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マーケが知らない「カスタマーサービス」の世界 攻めのサポート施策によるCX改善の最前線に迫る

 顧客体験の質が企業の業績を左右するなか、カスタマーサポートがマーケティングの新たな主戦場になりつつあることをご存知でしょうか。カスタマーサポートは顧客からのクレームに身構える「受け身」の組織ではなく、顧客体験を向上してCVを拡大しプロダクトの改善ヒントを獲得する「攻め」の部門に変身しつつあります。本記事では最新の動向をレポートするため、カスタマーサポートツールを提供するZendeskが主催し6月14日に六本木ヒルズにて開催されたセミナー「これからの優れた顧客コミュニケーションとは?/顧客コミュニケーションの『今』と『未来』」の様子をお伝えします。

カスタマーサービス部門はCX改善の最前線

 「カスタマーエクスペリエンス」あるいは「顧客体験」という言葉は、マーケターにとってこの1年で最も多く聞いたもののひとつではないだろうか。

 従来のマーケティングでは、企業と生活者の接点は限られていて、各接点で企業側がコミュニケーションの主導権を握っていた。時代は一変し、今の生活者は様々なデバイスを駆使し、自ら製品の情報を調べ、感じたことを発信するようになった。広告コミュニケーション以外の接点においても、最高の体験をしてもらうことがマーケターの目標になったのだ。

株式会社Zendesk 社長 藤本寛氏
株式会社Zendesk 社長 藤本寛氏

 顧客体験の最適化のために改めて脚光を浴びているのが、カスタマーサービス部門だ。カスタマーサービスというと自分とは関係のない部門だと感じるマーケターもいるかもしれないが、それは早計というもの。Zendeskの日本法人の社長を務める藤本寛氏によると、海外の先進的な企業においては、あらゆる顧客の生の声が集まり、柔軟な対応が求められるカスタマーサービスセンターは、マーケティングと非常に密接な関係を持つ部門だと考えられている。

 顧客によりよい体験をもたらすために、問い合わせチャネルは従来型の電話やメールから、チャット、LINEにまで拡大しつつある。チャネルが多様化するなか、顧客対応中にチャネルを切り替えても一貫性のある顧客体験を提供するニーズが高まり、ワンストップで複数チャネルの管理ができるサポートツールの導入が広がりつつある。

 Zendeskが提供するクラウド型プラットフォームは、世界的に活用が進んでいるカスタマーサービスツールの代表格だ。Zendeskは2007年にデンマークで創業されたのち、各国に先駆けて2013年に日本法人を設立した。後述するようにZendeskの創業者には日本文化に特別な思い入れがあり、日本市場への参画を優先した経緯がある。

 藤本氏は日本法人設立から現在までを振り返って、「今まではとにかく基盤づくりに注力してきました。製品サービスの日本語化を行いながら、パートナーとの連携強化を進め、初期ユーザーに支えていただき、おかげさまで1,000を超える企業に使っていただけるようになりました」と語る。

“禅”の精神を取り入れてツールを構築

 藤本氏によると、マーケティングにおいて顧客体験を重視するトレンドが強まるにつれて、導入企業数はもちろん、導入企業内でのツール使用者数も増えていったという。

 「生活者の変化に適応していくことは、導入企業だけでなく我々にとっても課題です。問い合わせのベースが電話からメールやチャットなどのデジタルチャネルへと移行するにともなって、トランザクション数は膨大になっているので、システムの改善と安定性の向上に日々努めているところです」(藤本氏)

 藤本氏からの紹介を受け、続いてZendeskのCEO、ミッケル・スヴェーン氏が登壇した。同社によると、“Zen”は日本の“禅”に由来しており、ツールのUIにおけるシンプルさや無駄のなさは「混沌としたカスタマーサポートの世界に禅のテイストを取り入れたい」との考えに基づくものだそうだ。スヴェーン氏は「日本の顧客を尊重する気持ちや精神は、世界の多くの国で学びになると思う」と語った。

