マーケティングに「定石」あり
シャノンは、マーケティングクラウドの提供にはじまりコンサルティング、アウトソーシングにも対応する、国内のリーディングカンパニーのひとつで、BtoB、BtoCを問わず、様々な業種に対してサービスを提供している。
マーケティング戦略の具現化・コンテンツやツールの開発・システム開発および運用・BPO・効果分析フェーズにあわせたタスクや各種サービスについて、ワンストップで対応できることを強みにしている。
シャノンが常に目指すのは「Marketing is Science」だと中村氏は訴える。同社はマーケティングを科学として位置づけており、企業のマーケティング課題を「テクノロジー」と「サイエンス」で解決していく使命を自らに課しているという。
「とはいえ、マーケティングは科学ではないのではないか、という意見にももっともなところがあります。人間が対象である以上、感情が関わるので理論ですべてを説明しつくすのは困難です。それに、自社とは事業規模や中身が違う事例が示されたら、『うちの会社の参考にはならないのでは』とも感じるでしょう」(中村氏)
確かにマーケティングには科学といえない部分もある。だが、明確に科学だと言える部分もあることこそが重要なのだ。だからこそシャノンは、「Marketing is Science」を掲げることで、「マーケティングには再現性が高いものがある」というメッセージを打ち出している。再現性のあるマーケティング上の「定石」を活用して、顧客の安定した成果を実現することが同社のミッションなのだ。
顧客接点の複雑化、顧客情報の分散にどう対処するか
次に中村氏は、日米のマーケティングオートメーション(以下、MA)市場の動向を紹介した。日本の場合、年平均25~30%のペースで成長している。市場浸透率は10%でアーリーマジョリティにまで到達するかどうかというところまで来ている。
一方アメリカでの普及ぶりには目をみはるものがある。Raab Associatesの2014年の調査によると、BtoBビジネスを行うフォーチュン500企業のうち59%がMAを導入していた。現在では60~70%程度の普及率に到達しているはずだと中村氏は語る。
「アメリカは、CRMやSFAとともに、MAを使うこと自体は当たり前となってきた。『使う使わない』ではなく、『どのように使うのか』ということを考えるフェーズに移っている。
日本でも、CRMやSFAがアメリカに遅れてではあるものの、かなり普及してきた経緯があります。MAも同様で、今後さらに導入が広がるのは確実な情勢といってよいでしょう」(中村氏)
MAの波及が広がるのと同時に、マーケティングの複雑化も進んでいる。マーケティングの複雑化は、顧客接点の複雑化によるところが大きい。各種ソーシャルメディアなど顧客と企業を結ぶチャネルは増え続けている状況だ。
「顧客接点が増えることで、マーケティングは複雑化していくばかりです。企業は対応に苦慮していますが、もちろん、すべての顧客接点に手動で対応するのは困難です」(中村氏)
顧客接点が複雑化するほど、顧客情報が分散するという難題が生じる。だからこそ、MAでマーケティングデータを一元管理するニーズや、需要が大きくなるのだ。
「マーケティングの新たなキーワードとして“MA”、法人単位でマーケティングを考え直す“Account Based Marketing”、予測的なマーケティングを可能にするためにAIを導入した“Predictive Marketing”という3ワードをよく目にします。
これらのキーワードは、クラウド・ビッグデータ・モビリティ・IoT・ソーシャルなどを使って、従来のビジネスのあり方を根本的に変革することを迫られる、デジタルトランスフォーメーションの時代に突入する中で、企業が変化に対応するための重要な要素になってきているのです」(中村氏)
施策手法は十分にある中、問題は「課題の置き方」にある
デジタルトランスフォーメーションの波が押し寄せるマーケティングの世界で、今マーケターに求められることは次の4点だと中村氏は指摘する。
- 購買者の行動変化への対応
- マーケティングROIの説明と向上
- 進化するテクノロジーへの追従
- 複雑化するマーケティングへの対応
「このように、マーケターは非常に高度な要求をされているのです。購買者の行動変化についていいますと、BtoBだとすれば、とりあえず営業を呼んで、数社から話を聞いて検討する時代から、商品やサービスの検討を事前にWebで行い、機能や性能、価格の見通しをつけてから営業を呼ぶ時代になりました。つまり、話を聞いて比べてもらえない。そもそもの引き合いが生まれないといった状況にも応えていかねばならないのです」(中村氏)
では、高度な要求に直面するマーケターが今必要としているものとは何だろうか。
「すでに世の中には解決策自体はあふれています。最も重要になるのが、“課題の置き方”なんです。大事なのは、世の中で何が流行っているのかではなく、自社の課題を特定すること。世界最先端の痛風の薬が出たとニュースになったとして、風邪の人がその薬を飲んでも意味がないのと同じです。風邪は風邪だと正しく診断することが、適切な治療の前提です」(中村氏)
思い描く「ゴール」から課題を「逆算」する
では、課題を特定し、適切な施策を展開するにはどうしたらよいだろうか。シャノンは、マーケターに必要な課題解決プロセスを、主に6つのフェーズで説明しているという。
- ビジネスのゴールを描く
- ゴールと現状とのギャップを知る
- 課題の優先度を整理する
- 課題解決施策とKPIを設定する
- 実行
- リアルタイムにKPIを測定して改善する
