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ABMは「数」でなく「率」を追え!盲点になりがちな「ターゲティング」「カバレッジ」のチェックポイント

2018/07/31 09:00

 とあるBtoB企業のマーケティング部門では7000件のコンタクトを持っており、ターゲット企業を3000社、狙うべき対象を財務部門の責任者と定めていた。十分なコンタクトを保持しているかのように見えるが、内実を精査したところ、ターゲットとする企業・部門の条件を満たすコンタクトは400社分しかないことが判明。残りの2600社に対しては接点がないため、いわば「戦わずして負けて」いた――。このような、本当にターゲットとする企業に対するコンタクト不足に悩むBtoB企業のためのメソッドこそがABMにほかならない。本記事では、ABMを実践していくためのフレームワークの内容とプロセスの進め方について、マーケットワン・ジャパンの山田氏に話を聞いた。

・連載「MA・SFAはBtoBマーケの「部品」にすぎない。日本のマーケと営業が「気合」を卒業するために必要なこと」記事一覧ページはこちら
・第一回「CMOは営業職のキャリアパス?BtoB企業のマーケ部門が「マーケティング」を強化するために」はこちら

ABMの第一歩は「ターゲティング」と「カバレッジ」

――ABMと従来のマーケティングはどんな違いがありますか。

 BtoB企業の場合、ターゲット企業の一人が製品を購入したいと考えたとしても、その人だけの判断で購買に至ることはまずありません。ですから、同じターゲット企業でも複数のコンタクトを得ることが必要になります。

 同時に、コンタクトの全体総数がどのぐらいで、ターゲットとする企業のうち何割何分を網羅できているかを示す網羅率を高めなくてはなりません。名詞の数といった「数量」ではなく、「率」を重視するので、マーケターにとっては考え方の転換を迫られるかもしれません。

マーケットワン・ジャパン マネージングディレクター 山田理英子氏
マーケットワン・ジャパン マネージングディレクター 山田理英子氏

 さらに、これまでが購買プロセスが進んだ「上澄み」だけを取る発想だったとすれば、これからは待っていてもマーケティングファネルを浮上してこない「沈殿」状態のターゲットをどう浮き上がらせるかという視点が重要になります。ターゲットと決めた相手とのコミュニケーションを継続しながら、チャンスを広げるコミュニケーションが求められます。

――チャンスを広げるコミュニケーションとはどんなものですか。

 メールでも何でも、コミュニケーションチャネルは今までと同じです。ただし、反応してくれる人より、むしろ反応しない人に焦点を当てる必要があります。

 反応しないとすると、人、提案内容、コミュニケーションチャネル、タイミングが適切ではないわけですから、そのどれなのかを徹底的に確かめるのです。ターゲット企業が抱える悩みや、どの部門の誰が検討しそうなのか、検討のトリガーになるビジネスイベントがいつ来るかを、コミュニケーションを通じて発見することが案件創出につながります。

――具体的にどんな進め方をしていけばいいのでしょうか。ABM導入で役立つフレームワークをご紹介ください。

 マーケットワンでは「ターゲティング」「カバレッジ」「ステータス」「フリークエンシー」の四つのステップで構成するフレームワークを用意しています(下図)。

ABM基本フレームワーク 出典:マーケットワン・ジャパン
ABM基本フレームワーク(出典:マーケットワン・ジャパン)

 最初は「ターゲティング」「カバレッジ」から進めていきます。このフレームワークを基にお客様のBtoBマーケティング状況に対する「ヘルスチェック」をすると、実はほとんどの企業が最初の二つのステップでつまずきます。

 プロセスとして、一見、地味すぎるからかもしれません。「マーケティング強化」の前提として、ターゲット像を明確に特定していて、「いつ、誰に、何を届けるべきか」がわかっている必要があります。それが曖昧なまま、コミュニケーション量を増やすことやコンテンツへの投資を行う企業があまりにも多いのです。

