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機能訴求から感情訴求へ 花王が動画視聴者の感情から見出したコミュニケーション

想定外のターゲット層が見つかった

鈴木:調査結果とデータベースを照らし合わせると、いい反応をしてくれた視聴者はガーデニングやゲームが好きといった情報も得られます。従来の調査手法だと、このような視聴者の普段の行動までは追いかけられません。お客様の生活に一歩踏み込んで仮説を立てられるのは大きなポイントです。

香川:動画1本につき500人ほど調査すると、高い反応を示してくれる人が100人くらい見つかります。その人たちの行動や属性、関心を分析すると、その動画にいい反応をしてくれそうな人たちの像を見い出だせます。

 これはクリエイティブを分析して初めてできることで、クリエイティブのポテンシャルを最大化する新しい手法であるのは間違いありません。どういう人たちに訴求すればいいのかがわかれば、広告への投資に無駄がなくなります。

心理反応周期表
心理反応周期表

板橋:たとえば、今回調査していただいた動画を観て、強く感動してくれた人たちがいました。共通点を探ると、どうやらガーデニングが好きだとわかったんです。すると、この動画はガーデニングが好きな人に刺さるらしい、という仮説を立てられます。とすれば、ガーデニングが好きな人がよく見るメディアに広告を出せばいい、という発想が生まれますよね。

 他の商品でも同じで、実はお客様はこういうことが好きだった、と意外な共通点が見つかるかもしれません。これはデジタルマーケティングならではの手法だと思います。

鈴木:普通、「この商品はこういう人がターゲット」と決めつけて広告を打つことも多いのではないでしょうか。従来の調査手法だと商品機能からガーデニングは結びつかないかもしれませんが、今回の手法だと予想外のつながりが見えてくるんですね。

 今回の動画でも、ガーデニングの他にゲーム好きの人たちが反応してくれました。ガーデニングとゲームを結びつけるのはなかなか難しいんですが、「家にいる時間が長いから、そういう趣味を持っている」ということに板橋が気がついたんです。まさに一歩踏み込んだ洞察です。

板橋:クリエイティブは「都会に住んでいる20代のワーキングウーマン」といったターゲティングで制作しがちですが、実はゲームが好きということがわかれば、クリエイティブも出稿先もがらっと変わりますよね。

板橋万里子氏
板橋万里子氏:花王 デジタルマーケティングセンター コミュニケーション室長

鈴木:それはもしかしたら、想定していたターゲットが別の側面を持っていたと捉えることもできるかもしれません。

香川:分析の結果、見えていなかった側面が見えるようになったということですね。

アンルーリーが取り組むブランドセイフティ

香川:動画といえば、昨今の話題としてブランドセイフティの問題があります。テレビだと番組内容をチェックできますが、Webだと広告の配信先をかなり注意する必要があると思います。花王さんではブランドセイフティ問題に関して、どう捉えられていますか?

鈴木:難しい問題ではあります。たしかに、広告を打ったら過激派思想の動画に表示された、というのは由々しき事態です。そんなコンテンツを野放しにしておくことを広告主としては看過できないと思います。

 一方で、ユーザーが作ったコンテンツは表現の自由や多様性が担保されていなければならないというプラットフォーム側の考えも理解できます。かといって表現の自由だから過激派支援や差別主義も認めるのかという点が焦点なのだと思います。

 広告主がコンテンツをチェックすることはもちろん、プラットフォーム側でもすべてチェックするのは困難でしょう。完全な安全性とは何か。難しいことですが、広告主の立場としては妥協できないところです。

香川:アドネットワークを持つ企業が自社で「安全だ」と言うだけでは足りませんよね。第三者によって配信先の安全性が担保されていないと信頼されなくなっていくでしょう。

 弊社でも、サービスの紹介をする前にブランドセイフティとビューアビリティの話をしなくてはいけなくなりました。以前はプレゼンの最後に挿入するだけだったんですよ。

 弊社は本社がイギリスにありますが、2015年にUnruly Shieldをローンチし、ブランドセイフティの質を評価するTAG(Trustworthy Accountability Group)から最上位のTier1認定を受けました。アドネットワークを運営する企業として、安全で問題のない在庫を保持することは重要な使命です。有害コンテンツは排除しなければなりません。

鈴木:リーチや視聴回数のためにブランドの信頼を毀損するのはリスクが大きすぎますよね。

香川:TAGはまだ日本で知名度が低いかもしれませんが、TAGのお墨付きがなければ出稿しないという企業もあります。ブランドセイフティは海外のほうが議論が活発で、事の発端もイギリス政府による広告が過激派思想の動画に配信されてしまったことでした。

 イギリス政府はすぐに出稿を取りやめ、それが世界中で広告主による出稿停止につながる大きな動きを生みましたが、この問題は以前から懸念されていました。今後は日本でも、ブランドセイフティに関する議論、取り組みが積極的に進んでいくのではないでしょうか。

取材風景

顧客とどう絆を結んでいけばいいのかを最初に考える

鈴木:ブランドセイフティ同様に、感情訴求もこれから普及していくのではと思います。これまで機能訴求でやってきた企業も、その限界が見えてきているはずでしょう。ただ、感情訴求は個人の感情に焦点を当てるので、分析してもどれくらい一般性があるのかは不安を感じるかもしれません

 今回弊社ではたまたま2本の動画の調査をお願いしました。単発だとそれぞれの動画、カテゴリーでの個別事例になってしまいますが、近しいカテゴリーの動画同士であれば比較可能です。2本とはいえ、共通項が見い出だせたのはとてもよかったですね。

 弊社にはまだまだ動画マーケティング、そして制作についても確固たる基準がないので、検証はもっと増えていくと思います。

香川:何をもってよしとしたらいいのかわからない、評価軸がないという課題は弊社に依頼される多くの企業で共通されています。そのため、上司の好みで動画の内容が決まることもよくあるそうです。

 とある動画を分析したとき、若い女性向けのはずだったのに中高年層の男性に好意的で、「温かみ」や「幸せ」といった感情を抱かれていたことがありました。まさに意思決定者の好みが表れていたわけですね。

 ただ、評価軸、ベンチマークがない中で制作し承認プロセスを経ると、そうなってしまうのは仕方ありません。客観的なデータがいかに大切かわかるエピソードではないでしょうか。

鈴木:意思決定者や決裁者と現場、あるいはクリエイティブ側とマーケティング側にとって、データは共通言語になるかと思います。絶対にこのシーンを入れたほうがいいというクリエイティブ側と、入れると冗長になるというマーケティング側の対立はよくあるでしょう。

 そんなとき、視聴者の感情と理屈から導き出されたデータがあると、お互いに納得して進められますよね。どちらの立場でも、感情に訴えかけるもの、シェアされやすいものにしたいんですから。

 このように、動画によるコミュニケーションはまだ開始したばかりで、いろいろと模索中です。ですが、結局のところはお客様とどう絆を結んでいけばいいのかを最初に考えなくてはいけません。大事なのはそのときにデジタルで何ができるかということです。

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この記事の著者

渡部 拓也(ワタナベ タクヤ)

翔泳社所属。翔泳社から刊行した本の紹介記事などを執筆しています。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2017/04/25 07:00 https://markezine.jp/article/detail/26318

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