「運用業務の属人化」はどうすれば解決できるのか
今回編集部では、最近リスティング広告の運用体制を見直し、収益性を強く意識した運用戦略を実現して成果を上げているWILLERに取材した。WILLERは、グループ会社が運行する高速バスチケットを中心に、飛行機やホテルなど様々な移動・旅行商品をワンストップで扱うECサイト「WILLER TRAVEL」を運営している企業だ。
本インタビューでは、WILLERのリスティング広告運用を変革させた神徳昭裕氏と、神徳氏のもとで実務を担当する玉矢賀子氏、そして同社の課題解決を支援したマリンソフトウェアの小木優氏に話をうかがった。
神徳氏が率いるeコマースDiv.は、ECサイト「WILLER TRAVEL」を通じた旅行商品の売上拡大および新規会員獲得をKPIとし、Webマーケティング全般を担う部署で、具体的には集客やコンテンツマネジメント施策のプラニング・運用・クリエイティブ作成といった業務を行っている。その中で、玉矢氏はウェブ広告全般の運用を統括している。
玉矢氏によると、そもそもWILLERの広告運用の現場では運用の「属人化」が問題になっていた。商品担当ごとに分かれてリスティング広告運用を行っていたが、個々人の業務がサイロ化してしまい、組織として運用のクオリティを維持することが難しくなっていたという。
「WILLER TRAVELが扱うのは旅行商品なので、季節や在庫によって売上を上げやすい時期とそうでない時期があります。時期によって運用方針を変える必要があるのですが、入札の調整は担当者の感覚で対応しており、明確なルールがなかったんです。そのため、担当者によってパフォーマンスにぶれがありましたし、担当者が変わるときの引き継ぎが難しい状態でした」(玉矢氏)
そこで同社は、複数媒体の広告運用を一元管理化でき、運用業務の属人化の解消と工数削減ができるMarin Searchに目をつけた。販売戦略を広告運用に柔軟に反映できる自動入札機能や、複数ある媒体の入稿先を一本化できる事なども魅力だったという。
販売戦略をリスティング運用に落とし込むためにフローを見直す
Marin Searchの導入時には、まず各担当によってバラバラだった作業時間をまとめて効率化するため、1週間のスケジュールを組み、運用ルールをフロー化した。
「経営戦略や販売戦略を、リスティングの運用方針におとしこむための業務フローをあらためて考えました。具体的には、いつ事業部ごとのKPIが出るか、在庫にあたる空席数がわかるかなどの情報をふまえて、少ない工数で効率良く運用方針を導き出せるように工夫しました。
導入を支援してくれたマリンソフトウェアの小木さんのアドバイスにそって、リスティング広告の作業にあてる時間を集中させたところ、業務負担が軽くなりました。リスティング広告以外のマーケティング業務にも力を注げるようになったのは収穫でした」(玉矢氏)
こうした、導入に向けてのコンサルティングは、自社のリスティング広告運用を客観的に見つめ直すいい機会になったと玉矢氏は語る。
「高速バスの在庫が少なくなっているにも関わらず、リスティング出稿が続いてしまうケースがかつてはありました。Marin Search上で自動入札の設定に対し少しの調整を加える事で、在庫が無くなったら入札価格を引き下げ、広告の配信を止めることができるようになりました」(玉矢氏)
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GoogleとYahoo!を一括「タグ付け」するディメンション機能を駆使
戦略的運用と工数削減には、Marin Searchの「ディメンション機能」も大きく貢献しているという。ディメンション機能とは、ビジネスゴールや地域、製品カテゴリーなど、あらゆるキャンペーン要素を「タグ付け」して切り分けることが出来るものだ。このディメンションを設定することにより、色々な角度から分析が可能になり、問題が発見でき、そして次の施策に繋げることができる。
「路線ごとに運用を管理するために、ディメンション機能でキーワードを切り分けていきました。Aというキーワードは“関西のバス路線”、Bというキーワードは“関東のバス路線”というようにディメンションを切り分けて、バス路線ごとに効果を確認したり入札戦略を決めたりしています」(玉矢氏)
Googleにもラベル機能という類似した機能があるが、Marin Searchならば一回の操作でYahoo!とGoogleを横断してディメンションを分けることが可能だ。
「普段の運用でも、GoogleとYahoo!両方の管理画面を見る必要がなくなり、一つの管理画面で完結するようになったので、戦略を考える面でもとても楽になりました」(玉矢氏)
広告効果が落ちてきた時点でアラートを出す設定ができることも、属人化排除に貢献している。たとえばツアーであれば、卒業旅行のある3月に比べて4月は広告効果が落ちてくる。3月ならば100人のクリックで5件売上があったのに、4月は100人のクリックが2件の売上にしかならない、ということがありうる。
