ジャストシステムならではの定性調査とは
セルフ型の定量調査サービス「Fastask」の提供開始から5年、ジャストシステムが新たにセルフ型の定性調査サービス「Sprint」をリリースした。価格は、何回でも何人に対してもインタビュー可能な、使い放題のプランで月額198,000円(アンリミテッドプラン)。従来の定性調査と比較すると、破格の値段設定だ。「速く、小さく、正しく回し、意外な結果を得る」といったコンセプトで、消費者インサイトを把握するための定性調査を、より手軽なものにするという同サービスはどのような価値をもたらすのだろうか?
MarkeZine編集部:8月1日に「Sprint」をリリースされました。まず初めにリリース後の反響について教えてもらえますか?
石川氏:おかげさまで予想以上の反応を頂いております。
MZ編集部:それだけニーズがあったということですね。早速ですが「Sprint」を開発した経緯についてお聞かせください。
石川氏:定性調査というと、グループインタビューやデプスインタビューなどの手法を用いたサービスを、既に多くの企業が提供しています。ここで我々が同じようなサービスを始めてもしょうがない。だからジャストシステムだからこそ実現できる定性調査はなんだろう、とずっと考えてきました。
そこで重要視したのは“いかに定性調査を手軽なものにするか”ということです。これは5年前に提供した「Fastask」にも共通していますが、「Fastask」の“fast”は、いわゆるファストファッションやファストフードの“fast”です。
つまり、この”fast”は”高回転な”という意味でして、調査に当てはめると「どれだけ調査の実施頻度を高められるか」を意味します。このコンセプトで従来にはなかった定性調査のサービスを提供したい。こう考えて「Sprint」の開発を行いました。
“絶対に失敗できない調査”だと当たり障りのないものになってしまう
MZ編集部:定性調査のマーケットをどのように捉えていらっしゃいましたか?
石川氏:現在の定性調査は、グループインタビューやデプスインタビューといった大がかりな手法が中心です。MROCや掲示板型のインタビューサービスも登場していますが、コンテンツを集めるのに留まるなど、うまく機能していません。そういった状況の中で、なぜもっと手軽にできる定性調査のサービスがないのだろうか、と考えていました。
現在のインタビュー手法は、調査の準備からデータの納品までにかかる時間とコスト面において、とても敷居が高いものになります。定性調査のご経験がある方は心当たりがあると思いますが、定性調査を実施する場合、企画や打ち合わせなどの準備から調査本番、データの納品などすべてが終わるまでに、約2ヵ月かかるのが一般的です。これではビジネスのスピードについていけません。
加えて、それなりの予算を使って調査を実施するのですから、担当者としては絶対に失敗できませんよね。絶対に失敗できないという枠組みの中での調査になってしまうと、調査自体が目的になってしまって、当たり障りのない調査しかできないという点も、大きな課題だと思います。
MZ編集部:なるほど。実態としては期待通りの成果にはつながっていないのですね。
石川氏:そうですね。定性調査を行うと、予算や準備の規模からイベント事になるので、達成感はあるんです。ただ、「そういうことなのか!」という想定もしていなかったインサイトが得られたというケースはむしろ少ないんじゃないでしょうか。実際は既知のことだったり想定内のことを「やっぱりそうだよね……」となぞる結果になってしまう調査が多いのが現実だと思います。
それなりのコストをかけても得られるものが少ないとなると、調査を運用する回数も当然限られてしまいます。その結果、企業側のインタビュースキルもなかなか向上しないのが現状です。だからインタビュー形式のサービスであっても、使い放題にしたかったんです。
5分で最適なモニタを探し出すとは……? 実際にやってみよう!
MZ編集部:ここまで課題を伺ってきましたが、この課題に対する解決策として「Sprint」が誕生したわけですね。では次に「Sprint」のサービス内容について具体的な概要を教えてください。
石川氏:「Sprint」は、スマートフォンを利用した1対1のテキストチャットによるインタビューを手軽に実施できる定性調査のサービスです。スマートフォンのプッシュ通知で、モニタへ募集をかけて5分で最適なモニタを探し出します。実際にモニタの絞り込みまでをやってみますか?
MZ編集部:おもしろそうですね! ぜひお願いします。
石川氏:じゃあ最適なモニタを探し出すところまで、やってみましょう!
「Sprint」は、Webサービスなので、クラウド上からログインして利用します。最初にライブスクリーニングといって、インタビュー対象となるペルソナ・モニタを抽出するオーディションを行います。オーディション用の設問分(140文字以内)を作成したら、性別や年齢、職業、子供の有無などの属性を絞り込みます。
属性を絞り込んだら、いよいよオーディションの実施です。まず、先ほど作成したオーディション用の説明文を配信します。オーディションの制限時間は5分なので、モニタも調査主も、ここからちょっと忙しくなりますよ。配信すると、モニタにはプッシュ通知が届きます。インタビューに応じられるモニタから、オーディション用の質問に対する回答が集まってくるはずです。
MZ編集部:すごいですね! エントリーするモニタから続々と回答が集まってきます!
