アクティブではないターゲット顧客を掘り起こす
――最初にデジタル×アナログ実証実験プロジェクトに参加した狙いを聞かせていただけますか?
五十嵐:私どもは、自分の好きな企業やブランドに積極的に関わり、自発的に発言したり、他のユーザへのサポートや推奨を行ってくれる熱量の高いファンを「アンバサダー」として定義し、企業のエンゲージメントを高めていく「アンバサダープログラム」というマーケティング支援を展開しています。
今回の実験では、DMでのコミュニケーションを、アンバサダープログラムのメニューの一つにすることを最終的なゴールとしています。
まずは、アンバサダープログラムを使っていただいている企業様や検討いただいている企業様を対象として、アナログ施策とデジタル施策をかけあわせることでどんな結果が出るかを検証することが実験の目的としました。
当社のクライアント企業に対するコミュニケーションは、これまではメールやWebのようなデジタルツールが中心でしたが、今後アナログのDMも併用することで費用対効果が上がるのではないかというのが狙いです。
また、私どものお客様であるBtoC企業の中には、当社からアプローチしたもののすぐには案件化しなかった企業様もあり、そういったリードナーチャリング対象の企業様に対して、DMなら掘り起こしのアプローチができるのではないかと考えました。
――実験前の計画ではどんな仮説を立てましたか?
五十嵐:今回の実験目的は、あまりアクティブではない営業先企業を活性化することでしたので、当社で年1回開催しているイベントである「アンバサダーサミット」に着目しました。
以前の集客ではメールだけでアプローチしていたのですが、DMを組み合わせると来場者数が増えると考えたわけです。頻繁にコミュニケーションをしているお客様だけでなく、アクティブでないお客様にもっと興味を持ってもらいたいと思いました。
ここでいう「アクティブでないお客様」とは、問い合せをいただいてからの検討が長く続いていて、実際に取引を行うまでには至っていないような方々です。その方々は過去1度もイベントに参加したことはありませんが、連絡先情報は入手できているので、コミュニケーションは可能、という状態でした。
「メールだけ」「メール+DM」「DMだけ」の3グループに分ける
――アクティブでない対象へのDMの効果を証明するために、どんな実験計画を練られたのですか?
五十嵐:手持ちのコンタクトリストを大きく3つのグループに分けました。2,000コンタクトを実験対象とし、内訳は、統制群となる「メールだけを送るグループ」が600、実験群となる「DMとメールの両方を送るグループ」が700、「DMだけを送るグループ」が700としました。それぞれのグループに、概ね3分の1のアクティブではないコンタクトを含むようにしました。
今回送ったメールと昨年のメールとでは、内容自体は大きく変えていません。普段12月の中盤に送っているメールは、年末の挨拶と翌年のイベントを案内する内容のテキストメールになります。挨拶文も堅苦しいものではなく、CMOの徳力が書くカジュアルなものです。一方、DMの方は、表をイベントの案内、裏を季節の挨拶にしました。
鈴木:初めてDMの効果を検証する場合、クリエイティブを控えめにすることと、メールのシナリオ(オファー内容)にできるだけDMを合わせることを勧めています。
受け取った人の印象の混乱を防ぐ意味もありますが、DMとメールのクリエイティブをそろえることで、「DMもしくはメールの、クリエイティブまたはオファーが良かったから効果が出る」事態を回避し、DMとメールのビークルとしての純粋な評価を行いやすくしています。
DMというコミュニケーションビークルの評価が終わってから、クリエイティブやオファーの評価を行うという順番を守ることは計画の肝になります。コストを考えて、つい一度に全部やろうとしてしまう傾向がありますが、学習効果と長期的な成功を得るためには少しずつ検証することがとても重要です。
DMとメール配信は3日くらい空けるのが理想
――DMとメールの配信のタイミングはどう計画しましたか?
五十嵐:DMの投函は12月18日、メール配信は12月20日でした。おそらく翌日の12月19日にほとんどの人の手元に届いているはずです。DMのデザインに悩んだことが影響し、12月の曜日の並びの関係で、年末年始にかかってしまいました。
鈴木:DM到着とメール配信には、できれば3日ぐらい間を空けたかったのが正直なところです。
今回は時間の制約でできませんでしたが、DMの印刷でも、設定次第で、宛先やクリエイティブ要素、レイアウトを自由に変えることができます。Webと同じように、個人宛に自動的に全部カスタマイズして送ることもできるので、次回以降に試してもいいかもしれません。コンテンツだけでなくタイミングも個人単位でカスタマイズすることが、将来的に目指すべき方向性になるでしょう。
――DMを受け取った人向けのランディングページはどんなものにしましたか?
