角はないだろうか。数字の背後にある顧客のリアルな姿を捉えて適切な施策へとつなげる「ユーザー行動観察」手法を用いたコンサルティングのエッセンスをつめこみ、クラウドタイプのツール“ユーザグラム”をリリースしたビービット。その開発の背景や具体的な活用法を、同社の三宅史生氏に「MarkeZine」編集長の押久保剛が聞いた。

貴社のデータ活用、手段が目的化していませんか?

押久保:今回は、ビービットさんがリリースされた「ユーザグラム(Usergram)」について、ソフトウェアサービス責任者の三宅史生さんにお話しいただきます。まず、簡単に三宅さんの現在のお仕事内容についてお聞きしたいと思います。

株式会社ビービット ソフトウェアサービス責任者 三宅史生氏
株式会社ビービット ソフトウェアサービス責任者 三宅史生氏

三宅:弊社が以前から提供している「ウェブアンテナ」や、今回新しくリリースした「ユーザグラム」などを含む、ソフトウェア事業全体を統括しています。

押久保:ありがとうございます。今回リリースされたユーザグラムは、“ユーザー中心”という御社のコンセプトにすごく合っているサービスだと思います。日本企業を見渡したとき、このユーザーの行動をちゃんと見ていこうという流れは強くなっているのでしょうか。

三宅:いいえ、多くの企業では「ユーザーの行動を知りたい」というより「マーケティングオートメーション(以下、MA)やDMP、ためたデータを活用したい」というご要望が強いですね。ただ、MAの先進事例として紹介されるような、先端を走る企業は違っており、個々のユーザーを見ることの重要性に気づいています。

 ただ、それを従来のツール、たとえばグーグルアナリティクス(以下、GA)などでやるのは難しいので、挫折しているケースも多い。GAでローデータを抜き出してユーザーごとの行動を分析するのは本当に大変だし、時間もかかってしまいます。だからユーザグラムを見ると、即決で導入を決めてくださるクライアントもいます。

個別のユーザーを指定し、「誰が、いつ、どこから流入して、どのように行動したのか」を簡単に調べることができるユーザグラム
個別のユーザーを指定し、「誰が、いつ、どこから流入して、どのように行動したのか」を
簡単に調べることができるユーザグラム

押久保:なるほど。データを活用したいという意識はほとんどの企業に浸透しているけれど、そのデータを個々のユーザーの行動観察に活かしていこうというフェーズには、まだ多くの企業が至っていないのですね。

三宅:データは個々で見たほうが良さそうだということがわかるまでに、ある程度時間がかかるのです。まずはPVやCVなどの指標を使って定量的に分析しようとするのですが、それだけでは、わかったようでわからない。とりあえず目に付いた指標を目標にして苦戦することになります。「どうしてうまくいかないのか」と考えて「個々のユーザー行動を知りたい」と思うに至るわけですが、そこまでたどり着かず、「とにかくデータを活用しよう」というのが現時点における多くの企業のリアルな姿だと思います。

 データが大事だという風潮があるので、何はともあれ定量的に分析しなければならないという先入観がありますが、よくわからないままに数字を追いかけると、肝心の顧客の姿がわからないだけではなく見当違いな判断を下しかねません。

 数字はもちろん大切です。ただし、生々しい行動データから「誰がどんな理由でどのように行動したのか」という定性的な気づきを得ておくことが、数字に向き合う上で必要なのです。

ユーザー行動観察を用いたコンサルティングの精髄を手軽なツールに

押久保:「数字だけだと間違う」というのは本質的な課題ですね。具体的にはどういったことなのでしょうか。

三宅:たとえば、リターゲティングからCVが50件あったとします。でも、50という数字だけ見てもその施策が本当に必要だったかどうかはわからない。なぜなら、元々メルマガで買ってくれた既存会員にリターゲティングでムダに接触しただけかもしれないのですから。

 にもかかわらず「50という数字が十分だからこのリターゲティングは残そう」とか、「相対的にCPA効率が悪いからやめよう」とか、簡単に手に入る定量データだけで判断しがちではないでしょうか。結果として、見当外れのPDCAになってしまうわけです。

押久保:定量的なデータだけでは的確な考察はできない。ユーザー一人ひとりの行動を追わないと、数字の背後にあるインサイトはわからないということですね。

三宅:そこを我々は「行動観察調査」という手法を使うことで打破したいと考えてコンサルティングを行い、多くのクライアント様に好評をいただいてきました。ただ、近年クライアントの施策の単位が細かくなる傾向にある中、「継続的に手軽に行動観察を実施したい」というお声をいただくようになり、ユーザグラムの開発に至ったのです。