Zendesk CEO ミッケル・スヴェーン氏
Zendesk CEO ミッケル・スヴェーン氏

 Zendeskはスヴェーン氏が2人の仲間と創業した会社だ。きっかけは「自分たちが満足できるカスタマーサービス向けのソフトウェアがなかった」ことだという。

 当時存在したカスタマーサポート向けのソフトウェアは、使いにくく、実装に時間もコストもかかる代物だった。特にスヴェーン氏が憤りを覚えたのは、ソフトが企業組織のために設計されており、肝心な顧客のエクスペリエンスが犠牲にされていたことだった。

オンラインへ移行した顧客に「三河屋のサブちゃん」は通用しない

 そこで3人はUIを磨き上げ、シンプルで直感的に操作できるZendeskを開発。高い拡張性を確保して、市場環境や顧客ニーズの変化に応じて進化していけるように仕立てた。スタートアップからエンタープライズまで、企業の成長に合わせて機能を拡張できるように工夫してあるのが特徴だ。

 スヴェーン氏はこの10年で顧客の行動自体が大きく変わってきたと語る。かつて日本には、サザエさんに出てくる三河屋のサブちゃんのように、得意先を一軒一軒訪ねて必要なものを聞いてくれる“御用聞き”がいたが過去の姿になった、とスヴェーン氏は切り出した。

 「今望まれているカスタマーサービスの形はサブちゃん流とは大分違います。まず、現代の顧客はモバイルデバイスを使いこなし、常にネットに接続しています。顧客体験の良し悪しは即座にSNSに投稿され、友人の購買行動を大きく左右します。さらに、2015年の日本全体の経済成長が1%なのに対し、ECの成長率は10%と、従来の小売りからECへ大幅なシフトが起きています」(スヴェーン氏)

 モバイルシフト、SNSの影響、そしてEC革命。スヴェーン氏はこの3点を挙げ、「生活者が急速にオンラインに移行している」と強調する。生活者はオンラインに移行しているのだから、企業に対するコンタクトの取り方、企業に対して抱く期待も変化していて当然だ。

 たとえば、今の生活者は自分たちが常にオンラインにいるのだから、ライブチャットの窓口は自分の使いたい時間帯に開いていて当然だと感じる。前回あるチャネルで問い合わせた内容は、次に別のチャネルで問い合わせるときには説明しなくても伝わるのが普通だと考えている。わざわざ面倒な電話をしなくても大体のことはネットで解決できるように、企業がWeb上で情報提供しているのが当然だと信じている。

カスタマーサービスに求められる3つのポイント

 では、企業はその変化に対応できているのかというと、スヴェーン氏は「ノー」だと答える。企業の対応の遅れは組織体制を見てもよくわかる。マーケティング、営業、カスタマーサービスといった部署がそれぞれサイロ化し、情報が共有されていない。

 また、資料請求システムやロイヤルティプログラムといったシステムやテクノロジーも、断絶していることが多い。さらに電話やメール、チャットなどのメッセージサービスといった各チャネルが相互に連携されていない。

 「すると、顧客の体験も分断されてしまいます。顧客の求めるものを理解し、それに対応して初めて、エンゲージメントを築くことができます。なので、まず企業側のニーズではなく顧客のニーズを中心に据える必要があるのです」(スヴェーン氏)

 その顧客のニーズを、スヴェーン氏は「素早い対応、透明性、自己解決」という3点にまとめる。

 「素早い対応」とは、生活者が企業に聞きたいことができたときに、使いたいチャネルが開いており、すぐにコミュニケーションできることだ。以前ならば営業時間帯に電話をかけて、複雑なメニューに従ってダイヤルを押して対応する必要があった。今ならば、チャットとメッセンジャーで常に対応可能になっている。

 次に、「透明性」とは、生活者がネットを介して、自分の依頼内容に対する企業の処理状況を詳細に追跡できることを指す。たとえば、ECサイトだとすれば、注文した商品の決済状況や出荷状況といった自分の手元に届くまでの進捗情報に簡単にアクセスできることが重要になる。

 最後に、「自己解決」とは生活者がわざわざ企業に問い合わせなくても、なるべく自力で課題を解決できるように情報提供の仕組みが整っていることだ。以前はアカウントの更新に電話が必須だったが、今はアプリ経由でアカウントを更新できるようになっている。「これら3つが柱となって、新たに顧客との関係を築いていくことができる」とスヴェーン氏は解説する。