「季節的な要因による広告効果の低迷に気づけるように、あらかじめ閾値を決めておいて、閾値を下回るとアラートが出るようにしました。アラートが出たら、そのまま出稿を続けるのか、キーワードや入札金額を見直すのか、とるべき対応を社内用マニュアルにまとめました。これも属人的な運用の排除と工数削減につながりました」(玉矢氏)
Marin Searchの導入前は、同じ管理画面を見ていても、運用担当者のスキルによって、対応が必要な状況なのか判断がぶれてしまっていたし、何か異常な事態が発生していないか、たびたび管理画面をチェックするために工数がかかっていたことを思うと、大きな進歩があったという。
「閾値を設定して対応を決め、マニュアル化する」ということがMarin Searchの導入における重要なプロセスだったと玉矢氏は回想する。このプロセスが、属人的な運用の排除と工数削減、運用パフォーマンス向上のすべてにじわじわと効果を発揮していくのだ。
商品カテゴリーごとのROAS目標達成に向け、運用フローを見直す
WILLERがMarin Searchを導入するにあたり、最大のテーマは「属人的運用の排除」だった。そこでWILLERとマリンソフトウェアの両社は、WILLERがこれまでどのような運用方針をとってきて、これからどのような運用プランを築いていきたいのか、様々なケースを想定して徹底的に話し合った。
次の段階として、WILLERが目指すリスティング運用を具体化するために、収益を取り込む仕組みである「マリントラッカー」というトラッキングシステムを導入した。それにより、社内の収益データをMarin Searchに取り込み、ROASに基づく入札が可能になった。ちなみにROAS(Return On Advertising Spend)とは、投資した広告費用の回収率を指す指標だ。広告費1円あたりの売上額を示すもので、この値が大きいほど費用対効果の大きい広告運用だといえる。
さて、ROASという新たな指標を確認できるようになったことをうけ、玉矢氏はマリンソフトウェア小木氏のサポートをうけながら、「まずレポートを出して、こういうときはこのビュー(項目や数字のレポート画面)を見よう、こういった判断のときはこう調整しよう」といったパフォーマンスの確認フローと入札調整のフローを洗い直し、新たに運用上のルールと判断基準を固めた。
「その後、ある程度、運用や判断の基準ができた段階で、カテゴリーごとに自動入札の設定をし、路線ごとの収益性や単価を考慮してROAS目標を設定しました。その後、実際の運用を進めながら弊社とマリンソフトウェアさんでROAS目標をどの程度達成できているかモニタリングし、ROAS目標を適宜調整してきました」(玉矢氏)
ROAS目標によって販売戦略と広告戦略がリンクする
ROAS目標の設定は大変な作業だったが、やりがいがあったと玉矢氏は振り返る。今までのツールでは商品ごとの利益率や売上数をとりこむことができず、ROASをチェックすることができなかったため、全体のCPA(Cost Per Acquisition)で判断していた。
CPAとは、CV1件あたりのコストの指標である。CPAでは5,000円の利益を生む路線も1,000円の利益しか生まない路線も同じCVとしてカウントしてコストを弾き出すので、リスティング広告運用戦略が販売戦略と乖離しがちだった。
しかし、Marin SearchでROASを確認できるようになると、路線ごとの入札戦略を考えて収益の最大化を目指せるようになった。
「たとえば、一人での予約よりも複数名での予約の方が多くの利益を生む事があるので、複数名予約のCVにつながるキーワードにはより多くの広告予算を投入します。ディメンション機能を使って、複数名予約が多そうなワードをグループ分けし、入札金額を高めに設定することができます」(玉矢氏)
同時に、収益性は犠牲にしても中長期的な販売戦略に基づいてプッシュしていく商品に対しては、ROAS目標を低めに設定することで広告を強化することもできるようになった。たとえば、成田シャトルという大崎駅と成田空港をつなぐバスは、単価が1,000円と安く利幅も小さいが、この路線は新たに発売したものなので商品認知を獲得するためにROAS目標は低めに設定した。
「もし以前のようにCPAで一律に目標設定していたら、成田シャトルには入札できませんでした。ROAS目標を考えることによって、成田シャトルを商品として定着させようという販売戦略と広告戦略を連動させることができました」(玉矢氏)
玉矢氏はマリンソフトウェアと共にROAS目標を設定しながら、リスティング運用において目標を明確に定める意義を実感したという。商品の利益率や在庫状況を考慮せず、GoogleやYahoo!などの管理画面で見られる情報だけで運用することのデメリットは大きいといえる。