ユーザーの行動はマーケターの予想を100%裏切る

押久保:では実際にユーザグラムではどういったことができるのでしょうか。

三宅:ユーザグラムはクラウドタイプの“ユーザー行動観察ツール”です。まず観察対象のユーザーを、行動を指定して抽出するか、クライアントが持っている顧客IDを使って抽出します。たとえばロイヤルティプログラムを持っている場合は、その中の優良会員のIDだけを入力して抽出するといったことができます。ちなみにユーザグラムでは個人情報を持たない仕組みなので、セキュリティ上も安心ですし、複雑なシステム連携をせずに、クライアントが保持する最新の顧客情報に基づいて分析ができます。

クライアントが持っている顧客IDを使って、観察対象のユーザーを抽出する
クライアントが持っている顧客IDを使って、観察対象のユーザーを抽出する

 使用いただくシチュエーションとしては、日々のマーケティング活動における細かなスパンでの施策の効果検証と改善をメインに想定していますが、ビジネスインパクトが大きい長期的な戦略立案のタイミングでも使っていただけます。

 それでは、EC・メディア系のサービスメディア・教育・不動産など様々な業種の20社以上のクライアントとトライアルを実施したので、その結果を紹介させてください。

CVRへの貢献が多い動画が、実はムダだった〜美容系サービス会社の場合

三宅:ある美容系のクライアントのケースです。薬事法の関係で効能をダイレクトに表記できないため、それまでは商品の効果的な利用法などを2分ほどの動画にまとめてユーザーに理解してもらい、申し込みにつなげる形をとっていました。GAで、その動画を見た人が何人申し込んだか調べると、月に100件ほどありました。その数字だけを見て、「動画、効果あるね!」と評価されていたのですが、ユーザグラムで改めて顧客行動の文脈を調べてみると、まったく違っていたのです。まず、動画はほとんど見られていなかったんですよ。

押久保:そんなことが!

三宅:まず、サイトに入ってきたユーザーは、動画は見ずに、テキストの情報を詳しくチェックします。そして一旦離脱して、今度は比較サイトから入ってきます。それでテキスト情報をさらに細かく見る。この行動を3〜4回繰り返し、ほぼ決めたであろうタイミングでやっと、おそらく「他に情報はないかな」くらいな軽いノリで動画を見ます。

 でも、動画は元々、初心者向けに簡単な情報しか載せていなかったのです。そのためユーザーには物足りないと感じられ、10秒も経たないうちに消されてしまうのですね。それから申し込む。こういった流れをたどるユーザーがほとんどでした。

押久保:なるほど。動画はCVに貢献していなかったわけですね。

三宅:そうです。こうして見ることで、「動画は不要」とか「動画の内容を詳細なものにすべき」といった正しいアクションにつなげられるわけです。このアクションには「動画を見た顧客が100件CVした」という定量的な情報だけではたどり着けないでしょう。

そのリニューアル、必要ですか?〜ハイブランド中古品売買ECサイトの場合

三宅:次にご紹介するのが、ハイブランドのリユース業をされているECサイトです。元々新規会員獲得に注力していたのですが、優良会員が全体の売り上げを押し上げていることがわかっていたので、優良会員一人当たりの売り上げを増やすことを戦略にしました。

 そこで、優良会員にお目当ての商品を見つけてもらうために、サイトトップのナビゲーションを改善してブランドごとの商品情報をわかりやすくしたり、サイト内検索を充実させたりする大型のサイトリニューアルを計画していたのです。

 ところがユーザグラムで行動観察してみると、優良会員は高級住宅街に住む40~50代の女性が多く、彼女たちはサイトトップからは商品を探していなかったことがわかりました。むしろ重要な導線はメルマガで、メールが届いた途端に新着商品の中の自分の好きなブランドだけをチェックし、気に入ったものがあれば即決する傾向があることがわかりました。

 だから、大規模にサイトを改修するのではなく、好きなブランドの新着商品だけをお知らせするメールを新たに配信するほうが、はるかに効果が大きいことがわかったのです。

押久保:なるほど。優良会員の売り上げが大きいという数字だけで施策を決めていたら、必ずしも効果に結びつかないサイトリニューアルを実施していたかもしれないわけですね。定量データだけでは正しい施策を選べないことがよくわかりました。

マーケターが直観的に判断できるデータが簡単に見られるので、ユーザー行動についての「思い込み」を修正できる
直感的に判断できるデータからの気づきが、ユーザー行動についての「思い込み」を修正してくれる

三宅:総じて、ユーザグラムを使用するまで持っていた仮説が正しかったクライアントは皆無でした。具体的な仮説を持つことの重要性を知っている熱心なマーケターほど、ユーザー行動ログを食い入るように見ていましたね。