石川氏:オーディションの回答の中に気になるものがあれば、その回答の該当モニタについて、より詳細な情報がわかる仕組みになっています。たとえば、ソーシャルスタイルや、属性情報、過去にインタビューを行った企業による評価などを見ることができます。
バイアスがかからないテキストベースのインタビュー
MZ編集部:ところで、そもそもなぜスマートフォンを使うのに映像や音声ではなくテキストチャットにしたのですか?
石川氏:当然スマホを利用するなら、映像で映しながらインタビューをするだろうと思われがちです。しかしながら「Sprint」では3つの大きな理由から、あえてテキストチャットにこだわっているんです。
1つ目は、対面してしまうと映像であったとしても、必ずバイアスがかかってしまうこと。モニタがインタビューに構えてしまうので、本音を吐きだしにくいんですよね。テキストチャットなら、モニタがパジャマでビール片手にふんぞり返っている状態でもできますし、本音が引き出しやすいかと。
2つ目に、知らない人と「初めまして」の状況で面と向かうのは、どうしても抵抗感があります。インタビュー調査のリクルーティングが難しいのもこれが理由。テキストチャットにしたことで「それなら参加できる!」という消費者が圧倒的に増えるのです。会場に出向かせてインタビューを実施することが困難なコンプレックス商材や、地方のモニタを対象にすることも可能になりました。
そして3つ目は、「進行」と「観察・分析」の両立を可能にするためです。対面するインタビューでは、この2つを同時に行うことは困難です。だから企業はプロのモデレーターを登用しています。一方でモデレーターは、当事者ではないので、どんなに打ち合わせをしても深掘りしたいポイントを完全に共有することはできません。
MZ編集部:確かに対面のインタビューには、そういったデメリットも考えられますね。
石川氏:ですが、非対面かつテキストチャットを取り入れることで、インタビューに程よい“間”が生まれます。これにより、インタビューの進行と発言の分析を両立できるため、直接当事者によるインタビューが可能になります。また、モニタが入力途中のテキストも観察対象とする特殊な技術により、書いたけど消した内容や、書き直し方などの過程からインサイトに肉迫することが可能です。
そして、映像も音声もやり取りしていないテキストだからこそ、まさに今の状態のように「Sprint」を使うとその場が盛り上がるんです。ここをもう少し掘り下げてみたい、などと気兼ねなく議論しながら調査を行える点もこのサービスの特長ですね。企画会議を行いながら「Sprint」でインタビューを同時に実施するなんていうお客様もけっこういらっしゃいます。複数メンバーで相談しながら進められるため、インタビュースキルについても心配不要なんです。
MZ編集部:これは確かにディスカッションも盛り上がります! ここから選抜したモニタに、実際にインタビューを進めていくんですね。
石川氏:そうです。インタビュールームでは、AIのチャットボットが司会をしてくれます。第三者が入るほうがスムーズにインタビューが進行するんですよ。
MZ編集部:なるほど。インタビューはプロのモデレーターが行う場合がほとんどだと思いますが、「Sprint」であればインタビュー経験のない企業の方でもできそうですね。
石川氏:おっしゃる通りです。経験のない方でも自ら調査できるように、あらかじめインタビューの構成案を用意してインタビュールームのサイド画面に表示させておく機能があります。
また、「魔法の質問」という機能があって、プロのモデレーターが実際に使っているテクニックをテンプレートとしてまとめたコンテンツも用意しています。「なぜ?」と深掘りしたいときは、こういう聞き方をしたら相手から聞きたい内容が引き出しやすいですよ、などといったインタビューで困った時のヒントになります。
モニタと対面する調査はもちろん今後も必要となると思います。ですが使い放題の「Sprint」を使って、5分で最適なモニタと出会い30分で結果を得るといった運用の繰り返しが、インタビューの腕前を上達させ、対象事業に新たな、有効な打ち手を導き出すことを可能にするはずです。
ビッグデータの時代だからこそ、相関関係ではなく因果関係が重要に
MZ編集部:今後の目標をお聞かせください。
石川氏:相関関係と因果関係の違いをしっかり理解していただき、定性的なアプローチを有効に使っていただけるよう、「Sprint」の有効性を伝えていきたいです。企業は定量的なビッグデータを好む傾向がありますが、いくらデータを分析しても、期待に反して本質的なことがわからない、という状況に陥っている担当者も多いのではないでしょうか。
これはビッグデータのみでは、膨大な情報量があっても利用文脈に関する情報は薄く、状況や理由、目的についてはあくまで推測にならざるを得ないからだと考えています。つまりリアリティのある情報が少ないのです。
「Sprint」の強みは、サンプル数は少なくても、ユーザーの状況・理由・目的にまつわる文脈と濃い属性データをダイレクトに提供できることです。
まずは、リリースしたサービスをしっかり定着させることが第一ですが、因果関係を把握するには、顧客の「片付けるべき用事」を解く必要があるということを利用者には知ってもらいたいと思います。この顧客の「片付けるべき用事」を知るためには、文脈、つまり顧客の「ストーリー」を理解する必要があります。
「Sprint」を使ったインタビューは、この「ストーリー」を手軽に得ることができます。是非「Sprint」を、新たな、あるいは有効な打ち手を導き出す手がかりを得るためのプラットフォームとして発展させていけたらと思います。