「アポが取れるリード」が適切でない理由
一般に「質のいいリード」といえば、多くは次のようなリードを思い浮かべるだろう。
- 役職のある人のリード
- ニーズが成熟している人のリード
- アポが取れるリード
こうしたリードを渡せば、営業部門は満足するのだろうか。残念ながら、その答えは「ノー」だ。
まず営業先として、決裁権を持つキーマンにアプローチすることは鉄則だが、役職があるからといって決裁権を持つとは限らない。仮に「課長」という役職名は同じでも、業界や企業によって与えられる権限はまちまちだ。
またニーズが成熟していたとしても、たとえば納期に時間がかかる商材の場合、相手の要求に応えられないケースも出てくる。先方の予算額が非常に小さく、利益につながりにくい案件という可能性もある。
また、すぐにアポが取れるからといって、それが案件に直結するとは限らない。「そもそも、案件につなげるために会うのであって、『会う』ことが目的になることが間違いなのです」と山田氏はいう。
案件につながらないアポに営業部門が費やすコストを考えたことがあるだろうか。たとえば、商談前の準備に1時間、相手先企業まで往復する時間を1時間、商談を1時間、報告書を書く工数を1時間とすれば、それだけで半日近くは消費してしまう。

このように、お互いが考える「いいリード」の定義がまちまちなため、マーケティング部門はどうしてもBANT(Budget:予算、Authority:決裁権、Needs:ニーズの成熟度、Timeframe:導入時期)という条件ありきでリードを評価しようとする。
時には、「営業が喜んでくれるだろう」ということで、アポ取りしやすそうなリードを積極的に渡そうとする。山田氏はこれに対し、「営業マンを喜ばせることがマーケティングの目標ではありません。売上を作るリードを渡すといったように、考え方を根本から変えるべきです」と指摘する。
マーケティング部門と営業部門が、少なくとも目的意識を共有するには、まず「いいリード(案件化の可能性が高いリード)とは何か」という質について話し合うことが重要だ。売上を増大させていくには、質だけでなく量も必要だが、まず質の方から共通認識を持っていないと、不要なリードだけが大量に排出されたり、創出したリードの価値が社内で認識されないことになってしまう。
売れる仕組み作りの第一歩として、マーケティング部門と営業部門の間で、「いいリード」の定義を明確にしておくことは非常に有効だという。
ベストプラクティスとして名前が挙がる事の多い某外資系IT企業では、マーケティングリードから創出した、パイプライン額、貢献した売り上げ金額の他に、リードの案件化率をKGIとして設定している。
つまり、マーケティングリードの25%以上が3ヶ月以内にパイプラインにならない場合、いくらパイプライン額、売り上げ額への貢献が大きくても、評価としては高いものは得られない。リードの定義にとどまらず、期待される案件化率まで合意できると、無駄なリードを出さないというマーケティングと営業部門間での共通ゴールを設定できるのだ。
マーケティング部門をデマンドセンター化する
ここで再び、「売上を上げる仕組み」について考えてみよう。
質があいまいな名刺情報を営業部門に渡すだけでは、売上にはなかなかつながらない。重要なのは、案件につながる「いいリード」の定義(質)を明確にすること。そして、「いいリード」の量を増やし、いまあるリードを「いいリード」に育てていく仕組みを作ることだ。定義を明確にし、「売上を上げる仕組み」を回すことが、マーケティング活動の根幹になる。
「いいリード」について、マーケティング部門と営業部門の間で共通認識を持ったら、次にやるべきは、さまざまな活動を通じて得たリードを「評価」することだ。どのチャネルからどんなリードが得られて、その質はどうだったのか。より多くの「いいリード」を集めるために、どのような活動が必要で、その予算や期間はどれくらいか。こうした判断を積み重ねていって初めて、具体的な施策と割くべき予算が見えてくる。
「ロジックの積み上げで施策を考え、予算や期間を明らかにすることで、経営層も適切な投資判断ができるようになるのです」と、山田氏はいう。
同時に、見込みのありそうなリードに関しては、営業担当者が「足で稼ぐ」のではなく、対面以外のチャネルを通じて育成する仕組みも構築する。ここで使われるのが、メルマガやWeb記事などのデジタルコンテンツや、テレマーケティングによるインサイドセールスだ。営業案件に直接結びつかなくても、ニーズが少しずつ成熟していく段階に合わせ、適切にナーチャリングしていく。
マーケティング側で、こうして案件につながるリードを効率的に育てていくことで、営業担当者は最後のクロージングだけを担当すれば良いことになり、無駄な訪問時間や回数を大幅に減らすことができる。
山田氏は「『売る』ための活動を案件化以前・案件化以後で区切り、前者をマーケティング部門、後者を営業部門で担当するような体制を作ると考えれば、わかりやすいでしょう」と説明する。
そして、相手先との接点作りから、案件化直前までのナーチャリングを担当する組織こそが「デマンドセンター」で、BtoBマーケティングのカギとなる。