「ゴールは会社で既に決まっていることが多いです。たとえば、マーケットシェア20%UPなどといったゴールが社長から下達される。難しいのは、ゴールと現状のギャップを知ることです。」(中村氏)
マーケットシェアを20%上げるには、リードが必要なのか、商談こそが問題なのか、それとも受注率の改善がカギなのか。この課題設定をデータに基づいて把握することが難しい。
現状をデータで把握することができれば、次に、設定したゴールと現状とのギャップを把握し、ギャップの原因となっている課題に優先順位を付けていく。「自社にとって一番痛みが大きいことは何か」を考えて順位づけし、最優先課題を決める。
そのうえで、課題を解決するための複数の施策候補を挙げていく。挙がった候補の中から、成果が期待できるか、コストが高くつきそうか、メンバーの能力を勘案して実施がどの程度難しいかといった観点で、自社にとって最適な解決策を選定する。
このようなプロセスで適切な課題と施策を選択できても、難題は続く。
経営層・ミドルマネージャー層・現場といった立場の違いによって、マーケティングへの認識や捉え方にはズレがあるからだ。マーケティングの推進には予算が必要である以上、方針について関係者や経営層の理解を得るプロセスは必須。しかし、マーケターがこのタイミングで組織階層の断絶に直面することは少なくない。
どうして組織階層の間で断絶が起きてしまうのだろうか。そのヒントは、シャノンが毎年実施しているマーケティング調査の結果にあった。国内BtoB企業が考える課題の第一位は、3年連続で「マーケティング活動の成果が見えない」だという。
なぜ、マーケティング活動の成果は見えにくくなってしまうのだろうか。
「年々ツールは進化し、むしろ数年前よりデータは見えやすくなっているにもかかわらず、“成果“は見えない。細分化されたデータの見える化は、データとゴールが紐づいていないと、成果の見える化につながらないのです」(中村氏)
メールのCTRやソーシャルのエンゲージメント数やWeb閲覧状況がビジネスのゴールにどうつながるのか、そこを明確にしないと経営層は追加予算に納得しない。現場は自分たちが追いかけている指標とゴールのつながりが見えなければ、目の前の運用にかかりきりになり、ゴールに結びつく自発的な問題解決に取り組まないだろう。
組織階層の間で認識に齟齬が生じてしまうのは、組織活動にゴールが浸透していないからなのだ。そこでシャノンは「ゴールドリブンマーケティング」を提唱している、と中村氏は続ける。
リアルタイムな予実管理とゴール到達者分析がもたらすメリット
シャノンが提唱する「ゴールドリブンマーケティング」とは、経営層・ミドルマネージャー層・現場が誤差なく状況を共有することを目指すものだ。その実践を可能にするために、SHANON MARKETING PLATFORMには「ゴール機能」が搭載されている、と中村氏は語る。
ゴール機能を使うと、具体的にはKPIに基づくリアルタイムな予算実績管理とゴール到達者分析が実施できる。リアルタイムな予算実績管理ができると、どのようなメリットがあるのだろうか。
「変化が激しい時代に月次でのPDCAサイクルでは遅すぎます。たとえば、月単位でデータを見る際に、1ヵ月経過してから前月のレポートを作成しても、未達事項が確認できるだけでリカバリは次月以降に持ち越しですよね。一方、リアルタイムに管理すれば、予測レポートを随時確認して、月内に未達事項を把握してリカバリすることが可能です」(中村氏)
ゴール到達者分析のメリットも大きい。ゴール到達者と全体を比較することで、どのマーケティング施策が有効だったかを分析することができるのだ。例えば、「商談化したリード」と「全リード」のトラッキング履歴を比較することで、ゴール到達者がどのコンテンツを見ていたのか、傾向を探ることが可能だ。
「商談に至ったリードは“顧客行動履歴”というコンテンツをよく見ているのに対し、全リードではそれほど見ていない、といった傾向がわかる。そこで、商談数を増やすにはリードにこのコンテンツを読んでもらうとよい、という次なる施策の方針が見えてきます」(中村氏)
ゴール起点で課題を整理し、施策を最適化せよ
以上のように、ゴールを起点として課題を整理し施策を最適化する方法を実践すると、経営層・ミドルマネージャー層・現場という各レイヤーでKGIに基づくKPIを共有しやすくなる。組織内の縦の階層間に生じがちなズレが低減し、自社のマーケティング全体に対して共通認識が生まれる。
中村氏は実際にゴールドリブンマーケティングを採り入れ成功した事例として、ゴール機能を活かして訪問数が3.3倍、案件数は3.6倍にまで増加したという大手インテグレーション企業の取り組みを紹介する。その企業は、展示会、ネット広告をはじめとしたWeb施策と並行して、セールスマンによる名刺交換も多数敢行していたが、それらの情報集約ができていなかった。
「そこで、商談数増加というゴールを設定して、ゴールの逆算からPDCAを実施しました。見込み顧客の一元管理を進めて、Webでの行動履歴をもとに、興味の度合いと行動の中身、検討タイミングなどでセグメント化。各セグメントに合ったメールを送信し、MAによるスコアリングで業種などを参考にリードに優先順位を付け、商談化する流れを作り出しました」(中村氏)
多数の事例と取り組む中で、業種や業態によって対策の詳細は変わるにせよ、ゴール起点で課題整理を行ったアプローチなら、現状より成果が向上することは間違いない、という手ごたえを感じているという中村氏。今後もテクノロジーとサイエンスによって企業とマーケターの課題解決をサポートしていきたい、と語り、講演をしめくくった。