明確にするのはターゲット企業とターゲットペルソナ

――ターゲティングのフェーズでは何をする必要がありますか。

 ターゲティングにおいては、攻めるべき企業群のリストを作ることが求められます。自社の製品・サービスを販売する際、どんな企業を重視するか。労力をかけて、引き込むべきキーパーソンはどんな人物像かを明らかにします。社内リソースの配分に関わりますので、経営層の強い関与が必要なプロセスとなります。

 なお、実際にその企業と営業が接点を持てているかは後のフェーズで考えればいいので、「自分たちが狩り場とすべき森(ターゲット企業)が本来どこにあって、その森にはどんな生き物(ターゲットペルソナ)がいるか」を網羅的に把握することに専念しましょう。

 ターゲット企業のリスト作成方法は百社百様です。外資系企業では海外の本社から指定される場合もありますし、自由に決められる場合は東京商工リサーチさんのような分析サービスを使うのも手です。特定の業種だけに需要がある製品・サービスの場合もありますし、その逆で幅広く需要がある場合もあります。どの企業にも当てはまる汎用的なやり方があるわけではありませんが、まずは始めてください。

――ターゲティングの次のフェーズはカバレッジですね。

 ターゲティングの次に考えるのが、「ターゲット企業と、その中のキーパーソンを網羅できているか」を把握する「カバレッジ」です。

 500社のターゲットリストを作成できたとしましょう。その中に「既に取引がある企業」、「以前失注した企業」、「ツテすらもない企業」がそれぞれどの程度含まれるのかを調べましょう。

 次に、「購入に関わる人の属性」を定義します。商品に対して「最初に興味を持つ人」と「決済権を持つ人」は違うことが多いため、キーパーソンの所属部門や属性といった情報から成る「ターゲットペルソナ」を把握しておくことが大事なのです。

 その上で、ターゲット企業にひもづくコンタクトリストが、定義した「購入に関わる人の属性」に合致している人をどれだけ網羅できているかを調べなくてはなりません。調べた結果、網羅率が低いとしたら、適切なコンタクトをさらに獲得する必要があるというわけです。

鍵をにぎる「ニーズの成熟」を把握できているか?

――後半の二つである、「ステータス」「フリークエンシー」のフェーズではどんなことをするのでしょうか。

 三番目のフェーズ「ステータス」では、変わり続けるターゲット顧客の「状態」を把握していきます。

 これまでツテがなかったターゲット企業との接点ができたとしても、すぐに興味を持ってもらえるわけではありません。それに、BtoCとは違い、BtoBでは「興味」(interest)だけでは購買に至りません。

 BtoBの購買行動では、必ず「購買のトリガーとなる状況や理由」があり、そこに「興味」が付加されることで、具体的な検討が始まります。この「購買のトリガーとなる状況や理由」が起こっているかを把握するのが「ステータス」フェーズなのです。

 「ターゲティング」「カバレッジ」のフェーズがちゃんとできていても、「ステータス」フェーズの取り組みがおろそかになっていればうまくいきません。たとえば、「とあるターゲット起業の役職が高いコンタクト」を抑えていたとしても、その企業に商品導入のトリガーとなる状況や理由がなければ、有望コンタクトとはいえません。その役職者は時間に余裕があるからいろいろなセミナーに出ていて、たまたまコンタクトとなっているだけかもしれません。

 BtoBマーケターが認識しておくべきことは、「興味」が商品導入のトリガーを作ることはないということです。興味があることは、トリガーが生じていることの暗示(必要条件)にはなりますが、確証(十分条件)ではないのです。

 トリガーがないとカスタマージャーニーを進めることができないわけですから、トリガーができるのを待つか、それとも能動的に作りにいくかのいずれかが必要です。興味ではなく、トリガー、すなわち「ニーズが成熟しているか」を把握することが「ステータス」フェーズでは重要になります。

 最後のフリークエンシーは、ターゲット顧客との距離を縮めていくフェーズです。基本的には、ニーズの成熟を見逃さず、適切な情報を適切なタイミングで提供することが大切です。

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