2000年に設立されたシャノンは、今年1月に東証マザーズに上場。「Marketing is Science」というメッセージの下、テクノロジーの力で企業のマーケティングを支援している。
同社は11月14日に「成長するマーケティング」と題したカンファレンスを開催。基調講演ではトライオンの三木雄信氏による講演も行われた。
5年で市場が2.5倍に成長!BtoNマーケットへの取り組み
基調講演のはじめに登壇したシャノン 代表取締役 社長の中村健一郎氏は、新しい取り組みとして「シャノン ソーシャルサポート プログラム」を発表した。これは、近年マーケットが拡大している「Business to Nonprofit(以下、BtoN)」に注目したもの。医療や貧困問題、教育、環境問題など様々な社会問題の解決へ向けて動くNPOをサポートする取り組みで、同社はマーケティングオートメーション(以下、MA)を特別なライセンスで提供している。中村氏は「シャノンも社会の一員として、NPOを支援したい」と同プログラムへの想いを語った。
とはいえ、NPOの活動がどのようにマーケティングと関係しているのだろうか? 具体的な取り組みが2つのNPO団体より説明された。
まず、BtoNマーケットの拡大について語ったのは、NPOサポートセンター事業局長の小堀悠氏。同団体は、NPOやソーシャルビジネス事業の支援を提供している。小堀氏によると、NPOの市場規模は現在約2.5兆円。ここ5年間で2.5倍も成長しているという。
「我々の活動におけるマーケティングは、まず世の中に存在する問題を認識してもらうこと、そしてそれらの問題に対して、寄付やボランティアなど様々な関わり方があることを知ってもらう目的があります。企業の皆さんにも、事業としてNPOと取り組めることがあることを知っていただきたい。こういった点から、NPOにもマーケティング活動は必要なのです」(小堀氏)
NPO法人Living in Peace、かつシャノンの社員でもある小田切 貴大氏も「NPOの活動にマーケティングは不可欠」だと語る。Living in Peaceは、児童養護施設の建て替え資金を支援する団体。その資金は寄付金で賄っており、寄付を募る活動をしている。
「寄付された方の行動遷移を解析すると、私たちの活動を知りすぐに寄付してくださる場合と、活動の様子をじっくり見て十分な理解をした上で寄付をされるパターンの2つに分かれていることがわかります。なのでそれぞれに適切な方法で情報をお届けする必要があり、そのためにMAを使ってコミュニケーションチャネルの最適化を図っています」(小田切氏)
デジタルとアナログの融合やAIへの投資
また、同社の主力製品であるMA「SHANON MARKETING PLATFORM」のアップデートも発表された。イベントやDMといったアナログなマーケティング手法が見直され、デジタル施策と統合させる取り組みが広がりつつある状況を受けて、デジタルとアナログを統合できるシナリオ機能を発表した。
中村氏は続けて、同社が今後注力していく分野にも言及。ベンチャー企業としてスタートし成長してきた自社のこれまでを振り返ったうえで、スタートアップ向けの支援「テックスタートプログラム」について説明した。そして、「期待されているAI分野にも投資を進めています。今後も皆さまの成長に貢献できるテクノロジーを提供し、ともに歩んでいきたい」と抱負を語り、基調講演の前半をまとめた。
営業ノルマが達成できない営業マンの劇的ビフォーアフター
後半には、ゲストスピーカーとしてトライオン 代表取締役 社長の三木雄信氏が登壇。ソフトバンクの孫正義氏のもとで長年活躍してきた三木氏は、今年2月に著書『孫社長のむちゃぶりをすべて解決してきたすごいPDCA』を執筆し、ソフトバンクの成功法則を誰もが実践できるフォーマットとしてまとめた。
PDCAは、マーケティングに欠かせないタスクである一方、実践するとなるとなかなか難しい。三木氏は「すごいPDCAと数値化」と題して、自身の経験から得たPDCAのノウハウを解説した。
そもそもソフトバンクは、必ずしも順調に成長し続けてきたわけではない。2000年代初期のネットバブル崩壊後の苦しい時代を乗り越え、大手企業へと成長しており、三木氏はその紆余曲折を孫氏と共に経験してきた。そんな三木氏は、孫氏の考え方について次のように語る。
「ソフトバンクで学んだことは、とても本質的かつシンプルで大きく分けると、“ゴール志向であること”“数値にこだわること”“PDCAを回すこと”の3つです。普通の事だからこそ、英語学習でも営業でもマーケティングでも、あらゆる局面に適用できます」(三木氏)
この3つの重要性を示すため、三木氏はとあるエピソードを紹介した。
