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日本郵便「デジタル×アナログ」実証実験プロジェクト(AD)

日本郵便が実験参加社を募集!デジタルでリーチできるのは顧客の6%、富士フイルムも驚いたデジマの罠とは

 デジタルマーケティングに取り組んでいると、「デジタル施策でリーチできる顧客は氷山の一角にすぎない」という事実を忘れがちだ。P&G、IMJ、コカ・コーラでマーケティングに従事し、現在は、日本郵便で担当部長を務める鈴木睦夫氏の示唆によってこの課題に気づかされたと語るのは、富士フイルムのe戦略推進室マネージャーの一色昭典氏。一色氏率いるマーケティングチームは、デジタルの“外”にいる優良顧客にDMでアプローチして成果を挙げたという。本稿ではお二人にデータドリブンにアナログ施策とデジタル施策を掛け合わせるメリットと具体的な方法を聞いた。

顧客の94%はデジタルの“外”にいる

鈴木:近年、マーケティング業界では「デジタルマーケティングを成功させるには」ということばかり話題になります。僕はこれに対し、「いやいや、顧客はデジタルの中だけにいるものではないよ」といい続けてきました。

 やはり現場のマーケターの方も同じ課題を持っていたようで、最近はデジタル一辺倒のマーケティング施策を見直す企業も増えてきました。デジタル施策に積極的な企業ほどその傾向が強いです。

左から、富士フイルム株式会社 e戦略推進室 マネージャー 一色昭典氏日本郵便株式会社 郵便・物流商品サービス企画部担当部長 鈴木睦夫氏
左から、富士フイルム株式会社 e戦略推進室 マネージャー 一色昭典氏
日本郵便株式会社 郵便・物流営業部 担当部長 鈴木睦夫氏

一色:私達は鈴木さんがおっしゃっていた「デジタルの壁」の例えに共感しました。メールなどのデジタルチャネルで顧客とつながっているとはいっても、そもそもオプトインしてくれる顧客は平均して3割程度でしかないんです。その中で、メールを送っても実際に開封してくれるのは平均2割ほど。メールがきっかけで、購入や来店などの態度変容を起こす顧客はさらに少なくなります。

 つまり、デジタルでアプローチしているのは、多く見積もっても全顧客の6%でしかない。その6%の小さな母集団を相手に施策を回して一喜一憂するのではなく、デジタルの外にいる顧客のことも考えて戦略を立てるべきという主張に、目からウロコが落ちました。

鈴木:やはり、「デジタルだけでは何か違うな」という感覚があったんですね。

一色:当社では一般顧客向けの商材として、思い出の写真を一冊の写真集としてまとめる「フォトブック」や、写真付き年賀状の印刷サービスなどを提供しています。問題なのが、毎年必ず購入してくれるお客様の中でも、メールを登録していない方がかなりの割合でいらっしゃることです。また、メールを登録してくださっているのに、開封してくれないお客様もいます。つまり、優良顧客なのにデジタルでは届かない層が存在したんです。

 反応がないお客様のことを「休眠顧客」と呼ぶこともありますが、別にお客様は寝ているわけではなく、そこにいるんです。ただ、デジタルではリーチできないだけ。そんな「デジタルの壁」を打破するにはどうすべきか、という課題を抱えていたんです。

デジタルだけで態度変容を起こすには限界がある

鈴木:企業側からどんなにいいオファーを送っても、届かなくては意味がありませんよね。

一色:そうなんです。「フォトブックや年賀状は全部、富士フイルムにお願いする」という方もかなりいらっしゃいますし、会社としてはそういう優良顧客の方を大切にしたい。だからこそ、お客様に喜んでいただけるような“おもてなし”をしたいのですが、メールを送っても開封してもらえないし、そもそも受け取ってもらえない層が多いことが悩みのタネでした。

 とはいえ、アナログで一人ひとりにリーチするにはやはりコストがかかります。以前、私が統括していた化粧品通販事業ではDMを基本施策としており、ECの成長と共にデジタル施策が増加し、当然eメールの方が効率は良くなりました。そこで上層部からは「DMのコスト減の為、できるだけeメールにしてほしい」と言われ、DM会員からeメール会員へスイッチしてもらおうとしましたが、上手くいきませんでした。

メール×パーソナライズドDMの掛け合わせで効果は3倍に

鈴木:そこで今回、オンライン施策とDMを併用した施策の実証実験を行ったんですね。

一色:そうです。2つの層をやってみました。ひとつは、2016年末から2017年にかけて初めて年賀状印刷を申し込んだ顧客のうち、それ以降ご利用のない方々です。もうひとつは、これまで何度もリピートしていただいた優良購入者の方で、どちらのグループもメールマガジンを購読している層・していない層を2,000ずつ抽出してDMを送りました。

A層:2016年末〜2017年1月に初めて年賀状印刷を利用し、以降購入実績がない顧客層
B層:富士フイルムのサービスをリピートしている優良顧客層
  メールマガジン購読中 メールマガジン未購読 DMの提案
A層 2,000 2,000 フォトブックの無料制作
B層 2,000 2,000 フォトブックの無料制作

一色:内容はすべて「紙のフォトブックを無料で制作します」というもので、全8,000通のDMにユニークなキャンペーンコードを記載して、専用のLPに入力してもらう仕組みを作り、訪問結果を検証しました。

鈴木:何でも、びっくりするような効果があったとか(笑)。

一色:驚きましたよ。A層ではLPにアクセスした人が全体の45%で、これはメールのコンバージョンの3倍になります。アップセル率は24%でした。B層は、アクセスした人の率はやや下がるものの、アップセル率は全体の24%で、A層と同じでした。しかもB層にいるメルマガ未読の層のアップセル率は28%だったんですよ。