ユーザーを理解せず、数値目標を掲げることの危うさ

三宅:このように、一人ひとりの行動を観察することはとても有効です。中でも、1ユーザーの動きを時系列で見ると、因果関係らしきものが見えてくることが大きいですね。

  ふたつの数値データがあって、一方が上がったらもう一方が上がるとき、「これらの間には相関がある」といいます。たとえば、サイトへのアクセス数が増えると、売上が増えるというとき、「サイトへのアクセス数」と「売上」の間には相関があると言えます。

 ただし大事なのは、相関があるとき必ずしも因果関係があるとは限らないことです。サイトへのアクセスと売上に相関があるとき、サイトへのアクセス数の増加が売上増加の要因なのか、それとも別の要因があるのかはわからないからです。複数の定量データがあると相関は簡単に見出せますが、因果関係はわかりづらい。ところが、時系列データがあると、マーケターが直感的に因果関係の有無が推定できます。データ解析のスキルは不要です。

時系列データで見ると、事象間に因果関係があるかどうかのヒントが得やすい
時系列データで見ると、事象間に因果関係があるかどうかのヒントが得やすい

 しかし、多くの企業では数字を出して、ただそれだけを追ってしまいます。たとえば、定量データを用いて「新規登録から2ヵ月内に6回購入すると、その後の継続購入率が上がる」と導きだせたとします。そこで、5回買った人に向けて1回無料キャンペーンを行う、という施策をやりがちです。

 でも、その6回という数字の背景には、なぜ、どういう風に6回買ったのかという文脈、言い換えれば「継続購入につながる本当の原因」があるはずです。肝心なのはユーザーにその文脈に合った体験をしてもらうことです。そのために必ずしもみんなが6回購入する必要があるわけではない。それなのに6という数字ばかり追っていると、本当のユーザーの姿を見失って見当外れな施策を打つことになってしまいます。

押久保:なるほど。今のデジタルマーケティングは定量的なデータに偏りがちなので、数字の背景にあるユーザー行動の文脈、ユーザー行動の本当の原因がおろそかにされてしまう。結果として、妄想のユーザー像に基づいて施策を最適化しがちだということですね。あちこちで起きている失敗でしょう。デジタルマーケティングにはまだまだやれることがたくさんあるなという印象を受けます。

顧客に関する事実情報をもとに判断すれば、PDCAを正しく回せる
顧客に関する事実情報をもとに判断すれば、PDCAを正しく回せる

三宅:デジタルマーケティングの手法は色々増えているが、メインは変わっていないと感じます。多くの企業でも同じように感じているのではないでしょうか。

押久保:だから、こうして行動の文脈からユーザーを想像して、ビジネスに効く一番おいしいところを把握して、施策をバンバン打てるようになるといいですね。

ユーザー行動観察がMA活用のカギ

三宅:MAの成功事例で取り上げられている企業さんもよくよくお話を伺うと、その成功につながった行動の文脈は事前にわかっていた場合が多いです。答えがわかっているからそれを自動化することで成果を高められている。でも、その他の文脈やシーンはわからないので、思うようにMAの活用が広がらないようです。先端を走る企業さんでさえそうなのだから、それ以外の企業さんはもっと活用できていない、文脈もわかっていないのだろうなと想像できます。

押久保:なるほど。その課題はユーザグラムでブリッジできますね。ユーザーの行動を観察して新たな仮説を作ってMAで自動化して試行錯誤すれば、どんどん成果が高まるでしょうから。

三宅:そうですね。ユーザグラムも今後どんどん機能拡張していく予定なので、いろいろと活用していただきたいです。直近ではSDKでスマホアプリでのユーザー行動も観察できるようにしていく予定です。

押久保:可能性は広がりますね。これからも期待しています! 本日はどうもありがとうございました。

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この記事の著者

東城 ノエル(トウジョウ ノエル)

フリーランスエディター・ライター
出版社での雑誌編集を経て、大手化粧品メーカーで編集ライター&ECサイト立ち上げなどを経験して独立。現在は、Webや雑誌を中心に執筆中。美容、旅行、アート、女性の働き方、子育て関連も守備範囲。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

押久保 剛(編集部)(オシクボ タケシ)

メディア編集部門 執行役員 / 統括編集長

立教大学社会学部社会学科を卒業後、2002年に翔泳社へ入社。広告営業、書籍編集・制作を経て、2006年スタートの『MarkeZine(マーケジン)』立ち上げに参画。2011年4月にMarkeZineの3代目編集長、2019年4月よりメディア部門 メディア編集部...

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【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2018/07/04 13:00 https://markezine.jp/article/detail/26266