カスタマーサービス部門はCX改善の最前線
「カスタマーエクスペリエンス」あるいは「顧客体験」という言葉は、マーケターにとってこの1年で最も多く聞いたもののひとつではないだろうか。
従来のマーケティングでは、企業と生活者の接点は限られていて、各接点で企業側がコミュニケーションの主導権を握っていた。時代は一変し、今の生活者は様々なデバイスを駆使し、自ら製品の情報を調べ、感じたことを発信するようになった。広告コミュニケーション以外の接点においても、最高の体験をしてもらうことがマーケターの目標になったのだ。
顧客体験の最適化のために改めて脚光を浴びているのが、カスタマーサービス部門だ。カスタマーサービスというと自分とは関係のない部門だと感じるマーケターもいるかもしれないが、それは早計というもの。Zendeskの日本法人の社長を務める藤本寛氏によると、海外の先進的な企業においては、あらゆる顧客の生の声が集まり、柔軟な対応が求められるカスタマーサービスセンターは、マーケティングと非常に密接な関係を持つ部門だと考えられている。
顧客によりよい体験をもたらすために、問い合わせチャネルは従来型の電話やメールから、チャット、LINEにまで拡大しつつある。チャネルが多様化するなか、顧客対応中にチャネルを切り替えても一貫性のある顧客体験を提供するニーズが高まり、ワンストップで複数チャネルの管理ができるサポートツールの導入が広がりつつある。
Zendeskが提供するクラウド型プラットフォームは、世界的に活用が進んでいるカスタマーサービスツールの代表格だ。Zendeskは2007年にデンマークで創業されたのち、各国に先駆けて2013年に日本法人を設立した。後述するようにZendeskの創業者には日本文化に特別な思い入れがあり、日本市場への参画を優先した経緯がある。
藤本氏は日本法人設立から現在までを振り返って、「今まではとにかく基盤づくりに注力してきました。製品サービスの日本語化を行いながら、パートナーとの連携強化を進め、初期ユーザーに支えていただき、おかげさまで1,000を超える企業に使っていただけるようになりました」と語る。
“禅”の精神を取り入れてツールを構築
藤本氏によると、マーケティングにおいて顧客体験を重視するトレンドが強まるにつれて、導入企業数はもちろん、導入企業内でのツール使用者数も増えていったという。
「生活者の変化に適応していくことは、導入企業だけでなく我々にとっても課題です。問い合わせのベースが電話からメールやチャットなどのデジタルチャネルへと移行するにともなって、トランザクション数は膨大になっているので、システムの改善と安定性の向上に日々努めているところです」(藤本氏)
藤本氏からの紹介を受け、続いてZendeskのCEO、ミッケル・スヴェーン氏が登壇した。同社によると、“Zen”は日本の“禅”に由来しており、ツールのUIにおけるシンプルさや無駄のなさは「混沌としたカスタマーサポートの世界に禅のテイストを取り入れたい」との考えに基づくものだそうだ。スヴェーン氏は「日本の顧客を尊重する気持ちや精神は、世界の多くの国で学びになると思う」と語った。
Zendeskはスヴェーン氏が2人の仲間と創業した会社だ。きっかけは「自分たちが満足できるカスタマーサービス向けのソフトウェアがなかった」ことだという。
当時存在したカスタマーサポート向けのソフトウェアは、使いにくく、実装に時間もコストもかかる代物だった。特にスヴェーン氏が憤りを覚えたのは、ソフトが企業組織のために設計されており、肝心な顧客のエクスペリエンスが犠牲にされていたことだった。
オンラインへ移行した顧客に「三河屋のサブちゃん」は通用しない
そこで3人はUIを磨き上げ、シンプルで直感的に操作できるZendeskを開発。高い拡張性を確保して、市場環境や顧客ニーズの変化に応じて進化していけるように仕立てた。スタートアップからエンタープライズまで、企業の成長に合わせて機能を拡張できるように工夫してあるのが特徴だ。
スヴェーン氏はこの10年で顧客の行動自体が大きく変わってきたと語る。かつて日本には、サザエさんに出てくる三河屋のサブちゃんのように、得意先を一軒一軒訪ねて必要なものを聞いてくれる“御用聞き”がいたが過去の姿になった、とスヴェーン氏は切り出した。
「今望まれているカスタマーサービスの形はサブちゃん流とは大分違います。まず、現代の顧客はモバイルデバイスを使いこなし、常にネットに接続しています。顧客体験の良し悪しは即座にSNSに投稿され、友人の購買行動を大きく左右します。さらに、2015年の日本全体の経済成長が1%なのに対し、ECの成長率は10%と、従来の小売りからECへ大幅なシフトが起きています」(スヴェーン氏)
モバイルシフト、SNSの影響、そしてEC革命。スヴェーン氏はこの3点を挙げ、「生活者が急速にオンラインに移行している」と強調する。生活者はオンラインに移行しているのだから、企業に対するコンタクトの取り方、企業に対して抱く期待も変化していて当然だ。
たとえば、今の生活者は自分たちが常にオンラインにいるのだから、ライブチャットの窓口は自分の使いたい時間帯に開いていて当然だと感じる。前回あるチャネルで問い合わせた内容は、次に別のチャネルで問い合わせるときには説明しなくても伝わるのが普通だと考えている。わざわざ面倒な電話をしなくても大体のことはネットで解決できるように、企業がWeb上で情報提供しているのが当然だと信じている。