利益率や在庫状況をふまえた運用による成果はすぐに数字にも現れた。広告効率が改善しただけでなく、客単価が上がり売上件数も増えたことで全体の収益もアップしたという。
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業務負荷が半減したことで戦略に集中し、広告運用は商品販売担当に移譲
Marin Searchの導入によって、各担当が情報を共有できるようになったことで、チームワークと効率が上がったと玉矢氏は続ける。
「事業部ごとに見たい情報の優先度は変わるのですが、みんなで見なければならない情報についてのビューを、いちいちセットし直さなくて良くなったことも工数削減につながっています。全体として、作業時間は約半分になったと実感しています」(玉矢氏)
神徳氏は、運用のマニュアル化によって、玉矢氏がリスティング広告から手離れできるようになったことで、組織戦略にも広がりが生じたと語る。
「以前は広告担当が5人いましたが、今は3人になりました。組織としての効率が上がりましたね。運用業務の負担が減ることで、玉矢たちに戦略づくりにリソースを割いてもらえるようになりました」(神徳氏)
Marin Searchの導入にあたって、玉矢氏が入札の自動化方針を模索し、ROAS目標による戦略立案を担ったことで、自ら戦略を作れる組織が誕生したのだ。
「これから玉矢には、社として取り組みを強化していきたい高収益なインバウンド商品やツアー商品の施策を考え、ノウハウをためることに注力してもらう予定です」(神徳氏)
神徳氏は玉矢氏の業務内容を運用実務から戦略策定へとシフトさせるとともに、大きな決断をした。
「実は、路線や商品を決める商品担当が広告運用も行う体制にしました。今までは、在庫を見ながら出稿を強めたり弱めたりするといった作業を、東京にいる商品担当と大阪にいる玉矢がやりとりをして進めていました。でもそれではスピードが遅すぎました」(神徳氏)
広告運用と商品担当の間のコミュニケーションコストを削るために、商品担当が広告についても運用することにした。商品担当は商品価格と在庫を管理しているので、在庫状況を見ながら、商品価格を調整しつつ、広告のタイミングと金額を決定できる。
具体的には、サイトに来たユーザーに対して、5,000円で売っている商品を200円下げて売るのか、広告によって集客を増やすために200円使うのか、商品担当が決められる仕組みにしたのだ。
とはいえ、デジタルマーケティングの経験がない商品担当者にリスティング広告運用を引き継ぐのは簡単なことではないはずだ。しかしWILLERでは大きな問題もなく、運用業務の移譲ができたという。
「Marin Searchの導入にあたって、運用ルールをマニュアル化したので、引き継ぎが簡単になったことが大きいですね。『この日にこのビューで数値をチェックして、このディメンションが○○の状況ならば、△△の設定を変更してください』といったカルテを作ったので、誰でも運用ができるようになっています」(神徳氏)
収益最大化と新規顧客獲得をダブルで狙う高度な運用へ
最後に、神徳氏に今後の展望について聞いた。Marin Searchの導入によって、申込があった時点で「既存客」なのか「新規客」なのかをMarin Search上で確認ができるようになった為、今後はさらに新規顧客の獲得を意識的に強化していきたいという。
既存と新規の獲得件数が、検索されるキーワードレベルで把握できるため、新規顧客が多く見込めるキーワードには強めの入札を行うという事もできるようになった。さらに既存顧客と新規顧客で入札方針を切り分けることで、既存顧客についてはROAS目標を高く設定して収益を最大化しながら、未来の売上を生み出す新規顧客についてはROAS目標を低めに設定するという、メリハリを付けた高度な戦略的運用が可能になったのだ。
「春先から新規顧客を獲得できるキーワードを強めることで、繁忙期である夏に備えていく予定です。既存顧客の広告効率をあげることでコストを削減して浮いた金額を、新規獲得施策へと投下していきたいですね」(神徳氏)
さらに神徳氏は、顧客のニーズごとにセグメントを分け、LTVが高いセグメントにより多くの予算をかける取り組みまで見すえている。
「バスの利用目的で一番多いのは旅行ですが、イベントや帰省、就活などで使う人もいらっしゃいます。こうした『目的』に注目してディメンションを切り分けていきたいと考えています。たとえば、アイドルのコンサートに参加するために年5回以上もWILLERを使ってくださるユーザーがいるセグメントに対しては、積極的にキーワードに紐づけて獲得していくつもりです」(神徳氏)
そのような明確な目標に向かって、最新技術を取り入れた運用・管理プラットフォームを単に提供・技術サポートするだけでなく、一歩踏み込んだコンサルテーションも行うことで、マリンソフトウェアはクライアントのマーケティング目標の成功へとともに歩んでいる。
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