予算が増えてもBtoBマーケティングが機能しない理由
いま、企業のマーケティング投資は増え続けている。少し古いデータになるが、米ガートナーが2016年12月に発表した調査「Gartner CMO Spend Survey 2016-2017 Shows Marketing Budgets Continue to Climb」によると、米国・英国企業のマーケティング予算は増加の一途をたどり、2016から2017年においては3年連続で予算増が見込まれたという。予算が増えるということは、それだけ企業がマーケティング活動に期待していると考えられる。
ところが、特にBtoB分野においては、マーケティング部門の位置付けや役割が不明確な企業も少なくない。具体的なミッションがあいまいなまま「昨年よりも多くのリードを獲得する!」と、勢いで走り出すケースも散見される。
営業部門のマンパワーで売上が伸ばせるうちはいいが、新規開拓が思うように進まなかったり、有能な営業担当者一人に依存していたりすると、せっかくのマーケティング予算もすべて無駄になってしまう。
そもそもBtoBにおけるマーケティング部門の役割とは何か。
マーケットワン・ジャパン マネージングディレクター 山田理英子氏は「マーケティングは『売上を創出するエンジン』であり、マーケティング部門は『売上に直接貢献するための組織』と位置付けられます」と説明する。
「かつてマンパワー頼みの営業スタイルが機能していたころは、マーケティングは営業の補佐的な役割を担い、市場調査から営業資料作りまで担当するサポート役でした。しかし、マンパワー頼みの営業スタイルが通用しなくなった現在、マーケティング部門の位置付けに変革が必要なのです」(山田氏)
なぜ、「足で稼ぐ」という人ありきの営業スタイルは廃れたのか。山田氏は次の3つの要因を挙げる。
第一に、営業のやり方が属人的なので拡張できず、市場の拡大やグローバル化に対応できないこと。第二に、人依存のスタイルが主流になると、BtoBのようにスパンの長い営業活動の場合、商談を妨げるボトルネックが見えなくなり、非効率になってしまうこと。そして最後に、少子高齢化が進み、働き方のスタイルも変わる中、「できる営業担当者を増やす」という解決策がそもそも成り立たなくなっているためだ。
「そもそも、マーケティング発祥の地であるアメリカでも国内市場の飽和による新規市場の開拓の必要性や、営業人員当たりの売上高の増加の必要性から『マーケティング』という概念が生まれたという背景があるのです」(山田氏)
ちなみに海外企業の場合、終身雇用が少なく人が常に移り変わっていくため、属人的な営業スタイルが成立しにくい。そのため、「売上を創出する仕組み作り」が主流となり、この「仕組み作り」を「マーケティング」と位置付けているという。
「日本企業も従来の既存市場、既存顧客からの売り上げを最大化することを目的とした営業マン重視の活動から、新規市場の開拓、新規取引企業、部門を開拓するための営業・マーケティングのやり方を見直す時期に来ていますし、ほとんどの企業はこの事実に気づいています」と山田氏はいう。
どうしたら「案件を生み出す仕組み」を構築できるのか
案件を創出するには、当然ながら何らかのきっかけが必要になる。具体的には、イベントや展示会、セミナーの開催、あるいは宣伝広告などを通じ、自社製品やサービスに興味を持ってくれそうな担当者にリーチしなくてはならない。
現在、BtoBマーケティング部門のほとんどは、この案件創出のきっかけ作りをミッションとしているはずだ。予算が増えれば、参加・開催する展示会の数も増え、その結果、営業部門に渡す見込み顧客(リード)の名刺もより多く集めることができる。
だが、リードを多く集めたからといって、すぐに売上増につながるわけではない。よくいわれる「リードの質の問題」はもちろん、「リードを渡してあとは営業部門任せ」では、何の仕組みにもならないからだ。
通常営業部門は、マーケティングから預かった名刺をもとにアポを取り、話を聞き、ニーズの成熟度や案件化の可能性を探る。見込みがありそうであれば、長期間にわたって関係性を築き、商談化まで進めようとする。山田氏は、「このやり方がすでに属人的なのです」と指摘する。
「以前は、営業プロセスのほぼすべてを営業部門が担当し、それに紐づく成果や進捗、お客さまの情報は、基本的に担当営業マン個人のものとされていました。
一気通貫ではあるものの、期間の長い販売プロセスや情報がブラックボックス化すること、そのプロセスのいろいろな場面で必要とされる能力を幅広く持たなければいけない͡こと、そして属人化することによってベストプラクティスが展開できないこと。これらの弊害を脱却するための手段として、CRMや名刺管理ツールの導入が、過去10年ほどで急速に進んでいます。
次のステップとして、「マーケティング部門と営業部門間で連動した営業活動」の仕組み化が求められています。仕組みとして回すのであれば、案件創出のきっかけを作るマーケティング部門と、売上をクロージングする営業部門の意思疎通や目的が“近く”なければなりません。
ところが多くの場合、プロセスが分断されていて、マーケティング部門と営業部門の目的もゴールも共有されていないという状況です。海外では、マーケティング=モノを売る仕組みと捉え、この仕組みのもとに『マーケティング部門』と『営業部門』が並列で動くような体制を作っているところが多いのです」(山田氏)
山田氏によると、マーケティングに強い海外BtoB企業の場合、マーケティング部門は「渡したリードの数」ではなく「案件創出の貢献度」で成果を測られるケースがほとんどだという。具体的な指標としては、案件金額であったり、あるいはその先の売上目標の達成度であったりと、種類はさまざまだ。
これに対し、従来の国内BtoB企業の場合、集めた名刺の数や参加したイベントの数など、「活動数」を基準に成果を測るケースがまだ多い。
その理由は「ずばり、営業経験のあるマーケティング担当者が少なく、具体的な『売り』のイメージやその根拠となる体験が限定的なためです」と山田氏は明かす。そのため活動成果と売上金額を結びつけることができず、誰にでもわかりやすい(であろう)「活動した数」で成果を判断してしまうのだ。
「認知啓蒙や興味喚起にとどまらず、購買動機をつくり、有望な見込み案件を特定するためには、お客様に買っていただくまでのステップや障壁(つまり『売りのイメージ』)を深く理解する必要があるのです」(山田氏)
一方、営業側も「マーケティング部門に何を期待するか」が明確になっていないことも多い。その一例が、マーケティング部門から渡されるリードに対する評価だ。「リードの質が悪い、すぐ売れるリードを渡してくれないか」という営業サイドの不満はよくあるが、「営業側で考える『いいリード』の定義もはっきりせず、営業部門内で意見がバラバラなことがあるのです」と山田氏はいう。
「そして、『いいリード』を出すためにどのような手段が有効なのかを、営業部門がマーケティング部門に教えることができるかというと、そうではありません。なぜなら、「非対面」で、かつ「属人化しない方法で」「持続性に」リードを育てていた営業部門はほとんど存在しないからです。つまり、営業がわかるマーケティングがすくないことと同じように、マーケティングがわかる営業が少ないことも、両部門の連携が難しいことの要因のひとつと言えるでしょう」(山田氏)