通信機器メーカーの法人営業を担当するビジネスマン。彼は、毎月月末になると営業成績が達成できず、頭を抱えていた。毎日アポ取りのための電話をかけているのに成果には現れず、どうしたら良いかわからない……。
同様の悩みを持つ人も多いと思われるが、三木氏のアドバイスを受けて、彼は半年後にチームで営業成績2位の結果を出すことに成功する。三木氏は一体どのようなアドバイスをしたのだろうか。
「何がネックとなっているのかを探ってみると、彼の場合、肝心の担当者と話すことができていないことがわかりました。そこで毎日3人と5分話すという目標を立て、その目標数値に対して毎日勝ち負けをつけました。数値目標を達成できないのであれば、リストの選び方や架電時間を考えて改善を繰り返した。
彼は、実際に半年で成果へ結びつけることができました。しかしこれも、先ほどお話しした“ゴール志向であること・数値にこだわること・PDCAを回すこと”の3つを実際にやってみただけなのです」(三木氏)
数字は与えられるものではなく、取りに行くもの
続けて三木氏は、ソフトバンクの成功法則をより詳しく解説していく。
最初は「ゴール志向であること」について。三木氏はゴールを立てるとその達成のために何をする必要があるかが明確になることから、その重要性を説明した。
次に「数値化」。これについて三木氏は「数字は与えられるもではなく、自分で取りに行くもの」だと主張した。上から指示されたデータを集める、代理店から出されたデータのみを扱うのではなく、「この数字は何を意味し、また本当に必要な数字はなんなのかと自分ごととして考えることが大切です」と話した。攻めの姿勢で数字と向き合うことが重要なポイントである。
「特にマーケティング業界は、アドテクやツールがどんどん導入されるので、数字がバラバラで統合的に管理されていないという状況に陥りがちです。数字やデータを一貫して管理することは非常に重要ですよ」(三木氏)
さらに、数値は結果論としてではなく、ビジネスの方向性や速度を示すために「どうするか」というプロセスや指標として使われるべきだと主張した。
数値は業務を細かく分解してから設定する
とはいえ、「数値化」とは具体的に何をどのような方法で行うのか。三木氏は、数値化の最も重要なポイントを「業務を細かくプロセスに分けること」だと話し、その具体的な方法を説明した。
まず、業務をプロセスで区切る境界線について、三木氏は3つの基準を挙げた。1つ目は、担当の責任者が変わる“責任分界点”。2つ目に“場所”が変化する点、3つ目に“日次・週次”の時系列ベースで分ける点だ。この3つの基準を参考に、業務のプロセスを分解する。
そして次のステップでは、分解した一つひとつのプロセスにおけるインプットとアウトプットを定義する。これにより、各プロセスの目標を設定し品質管理をしっかり行うことができるのだ。
PlanよりDoが大事! PDCAの大きな勘違い
セッションの終盤、最大のテーマである「すごいPDCA」を説明する前に、三木氏はPDCAに関して大きな勘違いをしている人が多いことに言及した。
「一般的なPDCAは、Planに重点を置きすぎています。Planはあくまで仮説であり、Do以降に労力の8割を集中させるべきです。多くのDoを同時に動かし、Check・Actionで成果を振り返りながら修正していく。この流れを私はすごいPDCAと提唱しています」(三木氏)
この点を踏まえたうえで、三木氏によるすごいPDCAの一連の流れを説明すると以下のようになる。
Plan:初めに、全体の目標を設定。その後、各プロセスにおける目標を立て、そこから逆算し日次で実行するべきことを決める。そして目標達成時に有効な方法を、できるだけ多くリストアップする。
Do:期間を定めて多くの施策を同時に動かす。複数の施策結果を並行して出すことで、季節や外部要因などの影響を図ることができる。
Check:毎日、目標と結果を振り返る。日々数字を見ておけば、月末にはどのくらいの達成度になるかを把握することができる。また目標達成が危うい場合は、どのタイミングで施策のアシストをするべきかが読めてくる。
Action:検証をもとに、毎日改善を行う。同時に複数の施策を動かしているため、おのずと優れた方法が明確になってくる。
最後に三木氏は、日々業務に追われているマーケターに向けて「一番大事なのは、新しいチャレンジをすること。同じことばかり続けていると、選択肢の幅が狭くなり、苦しくなってしまう」と語り、すごいPDCAをベースに自らチャレンジしていくことを提案した。
特にマーケティング業界は挑戦しがいのある分野だとし、「ぜひワクワクするマーケティングを実践して欲しい」とマーケターへのエールで講演を締めくくった。