ロイヤルティ醸成は事業成長のカギを握る

 一方で、スヴェーン氏は「これらは日本にとっては必ずしも新しいコンセプトではないと思います」と語る。「なぜなら、日本には“おもてなし”の心があるからです。顧客を中心に据え、顧客をなんとしてでも喜ばせたいという気持ち、これが大事です。ポイントは、対面でのコミュニケーションに限られるイメージがあるこの価値観を、オンラインにも採り入れていくことです」(スヴェーン氏)

 Zendeskのプラットフォームを活用し、顧客接点のオンライン化に対応している企業の一部では、問い合わせに回答するというベーシックな対応にあきたらず、拡大するサポート接点を通じて新しい顧客ニーズを理解し、生活者とより良い関係を構築する動きが見られる。

 たとえば、プロダクトに好意的な評価をしている顧客を見つけて、口コミで情報伝播するエヴァンジェリストの役割を担わせたり、口コミからロイヤルティが高まる要因を分析したり、といったことだ。

 特にスヴェーン氏は、ロイヤルティの重要性を指摘する。「顧客ロイヤルティはビジネスの成長と密接な関係にあります。たとえば、顧客ロイヤルティを増やすことで、退会率を15%から5%に下げられたとしましょう。このとき、売上は2年で120%にまで増加します。したがって、企業はこれまで以上に顧客に対して働きかけて信頼構築をする必要があるのです」(スヴェーン氏)

 整理すると、顧客が望んでいるのは「素早い対応」「透明性」「自己解決」を提供すること。そして、企業が望んでいる顧客の「信頼」を得て「ロイヤルティ」を高め「口コミによる情報伝播」を拡大することだ。「顧客の希望と企業の希望をマッチングさせる交差点の役割をZendeskは果たしていきます」と、スヴェーン氏は語り講演を結んだ。

「LINEカスタマーコネクト」の展開に期待

 スヴェーン氏の講演に続いて、今や日本人に欠かせないインフラとなったLINEから、戦略企画担当ディレクターの砂金信一郎氏が登壇した。

LINE株式会社 戦略企画担当ディレクター 砂金(いさご)信一郎氏
LINE株式会社 戦略企画担当ディレクター 砂金(いさご)信一郎氏

 LINEのビジネスへの活用は着々と進んでおり、現在公式アカウントは280超。LINEビジネスコネクトの導入社は140社強、町の商店や美容院といった小規模ビジネス向けのLINE@の開設数は25万を突破した。そんなLINEがこの4月にローンチしたのが「LINEカスタマーコネクト」だ。

 カスタマーサービス領域においては、LINEビジネスコネクトを利用する形で、既に複数の大手企業がLINEを窓口にした顧客サポートを行っている。しかし公式アカウントとLINEビジネスコネクトはLINEユーザーに広くリーチする広告媒体としての側面もあり、純粋に顧客サポート目的だけで利用するための費用としては高額であるというフィードバックがLINEに届いていた。

 そこで「LINEカスタマーコネクト」は機能をカスタマーサービス向けに絞ることでコストを抑え、事業会社におけるオペレーター不足やチャットサポートへのニーズの高まりに対応できるようにしたという。

 砂金氏によると、LINEカスタマーコネクトは次の4つのオプション機能で構成されている。

 まず、Auto Replyでテキストベースの問い合わせにAIが自動応答する。即座に対応してユーザーの待ち時間をなくすとともに質問の前さばきをする。次に、有人対応が必要だと判断されれば、Zendeskなどのツールと連携して有人チャットでのサポートにシームレスに移行できるManual Replay。画像やスタンプの送付も可能だ。

 3つ目に、必要な場合はチャットから無料のLINE電話に切り替えて対応できるLINE to Call。4つ目はその逆で、フリーダイヤルなど公衆網の電話からLINEでのテキストチャットに切り替えるCall to LINEである。