五十嵐:イベント申し込み登録のページに直結させてもよかったと思っていますが、インセンティブ提供のために、資料のダウンロードページにしました。
この機会に訴求したいこともありましたし、何のインセンティブもないと申し込みのページにアクセスしてもらえないかもしれないと思ったのです。ファーストビューでイベント申し込みのバナーがあってもよかったかもしれません。
鈴木:メールの中には申し込みページへのリンクがあるのですが、DMの場合は申し込みに至るまでに資料のダウンロードページを経由する必要があり、導線に違いが生じました。対照実験としての厳密性という意味では、本来はどちらかに合わせた方がいいですね。
DMとメールの組み合わせでイベントの申し込みは2倍に
――実験の結果はどうなりましたか?
五十嵐:評価指標は「メール開封」「Webサイトへのアクセス」「イベント参加申し込み」「イベント参加」の4つです。イベントは2月1日に開催予定ですから、最終評価はこれからになります。
年始の1月4日に確認したところ、CVRである「イベント参加申し込み」率は、メールだけを送った昨年が9%だったのに対し、今年は全体では10%と大きな違いはありませんでした。
ところが、各グループの内訳を見ると、メールだけを送ったグループが9.18%なのに対し、DMとメールを両方送ったグループは17.8%、DMだけを送ったグループは4.8%となりました。DMとメールの掛け合わせによる申し込み増加が顕著だったのです。
その後も受付を続けましたが、今年は席数を増やしていたにもかかわらず、イベント2週間前に申し込みを締め切らなくてはならなかったほどでした。
鈴木:この結果はほぼ予想通りでした。BtoBかBtoCかを問わず、様々な企業と実験してきた経験からいって、DMとメールを組み合わせると効果は最低でも倍になることがわかっています。
ただし、結果を出すには順番が大事です。最初にDMを送り、その後1週間以内にメールを送るのが最も効果があります。
なぜかと言うと、メールの内容は忘れてしまっても、DMは1週間程度なら覚えているからです。覚えているところにメールが来るので効果がでます。逆ではダメなのです。
それから、DMの場合、QRコードを読ませないといけないところが面倒ですが、後から来たメールにリンクがあれば、クリックだけで済む。アナログの良さは、手元に残ることで効果が持続することなのです。効果が続いているところに、アクションが容易なメールが届くと、一気にCVが進みます。
――中間指標の結果はいかがでしたか?
五十嵐:中間指標である、ランディングページへのアクセス率は、メールだけのグループが27%なのに対し、DMとメールを両方送ったグループは47%でした。一般ユーザーに送っているわけではないため、元々アクセス率はかなり高く、メールだけを送った去年も40%弱ありました。
鈴木:DMを組み合わせると申し込みが倍近くになるのは、DMが単にアクセスを量的に増やしたというだけでなく、質的にも改善したからではないでしょうか。DMを受け取ってランディングページにアクセスしたセグメントは、気軽にアクセスしたというより、意思を持ってアクセスしているのかもしれません。正確なところは、アンケートを採って検証する必要がありますが、十分に考えられることです。
DMが与える「丁寧な印象」が突破口に
――申し込みをしたお客様の内訳に変化はありましたか?
五十嵐: アンバサダープログラムは特定の業種に限定するものではなく、業種も多種多様です。はっきりと数字に出たわけではありませんが、東京から離れた地方からの申し込みが若干増えたように見えます。私どもがフォローしきれていない地方のお客様に思い出していただけたのかもしれません。
実験をやってみて気がついたのは、DMの送付がリスト整理の機会になることです。メールの場合は、転職してしまった方には届きませんが、DMならば返送されたり、同じ部署の方から異動の連絡をいただいたりすることがあります。後者の場合、新しい担当の方にコンタクトする機会にもつながります。
鈴木:DMは丁寧な印象を与えますね。BtoB企業の場合、テレアポの壁が高いのですが、DMにはその壁を突破する力があるといえるでしょう。リストの整理については、キャリアメールを使わない人が増えているので、BtoC企業でも副効果につながるかもしれません。
アンバサダープログラムのメニュー化実現まで実験を継続
――実験の全体を振り返って、ポイントとなるのはどういったことでしょうか?
鈴木:BtoBかBtoCを問わずDMとメールを組み合わせた方が最大のROIを得られるということです。それから「DMが先でメールが後」の順番を守って実験することの重要性は強調しておきたいですね。
実験を支える仕組みづくりについては、ターゲット抽出から評価指標のモニタリングをOne-to-Oneでできるようにデータドリブンな環境を準備し、良かったところと悪かったところを検証できるようにする必要があります。将来的には、MAなどを活用して人手を介さずに自動的に配信できる環境を使えるようになるでしょう。
顧客とのエンゲージメントを大事にしたいならば、ぜひ「手紙」を試してほしいですね。
五十嵐:はじめての経験だったこともあり、実験のための理想的な条件づくりについては妥協した部分もありますが、支援していただいたおかげで、費用対効果の高いイベント集客を行うことができました。
ゴールはアンバサダープログラムのメニューとしてDMを組み込むことなので、その実現のためにも、今回の実験で得たデータを活かしていきます。引き続き、DMが私どもの日常的な営業活動にどう貢献できるかを検討し、アンバサダープログラムを実施いただいているBtoC企業のお客様が日常的に活用できるところまで実験を続けるつもりです。