マリオを通じてプログラミングに親しんだ幼少期
――柿野さんとプログラミングの出会いはどのようなものだったのでしょうか。
柿野:父が富士通だったので、幼少期から身近にパソコンがありまして。しかもファミコン世代なので、ファミリーベーシックでマリオのゲームを作って遊びながら、プログラミングに興味を持ちはじめたんですよね。
その後大学で「情報システムとマーケティング」というマーケティング系のゼミに熱中したのがきっかけで、ERPベンダーのSAPに入りマーケティングの実務に就きました。メールがない時代なので、DMを40万通打ったりしていましたね。広告代理店全盛時代のマス広告を中心とした昔ながらのマーケティングでした。
当時この業務をITでもっと自動化したいと思って、手組みシステムでMAのような仕組みを作って実装してみたんです。この仕組みが「結構使えるね」と会社に認めてもらえて、しばらくそのシステムの開発と運用責任者のようになっていました。そんなわけでキャリアの中心はマーケティングなのですが、システム作りも経験してきています。
――マーケターのお仕事をされながらご自分でプログラムを組んでしまったんですね。そんな柿野さんが今回あらためてプログラミングを学ばれたのはどうしてなんでしょうか。
柿野:今は出張・経費管理のクラウドサービスを提供しているコンカーでマーケティングを統括しています。最近の傾向として、自社のサービスと他社のサービスをつないで、新しい顧客体験を作ることが増えているんです。具体的には、コンカーの経費精算クラウドを「Sansan」やヴァル研究所の「駅すぱあと」とつないだり、「ぐるなび」とつないだりして、経費精算業務の省力化を推進しています。
そんな中で、最近のプログラムの仕様を理解できれば仕事がよりスムーズに進むかなと思い、TECH:CAMPでRubyによるアプリ開発を学ぶことにしました。
マーケターのスキルにプログラミングの知識を乗せる
――プログラミング学習が引き続き話題ですが、実際に学んだマーケターの方はまだまだ少ないのではないでしょうか。
柿野:プログラミングを学んだマーケターは海外には結構いるんですが、確かに国内には少ないかもしれないですね。
日本だと、マーケティングが広告と同じ意味として捉えられているケースが多いので、必要を感じる場面が少ないのかもしれません。それに、僕のようなIT側からマーケティングに入ってくる人はまだまだ少ないですよね。
――確かにそうですね。ただ最近は、広告代理店にもIT系の方が中途で入ることが多くなったり、競合がIT系のベンダーやコンサルになることも増えてきていたりするので、マーケティングを中心にキャリアを積んできた方も、IT系の方を意識するようになりつつあると聞いています。
柿野:なるほど。デジタルマーケティングで狭い領域に特化してきた人はマーケティング全般のマインドを学ぶ必要があるのに対して、マーケティングをやってきたひとは勘所を知っているので、業務をある程度こなせばデジタルマーケティングにも順応できる印象があります。
いくらIT系の人が新しく入ってきたとしても、もともとマーケ畑で力を培ってきた人は強いですし、プログラミングの知識が備われば、さらに活躍できるはずです。
ただこれからの世の中は、企業が商品を顧客に押し付けるのではなく、顧客が商品を選ぶプルマーケティングが主流になってきますし、広告も自動化されていくので、マーケターとしてプロモーションだけをやっていくわけにはいかなくなるでしょう。
(1)顧客体験を作るためにプログラミング知識が活きる
――これからのマーケターには広告やプロモーションの設計にとどまらない働きが、より求められてくるのですね。その中で、マーケターはなぜプログラミングを学ぶべきなのでしょうか。
柿野:素晴らしいビジネスモデルを作ることや、イノベーションをおこして、顧客が必要としてくれるものを作り出すことがマーケティングの本質的な役割です。つまり、製品を売るというだけでなく、顧客体験を作ることが鍵になります。
新しい顧客体験を作るには業務知識、マーケティングのマインドに加えてプログラミングの知識があると有利です。
生活者をとりまく環境にテクノロジーが猛烈な勢いで入りこんでいる以上、マーケターはテクノロジーへの理解を高める必要があります。テクノロジーを深く理解するためには、プログラミングを学ぶのが最も早いのです。
また、顧客体験を向上させるためにはマーケターが自力ですべてやるのではなく、社内外の様々なリソースをつなげていくことになりますが、IT系のリソースをつなぐためにもプログラミングの知識は効いてきます。
――プログラミングの知識があれば、課題解決のための引き出しが増えるわけですね。具体的にはどのような場面で役立つのでしょうか。
柿野:プログラミングを学んでいくと、「ソフトウェアやプログラムがどんなことをやっていて、どこまでできるのか」がわかり、周囲に説明できるようになるんです。これって組織を動かしていく上でとても重要な事です。
たとえば、社長は細かなマーケの実務の話はわからないですよね。そんな社長に対して、「この施策ならこういうことができます」と明確に伝えることができれば、「そのアウトプットならいけるよね」と確かなイメージを持って判断をしてもらうことができるはず。それと同じで、ITについての知識は社長や同僚を巻き込むためにも有効なのです。