「購入理由」が劇的に変化
この数年で消費が変わった。購入を左右するのは「景気」以上に「生活者の購入理由の変化」である。そう実感した企業は多かったのではないだろうか。この大きな潮流を捉えずして、偶然に生活者があなたの企業の商品を選ぶことはなくなった。この潮流はメーカー、サービス、プラットフォーム、メディアというそれぞれのカテゴリーにおいて共通の変化だ。そしてBtoC、BtoBどちらも問わない。
この大きな潮流の中マーケターは企業の内外で中心に立ち、新たに発生する多くの意思決定を行う必要がある。マーケティングは企業にとって今まで以上に重要性を増すことになるだろう。
本記事ではこの潮流の理解促進および皆さんが進むべき道のヒントが得られる5つの話を用意している。
この5つはそれぞれが独立し、古くから言われていることである。しかし2018年はこの5つがそれぞれに大きくなり、それぞれが相互に関連し我々の仕事への影響度合いを増していく。内容は5つのパートにわかれているが「現代の生活者」という大きな意味合いで捉えてほしい。
1:生活者が買う理由(=抱えたジョブ)の解明
生活者が商品を買うのは企業が考えるようなデータに基づいて買っているわけではない、とベストセラー『ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』の著者クリステンセン氏は自らの経験をもとに語っている。
たとえばクリステンセン氏は64歳、身長203cm、靴のサイズは32cm、子供を大学に進学させボストン郊外に住んでいる。通勤はホンダのミニバンなど他にも多くの特徴や属性があるが、ニューヨーク・タイムズを買う行動をしたのはこれら特徴からではない。これら特徴が新聞や他のあらゆる商品を買わせているわけではない。
ある日、ニューヨーク・タイムズを選んだのは医者の予約時間の時間つぶしかもしれないし、バスケットボールの記事を読みたかったのかもしれないし、まわりに博識と思ってもらいたいからかもしれない。その商品をその時に選ぶ理由は多様である。
企業側はその理由をデータが説明してくれると思っている。つまり地域の郵便番号や世帯収入の中央値が買う人だと思っているが、実際に生活者がその商品を買うのはそうしたデータに基づく特徴からではない。
今までとは違う生活者の捉え方のため難解に感じる方もいるだろうが、シンプルに理解するためにジョブ理論というコンセプトがある。クリステンセンの本でもW・エドワーズ・デミングの以下の言葉が引用されている。
「正しい質問の仕方を知らなければ、何も発見することはできない」
「どんなジョブ(用事・仕事)を片付けたくて、あなたはそのプロダクトを“雇用”するのか?」
事の大小はあれど、ジョブは必ず存在する。ミルクシェイクでさえ解決できるジョブをもっている。もし今より多く売るためには顧客に改善点、価格、量、チョコレートの濃さを聞いたとしてもそれは質問が間違っているのだ。
ジョブを知るためには、「来店客の生活におきたどんなジョブが、店に向かいミルクシェイクを“雇用”させたのか」という問いが重要となる。実際に顧客は朝の会社への通勤時間の暇をつぶすため、スニッカーズではなくどろっとして飲み終わるのに時間がかかるミルクシェイクを好んで雇用していた。
ジョブ理論の本はイノベーションをテーマに書かれているため、マーケターが手に取る本ではないと思っているのならば、それは大きな誤解だ。
生活者は、日々発生する煩わしい課題を解決するために商品を「雇用」している。これはどんな商品にも当てはまるし、あなたの商品の競合は同様の商品ではなく、今までとは違う予想だにしないものなのかもしれない。