コミュニケーションの最適化だけがマーケじゃない
――菅原さんの寄稿「あなたは気づいているか?2018年マーケターが捉えなければならない5つの潮流」は読者の大きな反響をよびました。「これからのマーケターに重要なのは自らビジネスを創る力である」というメッセージが印象的です。
菅原:いまのマーケターはビジネスモデルに無頓着すぎるのでは、という危惧があるんです。メーカーの場合、「作られたものをどう売るか」だけがマーケティングになっていることも多い。コミュニケーションの最適化にマーケターの仕事が限定されている状況を変えられないかと。
堀内:これまでのデジタルマーケティングは、「広告宣伝の配信ログを貯めてROI改善することがデータ活用」いう文脈が主流でした。でも、どんな人が顧客なのかを理解し、顧客が商品を購入したあとにどんな風に使うかを知り、次の商品開発を成功させることも、データ活用の重要な側面です。マーケットインのアプローチでイノベーションを起こすことも、デジタルマーケティングの一環であるべきです。
――理想としてはデジタルマーケティングをプロダクト改善にも拡張すべきだとして、日本のデジタルマーケティングの現状をどのように捉えていらっしゃいますか。
菅原:マーケターの方には「マーケティングという仕事をもっと広く捉えてほしい」と言いたいんです。
デジタルの意義は、リアルではわからなかったことが定量化できるようになったことにあります。広告効果を定量的に評価することで、たとえば500億円の宣伝予算を20%を削減できるとなれば大きなインパクトがある。
しかし、広告宣伝コストの効率化で終わらずに、データを使って商品を改善するところにまで踏み込むべきなんです。製造業なら製造に、サービス業ならばサービスづくりにマーケターは関与すべきです。製造や開発そのものはやらないとしても。
堀内:トレジャーデータのお客様は、当初はゲーム会社やWebの会社のような「デジタルメーカー」が多数派でした。「デジタルメーカー」企業にとっては、カスタマーデータプラットフォーム(以下、CDP)で得たデータをもとにプロダクトを改善するのは当然のことですが、伝統的なメーカー企業にとっては必ずしもそうではないかもしれません。
ところが、一昨年頃から資生堂さまのようなリアルの商品を扱うメーカーを支援させていただくことが増えてきました。センサーから取得したデータを活用しようという気運も高まりつつあります。それも、故障予測のような使い方にとどまらず、プロダクトの改善にまで活かせるようになってきています。
菅原:そうなるとマーチャンダイジング(商品政策)のあり方も変わる。たとえば、誰が何時に何を買っているかがわかれば、自動販売機でも周辺住民の需要が予測できるわけです。
マーケターはブランド価値を司る指揮者を目指せ
――プロダクト開発に領域を広げていくとなると、いわゆる「宣伝部員」ではなく「マーケター」になる必要がありそうです。宣伝部員とマーケターには、どんな違いがあるんでしょうか。
菅原:宣伝部員は宣伝が仕事なので、マーケティングのことは考えにくく、商品をどう広めていくかに活動が限られることはあるでしょう。
でも、マーケティングは、ブランドを作るところから始めて、商品に価値をどう落とし込むかを考える「オーケストラの指揮者」に相当する役割です。元P&Gの和田浩子さんが指摘していたように、ブランドという大きな円があり、そこに製造、営業、宣伝などの関係する組織が集まる形が理想であり、その全体をまとめあげるのがマーケターの仕事でしょう。
――マーケティング・オーケストレーターに求められる要件はどんなものでしょうか。
菅原:イノベーター気質で一貫して新しいことに取り組むことができる人。そして失敗を糧に改善できる人。そういう人は稟議の時も経営の説得のやり方がうまい。
たとえば、最初から売上アップはコミットできないですよ。でも、コスト削減をリターンとしてROIを計算すれば稟議が通りやすい。その意味では、財布を握っていて投資がうまい経営者のような人かな。
堀内:組織運営も大事ですね。たとえば、戦略立案からデータ分析までをすべて一人で行う必要はないです。テクノロジーに詳しくないならば、詳しい人を連れてくればいいし、相談できる人が近くにいればいい。要するに、組織運営のオーケストレーションができればいいのです。
菅原:この施策をやればこうなるというビジネスインパクトに対する勘の良さも大事ですね。