顧客の94%はデジタルの“外”にいる
鈴木:近年、マーケティング業界では「デジタルマーケティングを成功させるには」ということばかり話題になります。僕はこれに対し、「いやいや、顧客はデジタルの中だけにいるものではないよ」といい続けてきました。
やはり現場のマーケターの方も同じ課題を持っていたようで、最近はデジタル一辺倒のマーケティング施策を見直す企業も増えてきました。デジタル施策に積極的な企業ほどその傾向が強いです。
一色:私達は鈴木さんがおっしゃっていた「デジタルの壁」の例えに共感しました。メールなどのデジタルチャネルで顧客とつながっているとはいっても、そもそもオプトインしてくれる顧客は平均して3割程度でしかないんです。その中で、メールを送っても実際に開封してくれるのは平均2割ほど。メールがきっかけで、購入や来店などの態度変容を起こす顧客はさらに少なくなります。
つまり、デジタルでアプローチしているのは、多く見積もっても全顧客の6%でしかない。その6%の小さな母集団を相手に施策を回して一喜一憂するのではなく、デジタルの外にいる顧客のことも考えて戦略を立てるべきという主張に、目からウロコが落ちました。
鈴木:やはり、「デジタルだけでは何か違うな」という感覚があったんですね。
一色:当社では一般顧客向けの商材として、思い出の写真を一冊の写真集としてまとめる「フォトブック」や、写真付き年賀状の印刷サービスなどを提供しています。問題なのが、毎年必ず購入してくれるお客様の中でも、メールを登録していない方がかなりの割合でいらっしゃることです。また、メールを登録してくださっているのに、開封してくれないお客様もいます。つまり、優良顧客なのにデジタルでは届かない層が存在したんです。
反応がないお客様のことを「休眠顧客」と呼ぶこともありますが、別にお客様は寝ているわけではなく、そこにいるんです。ただ、デジタルではリーチできないだけ。そんな「デジタルの壁」を打破するにはどうすべきか、という課題を抱えていたんです。
デジタルだけで態度変容を起こすには限界がある
鈴木:企業側からどんなにいいオファーを送っても、届かなくては意味がありませんよね。
一色:そうなんです。「フォトブックや年賀状は全部、富士フイルムにお願いする」という方もかなりいらっしゃいますし、会社としてはそういう優良顧客の方を大切にしたい。だからこそ、お客様に喜んでいただけるような“おもてなし”をしたいのですが、メールを送っても開封してもらえないし、そもそも受け取ってもらえない層が多いことが悩みのタネでした。
とはいえ、アナログで一人ひとりにリーチするにはやはりコストがかかります。以前、私が統括していた化粧品通販事業ではDMを基本施策としており、ECの成長と共にデジタル施策が増加し、当然eメールの方が効率は良くなりました。そこで上層部からは「DMのコスト減の為、できるだけeメールにしてほしい」と言われ、DM会員からeメール会員へスイッチしてもらおうとしましたが、上手くいきませんでした。