米国におけるテレビデータ活用最新動向
――日米におけるメディア環境の違いについて教えてください。
劉:やはりメディアの世界ではアメリカが世界の先端を走っていますね。そもそも、まずは視聴者の視聴態度が変わっているから、広告業界も動くんです。
広告ビジネスは、視聴者のアテンションを買うビジネスです。1日24時間の中で、メディア接触時間は5~6時間のはず。その限られた時間の中でどれだけ媒体を見てもらって、どれだけ広告に接触するかによって、どれだけマネタイズできるか決まるんです。
それが米国においては、視聴時間がどんどんデジタルにシフトしています。テレビの内訳をみると、徐々に地上波やライブがシュリンクしていて、代わりに録画視聴やNetflixなどのOTTが増えています。米国ではすでに、OTTとタイムシフト視聴が全体の2割を占めています。2割を占めるものが測定できないのは、ちょとマズいですよね。そういう世界になってきているのです。
日本はまだそこまでの比率には達していませんが、録画視聴は確実に増え続けています。今年の4月からは、日本でも民放5局のテレビスポット広告の取引指標が、世帯視聴率から個人視聴率に変更になり、またタイムシフト視聴率も加味されますよね(関東圏のみ)。
米国では7~8年ほど前にはすでにC7/C3という指標が導入されており、数年のタイムラグがありますが、米国で起こっていることはその後にだいたい日本でも起こります。そういった意味で、まず我々は米国で事業を展開して、そこで培った知見を日本を含めて各国に展開をしていくと。そのように事業展開を進めています。
C7:番組放送7日後までのタイムシフト視聴(CMのみ)の平均視聴率
C3:番組放送3日後までのタイムシフト視聴(CMのみ)の平均視聴率
――米国ではテレビデータの活用がどの程度まで進んでいるのでしょうか。
劉:私たちの米国のクライアントは、ネットワークやOTTなどのメディア、ブランドや代理店、データカンパニーと大きく3ジャンルに分けられます。
OTTのようなプロバイダーなどのメディア企業は、主に営業の資料としてデータを活用しています。視聴率が高い番組ほど売りやすいのですが、視聴率は年々下がりつつあります。その中で視聴率だけではなく、視聴の質も使ってきちんと番組の価値を伝え、広告枠を売っていこうという流れになってきています。
一方で、番組の編成・作成にも使われています。今までは番組の放送前に、一部のサンプル視聴者を集めて番組を見てもらっていたのですが、サンプル数は限られコストもかかっていました。そこで実際に番組を放送した際に、お茶の間でのリアルな反応をデータとして取得し、メタデータと突き合わせることによって、「番組のこのシーンが見られている」「このシーンがアテンションが高い」といったことを分析しています。
ブランドや代理店においては、メディアプランニングと広告のクリエイティブの改善にデータをご活用いただいています。今までは視聴率と視聴質、双方のデータを活用して出稿する枠を選定しています。例えばマイクロソフトさんは、通常のメディアプランニングへのデータ活用に加えて、プロダクトプレイスメントの効果も我々のデータで計測しています。
また我々のデータを使うと、接触回数によりアテンションがどのように変化していくのかも追えるので、飽きられる広告と飽きられない広告の違いがわかります。より良いテレビCMを作るために我々のデータを活用されているのです。
米Googleや米Facebookは、彼らと我々のデータをくっつけて、他社へ販売していくようなビジネスも展開しています。

――どういうクリエイティブであれば視聴者の目を引くのか、最後まで見られるのかといた知見やデータが御社には溜まっていると思うのですが、そのようなノウハウをクライアントへ提供したりするのでしょうか。
劉:もちろん弊社にもある程度の知見はありますが、広告主が持つ様々なメタデータと我々のデータを組み合わせて分析してこそ、本質が見えてきます。
例えば、どのタイミングでどのキャラクターが出てきて、どんな音楽が流れたのか。どんなロゴを出したのか、といったメタデータです。そこに我々のアテンションデータを重ね合わせて、マシンラーニングをしていくとパターン化ができるのです。
そこから最初にロゴを出して、こういうシーンだと比較的アテンションが上がりやすいとか、こういった音楽を入れるとアテンションをキープしやすいといったルールを見つけていき、クリエイティブエージェンシーの方とコミュニケーションを取って、テレビCMを作っていくのです。
――自社のデータと掛け合わせるのが有用だということですね。
劉:そうですね。我々は細かいメタデータは持っていないので、クライアントと我々のAI値と掛け合わせることでより精緻な分析が可能になるのです。
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