 メールマガジンを購読していないお客様にはそもそもこちらからの提案は届かなかったのに、DMを使うことでオファーを有益なものとして受け入れてくれる方が大勢いらっしゃったんです。同様に、メールマガジンを購読しているとしても、ただ送るだけではなかなか有益なオファーも受け取ってもらえないのに、DMと併用したら反応が非常に良くなったので驚きでした。

なぜDMで態度変容が起こるのか

鈴木:DMで態度変容が起こった理由はいろいろ考えられますが、僕は「DMは記憶に残りやすい」という仮説を持っているんです。メールは流れていきますが、DMは物理的に手元に残るので、記憶を呼び覚ましやすい。顧客の印象に残るんです。

 さらに、これも仮説ですが、DMとメールという組み合わせは行動を促しやすいと考えています。DMだけでデジタル行動に変化を起こすには限界がありますが、メールマガジンと併用することで、「DMでも同じ案内を見たから、メルマガにあるLPをクリックしてみようかな」と、“Digital to Digital”の道筋ができやすくなる。これはかなりいいシナリオだったと思います。

一色:ありがとうございます。今回、メールとDMの両方を送ったわけですが、クレームはゼロでした。メールなら送られると「うっとうしい」と思われるところがDMだと受け入れてもらいやすいと感じました。

鈴木:日本ダイレクトメール協会が行った調査によると、「DMを受け取りたい」という受取意向率は、実は77%もあるんですよ。よく利用し、認知している企業からのお知らせであれば、積極的に「受け取りたい」と8割近くの人が思っている。手紙を受け取って、「こんなお得な手紙を送りやがって!」と怒る人はいませんからね(笑)。

一色:事業会社の観点からいえば、今回の施策を通し、DMとメールの併用はROIが高いということを改めて認識しました。DMはメールよりコストがかかりますが、併用することで、これまで無反応だったお客様や、デジタルでリーチできなかったお客様とのコミュニケーションが可能になると、それだけのコストをかける意味はあるわけです。

 ROIのしきい値は企業ごとに異なるでしょうが、単純に「メール施策のコンバージョンの3倍以上」ということになれば、ほとんどの企業に効果があるといえるのではないでしょうか。

ただDMを送るだけでは効果は出ない

鈴木:ここまでいい話ばかりしてきましたが、何でもDMを送ればいいかというと、決してそうではありません。僕は、デジタルとアナログをただ併用するだけでは、望む効果は出ないと思っています。

 必要なのは、「適切な人に、適切なタイミングで、その人にとって有益な情報を正しい手段で送ること」です。デジタルかアナログかというのはあくまで手段であり、データをもとにターゲット・タイミング・情報・手段を最適化することがポイントになります。

一色:おっしゃるとおりです。単純にDMとメールを併用するだけでは、ROIは低下してしまいます。

一色:事業会社としては、コストも抑えられますし、成果も測りやすいから、すべてのコミュニケーションがデジタルで完結することが理想です。でも、繰り返しになりますが、お客様はデジタルの外にもいらっしゃいますし、むしろそっちのほうが大きい。デジタルだけ力を入れても、リーチできる分母がなかなか増えないんですよ。

 マーケティングは効率を追求する業務でもあります。デジタルでリーチできない層や、メッセージに気づかない層に、どうやって効率的にオファーを届ければ良いか、ROIを意識して考えないといけません。そのためには多角的にデータを徹底的に分析し、できるだけ顧客に寄り添った戦略を立てることが必要です。今回の実証実験をやって、それがよくわかりました。

まずは実験してみることが重要だ

鈴木:ターゲットを設定し、どういう内容のメッセージを、いつどうやって送るのか。このシナリオをどう描くかが成否を分けますね。

一色:試行錯誤するしかありませんが、でも今回のような施策を支えるテクノロジーが進化しているのは心強いですね。たとえば紙のDMの世界でも、パーソナライズドメールのように、デジタル複合機を使ってデータに基づいて一枚ごとに適切なオファーやクーポンを高速印刷できる「バリアブル印刷」という技術も登場しており、当社は富士ゼロックスと一緒に取り組んでいます。アナログ印刷の課題はスピードとコストですが、それが解消されつつあるんです。

 さらに、近々MAツールの中にもDM送付機能が組み込まれるという話もあります。データを分析して、確度の高いターゲットに対して、適切なタイミングかつ適切なクリエイティブで、効果の高い手段を通じて良い提案を送れるわけです。そうすると、開封率も3倍、6倍と増えていくと思うんですよ。

 それが結果として、リーチできる顧客の母数拡大につながり、エンゲージメントも強化されていく。当社の場合やはりデジタルに軸足を置いているので、今後もWeb上で回せる最大効果を狙って、「Marketo」を使いこなしながら施策の戦略を立てていきます。

鈴木:やはり、まずはやってみて、その効果をもとに今後のマーケティング戦略を立てるのが重要ですね。今回の対談では、富士フイルムさんと現在のデジタルマーケティングが抱えている課題について考えましたが、デジタルに閉じた施策に疑問や限界を感じている企業はたくさんあると思うんですよ。そうした企業のマーケターや、またデジタルに特化してDMを知らないマーケターの方に、ぜひ一度DM×メールを組み合わせた実証実験に参加していただきたいですね。

※実験参加社の募集は終了いたしました。たくさんのご応募、誠にありがとうございました。

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この記事の著者

岩崎 史絵(イワサキ シエ)

リックテレコム、アットマーク・アイティ(現ITmedia)の編集記者を経てフリーに。最近はマーケティング分野の取材・執筆のほか、一般企業のオウンドメディア企画・編集やPR/広報支援なども行っている。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2019/10/18 16:24 https://markezine.jp/article/detail/26692