「カスタマーサービス」は「接客マーケティング」に進化する

 最後に、Zendeskを活用している企業の担当者によるパネルディスカッションが開催された。登壇したのは、クラウド会計・給与計算ソフトなどを提供しているfreeeの小川紀一郎氏、クラウドソーシングサービスを提供するランサーズの冨樫謙太郎氏、リクルートライフスタイルでPOSレジアプリの「Airレジ」を担当している遠田望氏で、Zendeskの藤本氏が司会を務めた。

左から、株式会社Zendesk 社長 藤本寛氏、freee株式会社 カスタマーサポートマネージャー 小川紀一郎氏、ランサーズ株式会社 カスタマーコミュニケーション マネージャー 冨樫謙太郎氏、株式会社リクルートライフスタイル ネットビジネス本部Air事業ユニット 遠田望氏
左から、株式会社Zendesk 社長 藤本寛氏
freee株式会社 カスタマーサポートマネージャー 小川紀一郎氏
ランサーズ株式会社 カスタマーコミュニケーション マネージャー 冨樫謙太郎氏
株式会社リクルートライフスタイル ネットビジネス本部Air事業ユニット 遠田望氏

 小川氏は、「SaaSは継続して利用していただくことが重要なので、カスタマーサクセスにつながる最高のサポートを提供することを大切にしています。特に重視している指標は顧客満足度です」と語る。ユーザーのセルフサービスによる課題解決をうながすZendeskのguide機能を活用して「ヘルプセンター」を構築しており、チャットや電話で複雑な手順を説明する必要が生じた際は「ヘルプセンター」へと誘導しているという。

 また、ネットプロモータースコア(NPS)を調べるアンケートで「サポートが低品質だ」という回答をしたユーザーには電話をして、どういうところに問題があったかをヒアリングし、サービスの改善につなげる活動もしているという。

 遠田氏は、マーケティング部門やセールス部門が連れてきた顧客のLTVを拡大することをカスタマーサポートチームのミッションにしていると語る。具体的な取り組みとしては、ユーザーに対し、どのようなチャネルでも一貫性を持ってコミュニケーションすることが最も大切だと考えており、各チャネルから寄せられる問い合わせは「チケット」としてZendesk上で管理しているという。

 冨樫氏は、カスタマーサポートをプロダクトとして捉え、サポートチームをプロダクト部に統合して「サポートの品質を高める」こと、「サポートに寄せられた声をプロダクトにフィードバックする」ことの二軸を重視していると語った。つまり、サポートとプロダクトの両軸からCXをあげるためにZendeskを活用しているわけだ。

 具体的には、カスタマージャーニーを描き、ランサーズ利用体験の重要ポイントと問い合わせカテゴリを統一。カテゴリ毎の問い合わせ件数と、サポート満足度を可視化して、どのポイントで多くの顧客が困っていて、サポートに問い合わせることでどの程度満足を得ているかを分析した。

 こうして得られた知見をもとに、「このポイントで現在は”A”という対応をしているが、”B”という対応にすれば満足度が向上し、取引進行のコンバージョンが向上するのでは?」といった具合に、ポイントを狙ってCXを向上させることができるようになったと語る。

 その中で新たに生まれたKPIが、「チャットによる売上」だ。顧客の疑問を解決してコンバージョンが増えたか、データベースを基にして確認している。こうした検証を通じて、チャットでどのようなトークを展開すればCVにつながりやすいかの知見も蓄積されつつあり、現在は体制を拡大中とのことだ。

 3社から共通して聞こえてきたのは、「プロアクティブ」という言葉。「プロアクティブ」とは「先を見越した、先回りした」を意味している。この言葉にも表れているように、3社とも「顧客の希望を前もって推測して、解決策を用意しておくことでCXを向上する」という狙いを持って、Zendeskを活用しているのだ。

 ターゲットや業態が異なる3社ではあるが、いずれも「カスタマーサービス」から「接客マーケティング」への転換を推し進めていることは注目に値する。日進月歩で発展していく「カスタマーサービス」を舞台としたマーケティングの動向から今後も目が離せない。

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この記事の著者

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2017/07/25 16:39 https://markezine.jp/article/detail/26705