エンタープライズ向けCMSとして成長し続けるDrupalとは
Drupalは、エンタープライズ向けのWebコンテンツ管理システム(CMS)だ。GEやジョンソン・エンド・ジョンソン、NASDAQ、Nestlé、Pfizerなどの大手企業やホワイトハウス、オーストラリア政府、ハーバード大学などの官公庁に導入されている。
同CMSの特長は、柔軟性があり、あらゆるWebサイトを一元管理できること。コーポレートサイト、ブランドサイト、ポータルサイト、ECサイトなど多様なデジタルエクスペリエンスを求められる現在、企業では複数のデジタルプラットフォームを利用しなくてはならない。
Drupalは、コミュニティやクラウドサービス各社が提供する数多くの機能拡張モジュールを持ち、単一のプラットフォームですべてのコンテンツを管理可能。もちろんカスタマイズもできるため、大企業や官公庁からの複雑な要件に対応することができる。
そして、Drupalをエンタープライズ向けPaaSとして提供しているのがAcquia(アクイア)だ。Drupalの創始者であるDries Buytaert氏が共同創業者兼CTOを務める米国企業である。CI&Tは、世界の大企業を支援するデジタル・テクノロジー・エージェンシーであり、Acquiaの導入と開発をグローバルに展開している。
情報開示のポリシーを徹底するアステラス製薬
ではなぜ、アステラス製薬はコーポレートサイトの構築にAcquia支援のもとDrupalを導入したのだろうか。そこには、グローバルに展開する製薬会社として情報開示のポリシーを徹底して守り、加えて、企業のビジョンを伝えたいという背景があった。
アステラス製薬は、世界各国の研究所とネットワーク型研究体制のもと、世界各国各地域のアカデミアや研究機関、バイオベンチャーなどと積極的にパートナーを組んでいる。また世界50ヵ国以上の販売網を持ち、世界中にステークホルダーが広がっている。そのためWebサイトは、適時適切に情報を開示するためのツールとして非常に重要な役割を担うのだ。
しかし、これまでのコーポレートサイトは日本向けとそれを翻訳した英語版のみ。そしてアメリカなど米州各国やEMEA各国、中国などのアジア各国のように、各拠点がそれぞれ開発・運用をする地域サイトが30サイト以上あった。
そこで、新たなグローバル・コーポレートサイトの新設と各国サイトのリニューアルを行うプロジェクトを発足。世界中のステークホルダーへ適時・適切な情報提供を実現し、企業透明性の向上を目標としたのである。
さらにプロジェクトをリードした、アステラス製薬の広報部の松田尚明氏はWebサイトの役割を自社の情報開示に関するポリシーを具現化することに加えて再定義した。
「コーポレートサイトを軸に各国のWebサイトを統一して管理することにより、アステラス製薬の『変化する医療の最先端に立ち、科学の進歩を患者さんの価値に変える』というVISIONを中心としたアステラスらしさを伝えていく。Webサイトは、ステークホルダーにアステラス製薬らしさを知っていただき、企業への理解を深めていただくための役割もあるのです」(松田氏)
多言語サイトの統一管理を実現したAcquiaの魅力
今回アステラス製薬が推進したコーポレートサイトのプロジェクトには、3つの柱がある。
1つ目は、Webガバナンスの確立。2つ目は、新ブランド・ガイドラインの適用とグローバル展開。3つ目はシステム戦略に関わるWeb・IT基盤のグローバル最適化である。
「多言語・多拠点・組織の大きさをカバーするシステムが必要でした。またモバイル化・ソーシャル化が進む環境の変化にも対応しなければなりません。限られた人的リソースでも簡単に運用ができ、エンタープライズ要件にも耐える機能も用意せねばならないなど、多くの要件を抱えていたのです」(松田氏)
AcquiaはDrupalで、アステラス製薬の課題を次のように解決していく。
まず、デザインやサイト構成のばらつきには、DrupalのDistributionというサイト構造テンプレート化機能を活用。サイト構成とデザインをテンプレート化し、各国で共通化した。
情報提供の要であるコンテンツの投稿フローは、部門ごとに権限を分けシステムの中で管理。外部ベンダーへの権限付与と管理も行えるため、コンテンツの制作、社内でのレビューと公開がスムーズに実行できるようになった。
また、Drupalには翻訳コンテンツの登録機能がある。まず各国サイトへは英語コンテンツを表示させ、翻訳版への差し替えを行うようにした。HTMLではなくCMSでの運用のため、修正もしやすく、コンテンツの配信時間も管理できるようになっている。
エンタープライズが求めるインフラ・セキュリティ要件もすべて実現
では、システム面からの課題はどうだろうか。
アステラス製薬の情報システム部は、地域ごとの組織から1つのグローバル組織に改編を行った。各地域でシステムインフラを構築・運用する体制から統一してマネジメントすることにより、グローバルでのビジネス展開への効果的な貢献にむけた情報システム戦略へ動き出していた。
Drupalを導入した理由として、同社の情報システム部の課長、川浪洋一郎氏は以下のように話す。
「グローバルサイトを展開するにあたり、ビジネスの要件をみたすとともに、シンプルでグローバルでの運用体制が整えやすいアーキテクチャが必要だという情報システムの戦略に、Drupalはぴたりと当てはまりました。Drupalに特化したクラウドプラットフォームであるAcquiaは、エンタープライズでDrupalを利用するために必要な機能をすべて揃えています。また、定額にクラウドサービス費用やインフラ運用のリソースなども含まれているため、コストマネジメントもしやすいのです」(川浪氏)
続けて川浪氏は、「情報システムの課題は、安定稼働と信頼性、セキュリティ、インフラ・運用の効率化」だと語るとともに、それがDrupalおよびAcquiaだと解決できることを明らかにした。
運用効率については、障害対応を考慮したサーバー構成・複数のロードバランサーにも対応したキャパシティ対応など、エンタープライズ向けに最適化されたPaaS「Acquia Cloud Site Factory」ならではの利点が生かされ、大幅に向上している。
また、24時間365日のプラットフォーム稼働を保証しており、監視や動作環境も管理するため、トラブル対応にも万全の体制が取れるようになった。さらに、セキュリティ要件も求めるレベルをクリア。悪質な攻撃を遮断し、環境の悪いところでも快適なアクセスができる「Acquia Cloud Edge Protect」にはWAFとCDN機能も導入されているため、セキュリティ対策も安心できたという。
企業としては、投資効率の良いシステムを導入したいという考えがあるだろう。開発者のコミュニティが活発なオープンソースであるDrupal、そしてエンタープライズによるDrupal利用を強力にサポートするAcquiaのフルマネージド・サービス。これらについて「これからのスタンダードになる」と川浪氏は語った。
大規模なプロジェクトを効率的に進めるアジャイル開発
今回のプロジェクトは、2016年の初めに検討スタート。要件定義や導入技術・パートナー企業の選定を経て開発は2017年1月に着手、5ヶ月という短期間で2017年5月末にグローバルサイトを新設・リリースした。これに並行して、ローカルサイトの基本フォーマットとなる日本のサイト開発が進行中。そして2018年からは、各国のサイトをリニューアルする予定だ。大規模で長期にわたるプロジェクトだが、スケジュールの大幅な遅れは出ていないという。その理由は、アジャイル開発にある。
システム開発において、要件の増減や変更はよく発生する。また、できあがったシステムを実際に動かし、イメージと違っていたということも起こりやすい。アジャイル開発では、スプリントと呼ばれる短期間の中で小さな成果物を開発していく。小さな単位で開発・テスト・修正・完成を繰り返すため、要件の変更や認識のずれに対応しやすいのだ。
「アジャイル開発はすばらしいですね。実際に稼働する製品ができあがると、クライアント側も嬉しいものです。次のスプリントもしっかりとやっていこうという良いサイクルにつながります」(松田氏)
関連部署、パートナー企業と同じゴールを目指す
アジャイル開発において同社は、プロジェクトメンバー同士のコミュニケーションにも重点を置いている。毎朝のWeb会議では、案件の進捗・要件の確認を行い、常に関係者同士で連携を取っている。会議には技術者とクライアントが参加するため、システム開発にありがちな「こんなはずではなかった」という認識のずれは発生しない。
これは部署間においても同様だ。アステラス製薬側からは広報部と情報システム部のメンバー5名が毎朝の会議に参加。一般的に、このような開発は情報システム部が主導で進めることが多いが、要件確認などでタイムラグが発生しがちだ。一方、今回のプロジェクトではビジネス部門の広報部がプロダクトオーナー部署であった。同部署は関連部署との連携を重んじて、毎日活発なコミュニケーションを取り、相互理解を深めたため、スムーズに開発が進行できたという。
また、プロジェクト管理にはアトラシアンが開発した「JIRA Software」を活用。タスクを見える化・仕組み化して管理していたことも、円滑な開発スケジュールの進行につながっていたという。
最後に松田氏は今後の展望を語り、公演を締めくくった。
「アステラス製薬はイノベーションを大切にしています。パートナー企業であるCI&TとAcquiaもイノベーションに価値を置き、目指す方向性が一緒です。そのようなパートナーと組み、しっかりと協力体制が取れていたことが、これまでのプロジェクトの成功につながり、かつ今後の成功を約束するものだと確信しています」(松田氏)
クライアントをはじめ、広告代理店、開発会社と多様な企業が参加した「Acquia Day 2017」。アステラス製薬のセッション動画および登壇スライドは公開されているので、ぜひ参考にしたい。また、Acquiaは日本オフィス開設を計画中とのこと。海外のみならず国内企業においてもDrupalおよびAcquiaへの期待が高まっている。
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題名:デジタル・エクスペリエンス研究会【Peatix参加申込・フォロー】
日程:
第1回 2017年 7月 26日(水)@CI&T南青山オフィス
第2回 2017年 8月末 @未定
第3回 2017年 9月末 @未定
定員:各10名